女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

75.両親と再会

公開日時: 2020年10月14日(水) 23:05
文字数:2,105

 村長と挨拶を済ませた紅獅子騎士団は、村の近くに作られた二つの仮設の小屋で寝泊まりすることになった。とても簡素な作りで狭くて騎士団の皆が雑魚寝する程度のことしか出来ない。


 二つの小屋があって一応男女が分かれているだけマシか。流石にロザリーやキャロル等をむさ苦しい野郎騎士と同じ部屋で寝泊まりさせるのは可哀相だ。


 まあ、僕はあの小屋で雑魚寝するつもりはないからいいんだけどね。僕には実家がある。任務中はそこで寝泊まりをする予定だ。勿論ロザリーには許可を取ってある。


「私もラインの実家に行ってもいいか? キミのご両親にご挨拶がしたい」


「うん。いいと思うよ。僕の両親もきっと歓迎してくれると思う」


 ロザリーの提案を僕は受け入れた。両親はロザリーのことを知っているが、実際に会うのは初めてだ。子供の頃に同じ師匠の所で剣を学んでいた妹弟子だったことも話してあるし、僕が大人になってからも手紙でロザリーが団長になったことを告げてある。


 実家までの道中、ロザリーがふと「のどかでいい村だな」と呟いた。僕はそれに対し少し引っ掛かりを覚えた。


「いい村なものか……のどかなのは見せかけだけでここの村人は罪のない少女に酷い仕打ちをしたんだ」


「すまない。キミの気持ちも考えずに……私はずっと王都で暮らしていたから、こういう時間がゆっくり流れているような田舎の光景に憧れていたんだ」


「田舎がそんなにいいのかな……僕の両親も一時期王都で暮らしていたけど、僕が独り立ちしたらこの村に戻って来たし、僕にはこの村の良さが分からない」


 両親は村から追い出された僕を育てるために一緒に村を出てくれた。そのことは非常に感謝している。もし、両親がいなかったら子供一人の力では生きていけずに僕は野垂れ死んでいたか下層階級にいただろう。両親のサポートの元、きちんとした教育が受けられたから今の僕がいると言ってもいい。


 僕がきちんと自分で生きていけるすべを見つけてからは、両親は先祖代々引き継いできた土地を手放すわけにはいかないとして村に戻ったのだ。あの二人は王都での暮らしが合わなかったみたいだし仕方ないと言えば仕方ないか。


 久しぶりに立つ実家の扉の前。昔は何の気兼ねもなく、出入りしていた扉なのに今日はやけに重苦しく感じる。僕は緊張しながら扉をノックしようとする……が、どうしても手が震えて動かない。どうした……たかが、実家の扉じゃないか。なのに、何でこんなに非日常的な感覚に支配されるんだ。初めてロザリーの胸を触った時だってこんな気分にはならなかったぞ。この扉のガードの肩さはロザリーの胸以上か。


「ライン。そんなに緊張するな。本来実家とは安心できる空間寛げる場所なんだ」


「そ、そうだよね……うん」


 ロザリーに励まされて僕は意を決してドアをノックした。中からこちら向かって歩いてくる足音が聞こえる。そして、扉がゆっくりと開く。懐かしい母親の姿が見えた。


「ライン!」


 母親は涙目になりながら僕に抱き着いてきた。嗚咽を漏らすその姿に、僕の目にも熱いものが込み上げてくる。


「母さん……ただいま」


「もう二度と会えないんじゃないかと思った。良かった……風邪は引いてないかい? ちゃんと食べてるかい?」


「ああ。健康そのものだよ。母さんこそ病気とかしてないかい?」


「私もお父さんも元気だよ。よくこの村に帰ってきてくれたね……」


 さっきまで感じていた重苦しい何かは母さんの顔を見た瞬間に吹き飛んだ。追い出された身としては居心地が悪かったこの村だけど、母さんに会えた瞬間にまるで子供の頃に戻ったような感覚を覚えた。


「ライン。久しぶりだな」


 母さんの後ろから父さんが出てきた。父さんも相変わらず元気なようで良かった。


「父さん……良かった。また会えた……」


「ひっぐ……ライン……良かったな……」


 何故か関係のないロザリーが泣いている。こんなに涙もろかったっけ?


「そちらのお嬢さんは? まさかラインの恋人か? うちの息子がお世話になっております。おい、やったなライン。こんな美人を落とすなんて流石俺の息子だ」


 父さんが変なことを言い始めた。任務中に恋人を連れて来るバカなやつがいるか。常識で考えてくれ。


「違うよ父さん。この人はロザリー。紅獅子騎士団の団長だよ」


「へー。この人がロザリーさんかい。中々の美人さんだね。息子から色々と聞いております。息子は小さい頃から貴女のことばかり話していました。妹弟子が出来たーとはしゃいでいたし、貴女の剣が上達する度に自分のことのように喜んでおりました」


「か、母さん! 余計なことを言わないでくれ」


 恥ずかしくて死ねる。顔から火を噴きそうだ。一方のロザリーは僕の方を見て意味深な笑いを浮かべている。何だ。自分のことを話題に出されてそんなに嬉しいのか!


「改めて自己紹介させて頂きます。紅獅子騎士団団長のロザリーです。ラインは非常に優秀な衛生兵で、いつも私は助けられています。こんなに素晴らしいご子息を育てて下さり、本当にありがとうございます」


 社交辞令とはわかってはいるが、そういう風に褒められるとむず痒い感じがする。


「ささ、ラインもロザリーさんも中に入って。ゆっくりしていってくださいな」

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