「ふんふふーん」
ロザリーは鼻歌を歌いながら、テーブルの上の花瓶に僕が贈った花を活けている。かなり上機嫌のようだ。
「ラインきゅん。今から紅茶入れるから座って待っててね」
僕はロザリーに勧められるがまま椅子に座り、紅茶が出来上がるのを待つことにした。
ロザリーの部屋に来るのは二度目だが、なぜかこの空間は落ち着く。人の家というのはあまり落ち着かないものだが、不思議なものだ。
ロザリーが二つのティーカップとティーポットをトレイに乗せて持ってきた。紅茶の茶葉の香りがここまで匂ってくる。いい香りだ。
「ラインきゅん。紅茶淹れたよー飲んで飲んで」
「ああ。頂くよ」
僕はロザリーの入れてくれた紅茶を口に含む。ロザリーが一生懸命淹れてくれたのかとても美味しく感じた。
「ロザリーとても美味しいよ。紅茶を淹れる才能があるんじゃないか?」
「本当? 嬉しいなー」
ロザリーは僕に褒められて笑顔になった。本当に可愛い笑顔で癒される。ここで僕はふと気になった。
「そういえば、ロザリーって普段はそういう笑顔見せないよね。団にいる時はいつも気を張っているというか、険しい表情をしているよね?」
「えー? ロザリーだって笑う時はあるよ? 勝利を皆とわかちあった時とかに」
「んー。そういうじゃないんだよ。あの笑い方は豪快で何というか姉御って感じだけど、僕が見ているロザリーの笑顔はとても無邪気で子供っぽくて可愛らしい感じなんだよ」
ロザリーは笑顔がとても素敵だ。ロザリーは普段からもっと可愛らしく笑えばいいのにと僕は思った。
「んー、きっとロザリーのその笑顔はきっとラインきゅんのための笑顔なんだよ。だからこの顔はあんまり他の人に見せたくないかな」
僕のためだけの笑顔……そういう風に言われるとなんだか急に特別な感じがしてきた。とてもいい響きだ。ロザリーの特別な笑顔を独占したくなる。
ロザリーは自分の紅茶をふーふーと吹いて紅茶を冷まそうとしている。相変わらずの猫舌のようだ。僕が紅茶を飲み終わっているのにまだ口を付けていない。
◇
ロザリーが紅茶を飲み終わった頃、丁度僕に眠気が襲ってきた。ロザリーのベッドは大きくて二人分の寝るスペースがあるけど流石に男女で同じベッドに寝るわけにはいかないか。この前お見舞いに来たときと同じように僕は床で寝ることにしよう。
僕が床で寝転がるとロザリーは頬を膨らませる。
「もう、何でラインきゅん床で寝るの! ダメ! 今日はラインきゅんはロザリーと一緒のベッドで寝るの!」
「え、ちょ、いきなり何言い出すのロザリー。一緒に寝るって……」
僕の顔が熱くなる。流石にロザリーと一緒に寝るのはその……良くないと思う。自分の団の団長に手を出すなんてそんなことは……
「あ、言っておくけど変なことはしちゃダメだからね! 添い寝だけ! 添い寝だけだから」
念を押されてしまった。そうか。ただの添い寝か。僕は思わず変なことを想像してしまった自分を恥じた。でも仕方ないんだ。それが男の性というやつなのだから。
「その……この前は床で寝かせちゃってごめんね。あの時はロザリーは風邪ひいていたから、添い寝したらラインきゅんに風邪がうつるかと思っちゃって」
ロザリーはベッドの上に寝転がった。そして、端っこのように寄る。
「ラインきゅん、来て……」
僕は生唾をごくりと飲み込んだ。ロザリーと添い寝をするなんて初めての経験だ。今まで何度かロザリーを抱きしめて体を密着させてきたことはあったけど、場所がベッドの中に移るだけでこんなにも違うものなのか。
僕は意を決してロザリーのベッドの中に潜り込んだ。ロザリーが普段使っているベッドのせいなのか彼女の匂いがする。少し乳臭い香水の匂いがしみ込んだベッドが僕の鼻孔を擽る。
僕は自分の心臓の音が高鳴っているのを感じた。どうしよう。物凄いドキドキする。僕の心臓の音がロザリーに聴かれやしないかと心配になる。何だろうこの感覚。顔が熱くなって頭がボーっとする。
僕が硬直している間にロザリーが僕の胸板に顔を埋めて来た。
「ふふ。ラインきゅんの心臓の音が聞こえる。いつもより早いんじゃない? ロザリーでドキドキしてるの? 全く、自分の団長に心を乱されるなんてラインきゅんもまだまだ修行が足りないね」
何故だろう。ロザリーに主導権を握られている気がする。何か僕だけが一方的にドキドキしているみたいで癪に障る。
「ロザリーだって本当はドキドキしてるんじゃないのか?」
僕は精一杯の抵抗としてロザリーにカマをかけてみた。するとロザリーはとんでもないことを言い出す。
「ロザリーがドキドキしているかどうか……確かめてみる? ラインきゅんだったら触ってもいいよ」
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