女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

111.二人の出会い

公開日時: 2020年10月23日(金) 19:05
文字数:2,231

 船が出航してから数日が経った。最初は穏やかでいい船旅だと思ったけれど、こう何もない状況が何日も続くと流石に退屈になる。ルリは既にこの船での旅を何往復もしているんだと思うと凄く思える。


 船旅が退屈だろうと思って数冊の本を持ち込んだが、どれも全て読み終わってしまった。いくらお気に入りの本とはいえ、何周もするのは流石にきついものがある。退屈に殺されてしまいそうだ。


「あー暇だー。剣を振るいたい気分だ」


 ロザリーが甲板で寝そべってゴロゴロしている。やることがなくて暇なのだろう。流石に他の乗船客がいる中でレイピアを振るう訳にもいかない。日課の特訓も出来なくてかなり辛そうだ。


「そう? 私は楽しいと思うな。だって、ロザリーもラインも一緒なんだから。話し相手がいない船旅程退屈なものはないよ」


 そういえばルリは、話し相手もいない状態で船旅をしていたんだったな。よくそれで精神が保てたなと思う。それに比べたら、仲間がいる僕はまだ恵まれている方だろう。


「ねえ、退屈だから二人の出会いについて話してよ。ラブラブな二人はどうやって知り合ったの?」


「ラ、ラブラブだなんて言うな! 私とラインの仲はそんなんじゃないぞ!」


「照れてるロザリー可愛い。こんな可愛い恋人を持てて、ラインは幸せ者よのう」


「ルリ。あんまり大人を揶揄うんじゃないぞ」


 と一応注意しておく。この年頃の女の子はそういう色恋沙汰に興味があるのはわかるが、揶揄われる方としては良い気分はしない。


「ごめんなさい。反省してまーす」


 本当に反省しているのかこいつは。声色が非常に明るくて反省しているようには見えない。


「で、話を戻すけど二人の馴れ初め教えてよー」


「そうだね。退屈凌ぎに教えてあげようか」


 僕はロザリーとの出会いを思い出した。目を瞑ると今でもあの頃の光景が目に浮かぶ。



 僕は昔ガスラド村という田舎の村にいた。それからある事情があって、村を追い出されて王都に来たんだけど、そこでオリヴィエという少年に出会った。彼の勧めで僕は剣術を学ぶことになったんだ。


 僕が師匠の元で剣術を学んでいると、ある日新たな門下生がやってきたんだ。


 その子のキメの細かい赤い髪とエメラルドのように輝く綺麗な瞳は今でも覚えている。初めて出会った時、言葉で言い表せないような感覚を覚えた。胸を締め付けられるような何かは今でも忘れられない。


 その赤髪の子は師匠の影に隠れて僕と目を合わせようともしなかった。人見知りの子かな? 仲良くなれるといいけど。


「ライン君。キミに妹弟子が出来た。紹介するよ。私の親友の娘のロザリー君だ。よろしく頼む。ほら、ロザリー君挨拶をして」


 ロザリーと呼ばれた子は師匠に言われて観念したのか、すっと出てきて軽く会釈をした。


「え、えっと……わ、私の名前はロザリーです……い、虐めないで下さい」


 なんだこの小動物みたいな子は……こんな可愛い子を虐めるわけないじゃないか。僕は虐めが嫌いだ。特定の相手を吊るし上げて、迫害して追放する。そんなものはもう見たくない。


「大丈夫。僕はキミを虐めたりしないさ。僕は虐めが嫌いなんだ」


「ほ、本当……?」


 顔立ちも幼くて小さくて可愛い子だ。エリーと同じくらいの年頃の子だろうか。


「ちなみにライン君。ロザリー君はキミよりもお姉さんだ」


「え!?」


 僕は驚いた。てっきり年下の子かと思ってただけに、自分よりも年上だとは思わなかった。僕より年上でこんな小さくて、気弱でおどおどしているのか。


「ご、ごめんなさい……私の方がお姉さんなのに、こんな情けなくて……」


「気にしなくていいよ。それよりも仲良くやろう。よろしくね」


 僕は彼女に向かって手を差し出した。すると彼女は警戒しながらも震える手をゆっくりと差し出して僕と握手をした。


 ロザリーの手はとても柔らかかった。エリーと手を繋いだことがあるから女の子特有の柔らかさは知っている。けど、ロザリーの手はまた違った感触だった。


「じゃあ、ロザリー君は少しここで待っていてくれるか? 私は、ライン君と男同士の話をしてくる」


「は、はい……」


 僕は師匠に連れられて別室に行った。男同士の話って一体何なんだろう。


「ライン君。ロザリー君には家族はもういない。彼女の母親はまだロザリーが物心つく前に亡くなっているし、父親もスライムに殺されてしまった。兄弟もいないんだ」


「え?」


 そんな悲しい経験をロザリーはしているのか。そのことを知った僕は、彼女のために何かしてあげられることはないかを考えた。悲しい思いをしているなら、逆に楽しい思い出をいっぱい作ってあげたい。孤独で耐えられないなら、僕がいつも一緒にいてあげたい。なんとかして彼女に寄り添えないだろうか……


 僕はそういう思いで頭がいっぱいになった。もうエリーのように悲しい思いをする子を出したくない。僕の手の届く範囲内の皆を守りたいんだ。


「ライン君。わかっていると思うけど、彼女と仲良くしてやってくれ。キミの方が年下だけど、ここでは兄弟子だ。しっかりと面倒を見てやって欲しい。彼女の心の支えになってあげて欲しい」


「はい。わかりました師匠。僕に出来ることなら何だってします」


「ああ。キミはそういう子だったね。ロザリー君の生活は私が面倒を見ることにした。彼女は今日からここに住むんだ」


 と言うことは、ここに来ればいつでもロザリーに会えるんだ。そう考えると剣術の稽古がより楽しく思える。師匠と男同士でむさ苦しい思いをしてきたけど、女の子がいるなら少しは華やかになるだろう。

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