ロザリーの耳掃除も終わった頃には夜も深まっている。僕も眠くなってきたし、寝るには丁度いい時間だ。
「ロザリー。ベッド使っていいよ。僕は床で寝る」
「ダメだ。家主のキミにベッドで寝かせるわけにはいかない。一緒に寝るぞ」
ロザリーは僕を抱きかかえた。彼女の力で抱きかかえられたら僕はもう抵抗できない。そのまま僕ごとベッドの上にダイブするロザリー。ベッドが激しく軋む音が聞こえる。ベッド壊れてないよね?
「い、一緒に寝るの!?」
「私達は既に添い寝までした仲だぞ。今更恥ずかしがることなんてない」
ロザリーが僕に密着したまま離そうとしない。まあ、ロザリーがいいなら今回も添い寝でいいけど、僕の理性が持つかな。
添い寝だけで手を出してはいけない生殺し状態のまま僕は目を瞑る。ロザリーの体温が感じ取れて中々寝付けない。一方、ロザリーは寝息を立てて寝ている。こっちの気も知らないで呑気な団長さんだこと。
僕はロザリーのほっぺをぷにぷにとつついてみた。何の反応もない。これは少しくらい弄っても起きないな。
もう一度ほっぺをぷにぷにと触る。感触が気持ちいい。ロザリーのほっぺは柔らかくてぷにぷにでいい感触だ。どこまでこのほっぺが伸びるのか試してみたい。
そう思った僕はロザリーのほっぺをつねって引っ張ってみた。凄い。思ったより伸びた。
「んん……」
まずい。ロザリーが起きる。そう思った僕は慌ててほっぺから手を離す。しばらく緊張が走る。どうやら、起きていないようだ。危なかった。
もし、ロザリーのほっぺをつねっていたことがバレたら怒られるところだったな。仮にも自分の騎士団の上司を相手に僕はとんでもないことをしている。普通の団だったら間違いなく首が飛ぶであろう暴挙だ。
そう考えるとロザリーを弄るのは何だか申し訳なく思えた。自分の部下にいいように弄られる上司というのも悲しいものだ。せめて、上司として尊重してあげよう。
しばらくすると眠くなってくる。さっきまで目が覚めていたのに人間の生理現象とは不思議なものだ。僕はそのままロザリーに抱かれたまま眠りについた。
◇
ん? なんだ。この感触。ほっぺが少し痛む。何者かに引っ張られている感触だ。僕はゆっくり目を開けると僕はロザリーと目が合った。
ロザリーの右手が僕の頬を引っ張っている。この人、この状況で何しているんだ。
「あ! ラ、ライン!? 起きたのか?」
どうやら状況から察するに、ロザリーは僕より早く起きて寝ている僕のほっぺをつねって引っ張って遊んでいたのだろう。
「ご、ごめん! 怒らないで。ほんのつい出来心だったんだ!」
ロザリーは両手を合わせて僕に謝ってくる。しかし、僕はロザリーを怒る気になれなかった。だって、昨日も僕はロザリーに同じことしたから。
「うん。いいよ。気にしてない」
「流石ライン! 懐が深い! 器が大きい! いい男だ!」
許してもらえたロザリーは僕をやたらと褒めちぎっている。もし、昨日僕がロザリーと同じことをしてたと知ったらどう思うかな?
「ロザリー。今から朝食作るから待ってて」
そう言うと僕は台所に向かった。二人分の朝食を作るのは初めての経験だ。とはいっても、普段やっている作業を二倍にすればいいだけの単純なことだ。でも、今日はロザリーに食べてもらうから、少しだけ気合を入れよう。
パンをスライスして、ベーコンと卵をフライパンで焼いてベーコンエッグを作る。スライスしたパンの上にベーコンエッグを乗せる。
簡素な食事だが朝はこの程度でいいだろう。あんまり朝から凝りすぎているものを食べる必要もない。僕はロザリーに朝食を手渡した。
「ありがとうライン。中々美味そうだな。いただきます」
ロザリーが僕の作った朝食を一口齧る。ゆっくりと咀嚼して飲み込む。その後、笑みを浮かべる。
「美味いぞライン! キミは天才だな! 料理人になれるんじゃないのか?」
「本当? それじゃあ料理人になろうかな」
「いや、それはダメだ! ラインはウチの団の衛生兵でいてくれないとな。誰にもラインを渡すつもりはないぞ!」
「ははは。冗談だよ。ロザリーを置いて紅獅子騎士団を辞めたりしないさ」
僕は自身が作った朝食を食べる。我ながら中々いい味だ。ロザリーに食べてもらうことを想って作ったからなのだろうか、いつもより美味しく感じる。
「ラインが作ってくれた朝食のお陰で元気が出た! よし、今日も仕事頑張るぞ!」
「そう言ってもらえると作った甲斐があって嬉しいよ」
僕もロザリーと朝を過ごせたお陰で元気が出てきた。仕事前の朝は大概憂鬱なものだが、今日ははりきって仕事が出来そうだ。
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