女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

130.血を啜るモンスター

公開日時: 2020年10月28日(水) 23:05
文字数:2,179

 僕はクレイモアをユピテルに向かって振るった。ユピテルは帯刀していたサーベルを抜き、その攻撃を防いだ。もう一度僕はユピテルに斬りかかる。しかし、またもやサーベルで攻撃を弾かれてしまう。


「く……」


「ふふふ。私も剣の腕を上げたものだろう。キミに敗れてからもう一度剣の修行を始めてね」


「ライン! どいてろ!」


 クローマルの声が聞こえて、僕は彼の指示に従った。ユピテルから距離を取った瞬間、ユピテルが雷に打たれる。雷に打たれて痺れて動けなくなったユピテル。攻撃を食らわすなら今だ!


 僕は神経をクレイモアに集中させて思いきり振った。全身全霊を込めた一撃を食らえ!


 しかし、次の瞬間ユピテルのマントの一部が蝙蝠に変化して僕の顔面に飛び掛かって来た。僕は思わず、それを振り払おうとして攻撃のチャンスを失ってしまった。


「くそ! なんだこの蝙蝠は!」


 蝙蝠に悪態をついたところでしょうがない。これも奴の能力の一部なんだ。


「ふふふ。流石に二対一は不利なようだね。ならば、私の真の力をお見せしようではないか」


 ユピテルはそう言うと自分自身の左手の手首に思いきりかぶり付いた。何だ? この自傷行為に何の意味があるんだ?


 するとユピテルの体がみるみるうちに変化していく。肩甲骨が大きく張り腕も肥大化していく。肌の色も灰色に変貌していき、口も狼のように裂けていく。これは一体何なんだ。


「お、お前は……自分自身を更にモンスター化させたというのか」


 僕が理解した時にはもう既にユピテルは異形の怪物へと変貌していた。口からは涎を垂らしていて、知性の欠片も感じられない。目は赤黒く光っていて、とても不気味な怪物だ。


「何だか知らねえが、俺の雷の前ではどんな相手も無力化される! くらえ!」


 クローマルが再び雷を放つ。ユピテルの体にその雷撃がぶつかる。今度こそ、仕留めてやる! 僕はクレイモアでユピテルに斬りかかろうとする。


 しかし、ユピテルはこちらをギョロっと睨みつけて、爪で僕のクレイモアの一撃を弾く。まさか! 雷が効いていないのか!?


「くそ! 俺の雷が効かねえっていのうか! マジで化け物だなこいつ!」


 ユピテルは唸り声を上げて両手を力任せにぶん回している。船内の床や壁を抉り取るほどの威力だ。理性を失っているのだろうか。やたらと周囲の地形を破壊していく。


 このまま船を破壊されるわけにはいかない。こんな海のど真ん中で船が沈没でもしたら、間違いなく僕らは死んでしまうであろう。それだけは阻止しなければならない。


「クローマル! 二人で連携してユピテルを倒すぞ!」


「ああ。てめえの言うことを聞くのは癪だが、そうするしかねえようだな」


 僕とクローマルはそれぞれ違う方向からユピテルに斬りかかった。二方向からの攻めにはこの怪物も対抗出来ないだろう。そう思っての攻撃だ。


 しかし、ユピテルは体をコマのように回転させる。その回転力で僕ら二人の攻撃を弾いた。


「くそ! なんてパワーだ。力自慢の俺すら上回るパワーだぞ……」


「もう一度だ!」


 僕はユピテルに接近した。ユピテルは僕を見てニタァと笑い表情を崩した。そして、口の中から管のような舌を伸ばして僕の右肩を貫いた。


「うぐ……」


 ユピテルの舌がどくどくと脈打っている。それと同時に僕の体が悪寒のようなもの感じる。感覚的には血を吸われていると思われる。こいつは吸血鬼が更にモンスター化した姿だ。だから、僕の血液を吸う気なのだろう。


「させるか!」


 僕はクレイモアを振るい、ユピテルの舌を斬った。斬られたユピテルの舌からは血が噴出する。ユピテルは舌を引っ込めて、自身の口を押えて悶えている。今ので相当なダメージを受けたのだろう。


「クローマル……後は頼んだ……」


 僕は血を吸われたせいで気分が悪い。貧血のような表情が出てまともに立っていられることすら出来ない。


「ふん。止めは任せな!」


 クローマルは刀を振るい、ユピテルに止めを刺そうとする。しかし、ユピテルの臀部から尻尾が伸びてクローマルの攻撃を弾く。


「チッ……まだだ! もう一撃だ!」


 クローマルが再度刀を構えようとしたその時、ユピテルの体が縮小していく。


「な、何だ……?」


 化け物だったユピテルの体は元の姿に戻った。まあ、元の姿もヴァンパイアなのだが。人型に戻ったということだ。


「ハァハァ……時間切れか……」


 時間切れ……どうやら、ユピテルの変身には時間制限があるようだ。あの強力な形態じゃないなら、まだ正気はある。このまま一気に畳みかければ倒せる!


 ここは海の上だ。ユピテルを一度殺して、樽の中に詰めて海の底へ沈めれば二度と這い上がってこれないだろう。不死身のユピテルもこれで対処出来るはずだ。


「残念だよ。ライン。キミともう少しデートしたい気分だったけれど、私には時間がないようだ。では、失礼をする」


 ユピテルはそう言うと蝙蝠に変身して飛んでいった。


「待て! 逃がすか!」


 クローマルは蝙蝠に向かって雷を飛ばす。しかし、蝙蝠は無数に分裂して、雷が当たったのはたった数匹しかいない。その数匹は地面に落下するとマントの切れ端へと変化した。どうやら、本体には当たらなかったようだ。まるでトカゲの尻尾きりのように、マントを犠牲にしてユピテルは逃げた。


「逃げられたか! チクショウ!」


 蝙蝠と化したユピテルは大海原を飛び、遥か西の方へと飛んでいった。後少しで倒せるところまで追いつめたのに悔しいな。

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