予選が終わり、本選のトーナメントは明日行われることになった。僕は予選最後の試合に負けてしまい、出場することが出来なくなった。後は、ロザリーに託すしかない。彼女が優勝しなければ、水龍薬を取ることは出来ないのだ。
「ライン。大丈夫か?」
敗北を喫した僕に対して、ロザリーが心配をしてくれた。
「ああ、大丈夫だ。まだ少しじんじんとするけど、痛みはかなり引いている」
僕はクローマルに叩きつけられた腹部を抑えてそう言った。みね打ちとは言え鉄塊を腹部に叩きつけられたら相当なダメージを負ってしまう。最悪内臓が破裂することもあるだろう。そうならないってことは、クローマルはある程度手加減をしてくれたのだと思う。彼のパワーなら僕を殺すのには十分すぎる程の力があった。
雷を操る剣士クローマル。恐らく彼が最も注意しなければならない相手であろう。後のメンバーは予選を見る限り全員ロザリーより実力は下であった。
「それにしてもずるいよね。クローマルって! あの雷がなければ絶対ラインが勝ってたよ!」
ルリが憤慨している。確かにあの雷さえなければ、僕が勝ててたと思う。けれどそれは、たらればの話だ。クローマルは雷の力を使わなくても十分すぎる程強かった。実際、僕と戦うまではあの力を使ってなかったし。彼の真の実力を引き出せただけで良しとしよう。
「そうだ。ロザリー。プレゼントがあるんだ」
予選が終わった後、ルリにある物が売っている店の場所を訊いた。そして、その店でブレスレットを購入して、ロザリーにプレゼントすることにしたのだ。
「え? な、何で。もう! ラインは私を喜ばせることばっかりして!」
急なプレゼントにロザリーは狼狽えているようだ。そこまで喜んでもらえたのならプレゼントをした甲斐があったというもの。
「明日の剣術大会、それを付けて出場して欲しいんだ」
「ああ。わかった。キミの頼みなら受け入れよう」
さて、僕はもう自分に出来ることはした。後は、ロザリーに頼るしかない。衛生兵時代はずっとそうやって生きてきた。けれど、騎士となった今では一緒に肩を並べて戦えないのが非常に悔しく思える。僕ももっと強くならないとな。
◇
翌日、剣術大会本選が開かれることになった。予選を勝ち抜いた八名が集まった。そして、決勝トーナメント表が発表された。本選第三試合がロザリーで、第四試合がクローマルだった。つまり、二人共順調に勝ち進めば、この二人が準決勝で当たるということだ。
「まあ、ロザリーとクローマルの戦いが実質の決勝戦みたいなもんだねー。後の六人はおまけみたいなもんだしー」
ルリは頭の後ろで手を組んでそう言った。まあ、実際そうかもしれないな。
「第一試合、イタチ選手とシシオ選手前に」
二人の男性剣士が前に出た。二人共使用している武器は刀。まあ、東洋ならそうか。レイピアとクレイモアを使ってる人間なんて僕とロザリーくらいしかいないだろう。
「始め!」
二人共実力は互角だった。激しい攻防の末、イタチ選手が辛勝し勝ち進むことになった。
続く第二試合も特に見所もなく決着がついた。ロザリーとクローマル以外は正にドングリの背比べと言った感じで実力に大差はないだろう。
「第三試合、ロザリー選手とマシラ選手前に」
ついにロザリーの番が来た。ロザリーの相手は猿顔で少し毛深い男のようだ。
「貴殿がロザリー殿か。予選での活躍見事であった。ぜひお手合わせ願おうか」
「ああ。よろしく頼む。いい試合にしよう」
「始め!」
マシラは開始の合図早々、軽やかな身のこなしで思いきり跳躍した。その跳躍力はとても高くて、ロザリーの身長を飛び越える程だった。
「なんだと!?」
その身のこなしに驚いたロザリー。ロザリーを飛び越えたマシラは、ロザリーの背後から刀で攻撃しようとする。しかし、ロザリーはすぐに向き直りレイピアで刀の攻撃を防いだ。
「くくく。本選まで取っておいたこの技を躱すとはな。流石ロザリー殿。そこらの有象無象とは格が違うな」
クローマルが雷の力を隠していたように、まだ実力を隠している者がいたのだ。マシラ。この軽い身のこなしは厄介な相手だ。
ロザリーは素早い動きでマシラに斬りかかる。しかし、マシラは思いきり前転をして攻撃を躱す。正にアクロバティックな動き。捉えるのが難しいであろう。あのロザリーが翻弄されるなんて。あの猿顔ただものじゃない。
その後もマシラはアクロバティックな動きでロザリーを惑わす。しかし、ただロザリーもやられっぱなしではない。
「そこだ!」
ロザリーはマシラの喉元にレイピアを当てた。その威圧感にマシラの動きが止まった。
「な……何故、私の動きを捕らえられた」
「最初は変な動きに戸惑っていたが、何のことはない。私の目を持ってすれば十分捉えることは可能な動きだ」
「ふ……流石はロザリー殿。剣の腕だけではなく、いい目をお持ちである。私の負けだ」
「マシラ選手敗北宣言につき、勝者ロザリー選手!」
ロザリーが見事に勝利をした。
「おめでとうロザリー。格好良かったよ」
「そ、そうか」
僕が褒めるとロザリーはわかりやすく顔を真っ赤にする。こうなってくると格好いいというよりは可愛い存在だ。
「続いて、クローマル選手とソウル選手前へ」
「もう実力を隠す必要もない。本気でいかせてもらう」
クローマルがイキり出す。それに対して、ソウル選手は無言を貫く。無視されたクローマルの表情はどことなく苛立っているようだ。
「始め!」
青白い閃光と共にソウルは倒れた。勝負は本当に一瞬でついた。
「勝者、クローマル選手!」
やはり、クローマルの雷はかなり厄介だ。最早、剣術大会の意味を成していないほど、雷が強すぎる。
初戦の四試合が全て、終わり次は準決勝だ。予想通りロザリーとクローマルが戦うことになった。ロザリー……勝ってくれよ。
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