女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

50.紅獅子騎士団

公開日時: 2020年10月8日(木) 23:05
文字数:2,007

 ウェアウルフ達が目前に現れた。大将を中心に魚鱗の陣を組んでいる。ロザリー一人を仕留めるために大層な陣形を組んだものだ。


 ウェアウルフのリーダーが攻撃指示を出すと一斉にウェアウルフ達がロザリーに襲い掛かってくる。この広い地形では数が多い方が有利だ。障害物がない状況ではすぐに取り囲まれてしまう。


 ウェアウルフ達は僕とロザリーを中心に円形の形で迫ってくる。この状況ではもう僕も逃げられないだろう。


「ライン……どうして逃げなかった。もう手遅れだ」


「僕も騎士団の一員として逃げるわけにはいかない。ロザリーを見捨てるわけにはいかないんだ」


 僕は腰に帯刀していたナイフを取り出した。騎士達が持っている剣に比べたら心もとない。ただの護身用というかお守りに持っていただけの簡素な武器である。


「全くバカだよラインは……こんな私のために命を張るなんて」


 僕とロザリーは背中合わせになってウェアウルフ達に睨みをきかせる。お互いがお互いの背中を守る。完全にこちらが不利な状況だけど、僕達はただで負けるつもりはない。


 僕の後ろで大きな雄たけびが聞こえる。一体なんだ。この夜遅くに……この声は聞いたことがある。紅獅子騎士団の皆の雄たけびだ!


 馬の蹄が草原に強く踏み抜く音が聞こえる。馬の嘶きと共に紅獅子騎士団の皆がやってきたのだ。


「ロザリー! 助けに来たぞ!」 「おい! ライン! お前何ロザリーと二人きりになってんだ! 後で話聞かせろよ!」


 ロザリーは紅獅子騎士団の皆を見て目が潤んだ。


「み、皆。一体どうしてここに」


 ウェアウルフ達は後方から来た紅獅子騎士団に対応出来ずにいた。魚鱗の陣は後方からの奇襲を全く想定していない陣形だ。僕とロザリーと紅獅子騎士団に挟み撃ちにされる形になったウェアウルフ達は逆に追い詰められていく。


「ライン! 私の傍を離れるなよ! この戦いを勝ち抜き、必ず生きて帰る!」


「ああ!」


 ロザリーが華麗な動きでウェアウルフの動きを捌く。夜行性で戦闘能力が増しているウェアウルフでも、ロザリーには勝てない。複数がかりで襲い掛かるもロザリーは状況に応じて回避に集中したり、攻撃したりを切り替えて的確に一匹ずつウェアウルフを処理していく。


 一方で紅獅子騎士団も完全にウェアウルフ達に不意を突いた形になったので、勝敗は火を見るより明らかだった。


「ライン兄さん直伝の剣技を食らえ!」


 アルノーが敵のリーダーの心臓を突き刺した。突き攻撃をしたときに生じた風の余波が周りのウェアウルフ達を吹き飛ばす。


 リーダーがやられて、風で陣形を崩されたウェアウルフ達は完全にパニック状態になった。統率が取れていないウェアウルフは最早ただの犬でしかない。紅獅子騎士団の敵ではなかった。



 戦闘終了後、アルノーは敵のリーダーを倒した功労者として胴上げされていた。


「やったなアルノー! お前敵将討ち取ったじゃねえか!」 「お前はやってくれる奴だって信じてたぞ!」


 皆がアルノーを称賛する。新人騎士だった彼も最早この騎士団にとってなくてはならない存在になったであろう。


「ロザリー。ライン。大丈夫ですか?」


 クランベリーを連れたジャンが僕達の元に駆け寄ってきた。


「ジャン。助かった。一体どうして私達の居場所がわかったんだ?」


「それはですね……」


 ジャンがクランベリーの鼻先を撫でる。それに対してクランベリーは尻尾を振る。


「クーちゃんのお陰です。彼がウェアウルフ達の気配を感知してくれたお陰で騎士団の皆をたたき起こして出陣することが出来ました」


「そうか……クランベリー。助かった。ありがとう」


 ロザリーもクランベリーの頭を優しく撫でた。犬嫌いだったロザリーが嘘のように犬に慣れている。苦手を克服してくれたようで良かった。


「優秀な団員達がいてくれて私は本当に果報者だな」


「何言っているんですかロザリー。貴女が自分がいない時の指揮は全て私に任せると予め決めておいてくれたお陰です。だからこそ、皆が私の指揮に従って動いてくれて駆け付けることが出来た。もし、有事の際の決め事がなければ私達はただ手をこまねくことしか出来なかったでしょう」


「ああ。そうだったな。キミを臨時の指揮官にして正解だった」


 僕は後ろから嫌な気配を感じた。突き刺すような視線。あふれ出る殺気。決して僕を逃がしはしない逞しい腕に掴まれる。


「よお。ライン。お前こんな夜中にロザリーと何してたんだ?」


 ロザリーに恋い焦がれる騎士達が僕を掴んで離さない。まずい。このままでは僕は彼らに半殺しにされてしまうであろう。


 僕はロザリーに助けを求める視線を出す。彼女もそれに気づいた。しかし、ロザリーの取った行動は笑いながら親指を上に立てることだった。いや、何も良くないよ。僕このままだとどんな目に遭わされるかわからないよ!?


 結局、野蛮な騎士達による僕の尋問は一晩中続いた。どれだけ言い訳しても決して帰してはくれない。屈強な騎士達には敵わずに僕はこってり絞られたのであった。

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