女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

109.邪龍伝説

公開日時: 2020年10月22日(木) 22:05
文字数:2,402

 セイレーンの死と共に彼女の魔力で動いていたスケルトンも滅んだ。幽霊船も役目を終えたのか静かに海へと沈み、やがてその姿見えなくなった。幽霊船騒ぎはこれで収束しただろう。


 僕達は漁師ボルグの漁船に乗り、エルマ漁村へと戻ろうとする。漁船で待機していたキャロルが僕に近づいてくる。


「あー。ラインさん派手にお腹斬られちゃってますね。私が手当てしてあげますから、まずは服を脱いでください」


 僕はキャロルに言われるがまま服を脱いだ。僕の裸がよく晴れた海の上に晒される。


「おお! いい体してますね。私筋肉フェチなんですよ。これくらいの筋肉量が一番好きかなー? なんて」


 キャロルは僕の腹筋と胸筋を見て目を輝かせている。その様子をロザリーが落ち着かない様子で見ている。大丈夫ロザリー。これは浮気じゃない。浮気じゃないんだ。


 キャロルは僕の傷を適切に手当てをしてくれた。止血も完璧で傷口が開きさえしなければ大丈夫だろう。


「終わりました」


「キャロル。まだ負傷した騎士はいる。僕も手伝うよ」


「ありがとうございますラインさん」


 漁船に積んであった医療道具を使って、僕は戦闘で傷ついた騎士の手当てを行っていく。まさか、騎士になっても手当てをすることになるとは思わなかったな。まあ、今回の任務は船上で定員も限られているから仕方ない。衛生兵を多く乗せる余裕はなかったからね。


 ロザリーの手当ては僕がすることになった。彼女は左肩を負傷しているようだ。この抉れ具合は槍のようなもので貫かれた跡だろう。


「ライン……スケルトンが怖い中、頑張って戦った私を褒めて欲しい」


 ロザリーは僕の耳元でそう囁いた。僕は誰にも見られないようにこっそりとロザリーの頭を撫でる。しかし、すぐに中断する。ボルグがこちらを見てきたからだ。


 ボルグがロザリーに近づいてきた。何の用だろう。また口説き始めるのか?


「よお。ロザリーちゃん。幽霊船を退治してくれてありがとうな。これで海の平和は守られたってもんだ」


「キャプテン・ホルスもセイレーンも倒したのはラインです。私ではありません。礼なら彼に言って下さい」


 ロザリーは下を向いて俯いてしまっている。確かに今回敵将を討ち取ったのは僕だ。ロザリーはジュノーと対峙をしたが、彼女を倒すことは出来なかった。ロザリーは自身が何の成果もあげられてないことを気にしているのであろう。


「あーそうか。まあ、でもアンタの指揮が良かったから、そこの兄ちゃんが成果を上げられたんだろ? そこは誇ってもいいと思うぜ」


 若い女性を口説くおっさんの癖に良いこと言うじゃないか。歳を取っているだけのことはあるな。


「おっと、そんなこと話している場合じゃねえ。どうだ? この漁村に戻ったらみんなで盛大に海鮮パーティでもしないか?」


「海鮮パーティ!?」


 ロザリーの目が光りが灯った。何を隠そうロザリーは海鮮物が大好きなのである。魚や貝やエビやカニが大好物だ。特に好きなのがタコで、海に行った時素潜りでタコを捕まえたという逸話があるほどだ。


「是非ともお願いします」


「お、おうそうか」


 いきなりロザリーに詰められてボルグも困惑している。


「アンタ達はこの海を救ってくれた恩人だからな。幽霊船騒ぎのせいで遠洋漁業に出られないのを助けてもらったんだ。そのくらいの礼はさせてくれ」


 ボルグは意外にいい人なのかもしれないな。そんな話をしている内に船は港へと辿り着いた。



 港に辿り着くと早速海鮮パーティが執り行われた。ここの近海で取れた魚を網焼きにして塩を振るシンプルな一品ながら中々美味しい。漁村で取れる新鮮な魚というだけで美味しそうに思えるのはずるい。


「んー。おいしー」


 ロザリーが幸せそうな顔をして、魚を頬張っている。良かったねロザリー。


「今回何もしてない俺まで食べちゃっていいんですか?」


 船酔いする体質のせいで船に乗れなかったアルノー。だが、そう言いながらも既に魚を食べている。


「折角の漁師の皆様のご厚意ですから頂いちゃいましょう」


 ジャンは特に遠慮することなく食べる。


「なあ、ロザリーちゃん。こんな話を聞いたことあるか? ヘキス海域には邪龍リンドブルムが封印されているって。今回幽霊船が出現した原因もそれじゃねえのかなって思ってるんだ」


 邪龍リンドブルムの伝説は聞いたことがある。神話の時代に邪龍リンドブルムが現れて人々を襲った。


 リンドブルムは暴虐の限りを尽くして、たった一匹の龍のせいで人類の半数が息絶えた。


 それを阻止しようと巫女ティアマトは自身を龍の形に姿を変えて、リンドブルムと対峙をした。


 戦いは三日三晩続き戦いの余波で大地が変形するほどだった。


 このままでは地上が壊滅される。そう恐れたティアマトはリンドブルムと共に海中に沈んだ。そして、自身の力を持ってリンドブルムを永遠に封印することにした。


 リンドブルムが封印されている場所は、奴の魔力が流れ込んでいるせいでモンスターが強力な力を得やすいとされている。本当かどうかは知らないけど。


「海中に封印されているリンドブルムですか……嫌な予感がしますね」


「どういうことですか? ジャンさん」


 深刻そうな顔をしているジャンに対比して、呑気そうな顔で貝焼きに手を付けているアルノー。このギャップが凄い。


「ミネルヴァが狙っているものを覚えていますか? 水龍薬。それは水中でも呼吸が出来るようになる魔法の薬。ミネルヴァが何故それを求めているのか謎でしたが……」


「リンドブルムの封印を解こうとしているのか……」


 僕の呟きにジャンはゆっくりと頷いた。


「ええ。あくまでも可能性の話です。リンドブルムは神話の存在。そもそも実在するのかどうかわかりません」


 神話の邪龍を復活させようとしている……もしそれが本当なら、どんなに厄介なことか。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。


 ミネルヴァ……キミの思い通りにはさせないぞ。僕はもう騎士だ。キミを止めるために戦う。このクレイモアに誓って。

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