女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

119.雪女の正体

公開日時: 2020年10月25日(日) 22:05
文字数:2,133

「ヒスイ大師! 大変です。ラインが雪女に攫われたのかもしれません」


 ルリがそう告げると、ヒスイ大師は両手を合わせて天を見上げた。


「お気の毒だけれど、彼はもうこの世にいないのかもしれんな。雪女に魅入られた者は帰って来ない。それはこの地に伝わる伝説」


「そんな……! どうしてそんな簡単に諦めるんですか! 何か雪女に関する手がかりはないんですか?」


 私は藁にもすがる思いでヒスイ大師に懇願をした。しかし、ヒスイ大師は首を横に振るだけであった。それが全てを物語っている。


「過去に何人もの男達が雪女に攫われたわね。彼らの家族はそれはもう必死になって探した。中には二重遭難で帰って来なくなった者もいた。それでも雪女は見つからなかった。その意味がわかるかね?」


 嫌だ。諦めたくない。ラインがいない世界なんてこれからどうやって生きていけばいいんだ? そんなの考えたくない。私はいてもたってもいられずに駆けだした。


「え? ちょ、ちょっとロザリー何処行くの?」


 ルリの声が聞こえたが無視をした。


 私は本堂を飛び出して、宿舎の方へと向かう。ラインが泊まった部屋にもう一度行ってみよう。何か手がかりがあるかもしれない。


 私は再び、ラインがいた部屋に足を踏み入れた。血なまぐさい臭いがする。血が飛び散っていることから戦闘があったことは間違いない……


 私はラインの持ってきた鞄の中を見た。この中に何か手がかりがあるかもしれない。そう思って、鞄の中を漁った。ラインの鞄の中には非常用の携帯食と医療道具が出てきた。確か、ラインはここに来る前に新しい包帯やら何やらを鞄の中に入れてたな。


 あれ? この包帯に使用した痕跡がある。どういうことだ? 私達はここに来るまで怪我をするようなことは一切なかった。なのにどうして包帯が使われているんだ?


 その時、私にはある一つの結論に達した。この包帯を使用した奴は誰か……それは、恐らく雪女であろう。ラインのクレイモアによる一撃を貰った雪女は急いで止血したに違いない。だから、ラインの鞄の中にあった包帯を使ったんだ。


 待てよ……確か、この寺院に包帯をしていた人物が二人いた。まさか彼女達が……!



 私は二人の人物を呼び出した。私がこの寺院に足を踏み入れた時に最初に出会った人物。白っぽい水色の髪のコハクと赤紫色の髪のザクロ。


「私達に何か御用ですか? ロザリーさん」


 ザクロが若干低い声でそう訊いてきた。不満がだだ漏れしていると言った感じだ。


「ああ。単刀直入に訊く。お前らラインをどこへやった?」


 その質問を受けて二人は固まり、ゴブリンのようにずる賢いような表情を見せた。私はその一瞬を見逃さなかった。この反応はクロであろう。


「何言っているんですか? ロザリーさん。ラインさんは雪女に攫われたんですよ? 私達は彼がどこに行ったかは知りませんよ」


 コハクがシラを切る。


「そうですよ。ラインさんがいなくなって苛立つ気持ちはわかりますが、私達に当たらないでくれますか?」


 二人共、自分達が関係ないと誤魔化す気でいるようだ。しかし、私はこいつらが犯人だと確信をしている。


「実はな、ラインの包帯に使用された痕跡があるんだ。雪女はラインの一撃を受けた後に切り傷を止血するために、ラインの包帯を使ったんだ」


「それが私達の包帯だとでも言うの? この包帯は寺院にあった包帯なのよ。ラインさんの包帯なんて知らないわ」


 ザクロは包帯を見せびらかすようにこちらに見せた。


「それがラインの包帯だという証拠はある。紅獅子騎士団の包帯は特殊な素材で出来ていて、赤い色素に触れると獅子の模様が浮かび出る。つまり、血でまみれたその包帯を見れば、ラインの包帯かどうかはわかる。包帯を見せてくれないか?」


 私の発言に、二人の顔がみるみるうちに青くなる。


「え? う、うそ。あの包帯そんな特性があったの!?」


「いや、そんなものはない。ただ、白状してくれてありがとう」


 私はこの二人をハメるために嘘をついた。騙されたとわかった二人はこちらを鬼のような形相で睨んだ。本性を現したようだな。私はレイピアを抜き構えた。


「くくく、あはははははは!! 面白いねえ。流石異国の地の女騎士団長様。そんな引っ掛け方をするなんて、アンタいい性格してるよォ!」


 ザクロが高笑いを始めた。最早正体を隠すつもりもないようだ。


「ラインの居場所を吐け。そうすれば見逃してやる」


 もちろん見逃すつもりなどない。東洋の妖怪とは西洋で言うところのモンスターだ。異国とはいえ、人間に危害を加えるようなモンスターを見逃しては騎士としての名折れだ。ラインの居場所を訊き出した上でじっくりと嬲り殺してやる。


「こいつ状況がわかってないのかねぇ! 私達は二人なんだよ。負ける要素がないね。むしろ命乞いをするのはそっちの方さね!」


「姉さん。こいつどうします? 殺っちゃいますか?」


「そうだねえ。女を殺る趣味はないけれど、あたい達の秘密を知ったからには生かしておけないね!」


 どうやら戦いは避けられないようだ。二対一。確かにこちらが不利な状況ではある。こいつらはラインが負けた相手でもあるから相当な実力を持っていると言えるだろう。


 しかし、退くわけにはいかない。私は紅獅子騎士団の団長だ! 団員であるラインを守るためなら、何だって出来る!

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