私はタクル山で出会った少女ルリを連れて自宅へと帰った。ルリは足を怪我しているのでタクル山を下山する時は私が背負ってあげた。人を担ぐとトレーニングになるかなと思ったけど、彼女は体重がそれほど重くなくあんまりトレーニングにはならなかったけどまあいいや。
「団長さん。私をここまで連れてきてくれてありがとう。もう大丈夫。歩けるよ」
ルリは私の家につくと早々に私から降りて、自分の家のようにくつろぎ始めた。
「床で寝るな」
「えーいいじゃんいいじゃん。私と団長さんの仲じゃん」
「まだ出会って半日しか経ってないのによく言うな」
一体どういう教育を受けてきたんだこの子は。それとも東洋の文化では他人の家でもこのように両手両足広げて寝るものなのか?
「ねえ、団長さん。団長さんってラインさんのこと好き?」
「ああ。好きだぞ」
「むー。その反応は違うやつだー。絶対恋愛の好きとかって感じじゃないよー」
ルリが口を尖らせて拗ねる。私は女だからあんまりきゅんと来ないが、免疫のない男が彼女のその仕草を見たら一発で落ちるだろうな。
「ラインさんのこと好きじゃないなら、私が奪っちゃおうかなー」
ルリは流し目でこちらを見てきた。なるほど。これが小悪魔系女子というやつか。
「ラインはそう簡単に落ちる男ではないぞ。それにルリももうすぐ国に帰る身だろう。ラインとは付き合えない」
「むー。皇帝陛下のご病気が治られたらこっちに永住してやる」
「ルリにも国での生活があるのではないのか? 家族だっているのだろう?」
「家族? いるよー。お父さんでしょー。お母さんでしょー。お兄ちゃんに弟もいるよ」
家族か。羨ましいな。私には家族はいない。兄弟はいなかったし、親も早くに亡くしてしまった……私にとって家族と呼べるのは、孤児の私を引き取ってくれた師匠とその弟子のラインだけだ。
そういえば、最近師匠には会ってないな。今頃どうしているんだろう。会いたいな。
「団長さんどうしたの?」
ルリが私を覗き込むようにして見つめている。顔が近くて思わずドキリとしてしまった。
「な、何でもない。私は元気だ」
「別に元気かどうかは訊いてないけどまあいいや。ねえ、団長さんってどんな異性がタイプ? 年上? 年下? どっちが好き?」
「えっとだな……」
どんな異性がタイプか……考えたことがなかったな。今までずっと訓練と修行と任務に明け暮れてきた生活。人並の女子が得られるであろう幸せは私には眩しすぎて手に入れられない。
年が上だろうが下だろうが私にとっては些細なことに過ぎないだろう。そういえばラインは年下だったな。って、なんでここでラインが出て来るんだ。
「私は年齢には拘りがないな。上でも下でもいける」
「おー流石騎士団長。上でも下でもいけるオールラウンダーで器のでかさが違うね」
褒めているのか皮肉を言っているのかよくわからなくなってきた。まあ、恐らく褒められていると信じたい。
「ちなみに私は断然年上がいいな。あーでも、あんまりおじさん過ぎてもダメ。ラインさんくらいが丁度いいかな」
この子は本当にラインのことばっか気にかけているな。そんなにいいのか……まあ、私から見ても彼はいい男だが……
「それじゃ次の質問だね。ずばり甘えられるのと甘えるのどっちが好き」
「な!」
なんて直球な質問をしてくるんだこの子は……うう、顔が熱い。どうしよう。騎士団じゃないこの子になら私が実は甘えん坊だということを打ち明けてもいいかな……
「どうしたの団長さん? この質問何かまずかった」
「い、いやそういうわけじゃないんだ……」
「もしかして団長さん極度の甘えん坊だったり」
「ひ」
まずい。何もかも見透かされている気がする。私は騎士団長として甘えん坊であることを隠さないといけないのに。いや、この子は騎士団とは関係ないけど……
「もしかして、おしゃぶりとかしゃぶったり、哺乳瓶でミルクを飲ませてもらったりするほど危ないことしたりしてる?」
「そこまでやらんわ!」
「そこまで……? ってことはやっぱり甘えん坊だったんだね」
しまった。つい口が滑ってしまった。
「そ、そうだよ……悪いか……」
「別に個人の自由だと思うよー。騎士団の団長も結構大変な職でしょー。他人に甘えることが中々許されない立場だし、たまには誰かに甘えてみたくもなるよね」
「そうなんだよー。わかってくれる? これ別に私が悪いわけじゃないんだよー。私の立場上、誰かに頼ったり甘えたりってのが中々出来なくて、そのストレスが溜まってるんだよー」
私はうっかり涙目になってしまった。会ったばかりのこの少女に何を打ち明けているんだ……一旦冷静になろう。
「すまないな。少し取り乱した。とにかく、私が甘えん坊だということはくれぐれも他の誰かに言い触らしたりしないようにな!」
「ラインさんにも?」
「ラインには別にいいや」
既に私の痴態をこれでもかと知られてしまっているし、今更すぎる。私が甘えん坊だと言われたところで「知ってる」以外の返答は返ってこないだろう。
「団長さんの意外な一面をしれて楽しかったなー。ねえ、もっとお話ししようよ今夜は寝ない勢いでさ」
こうして、私とルリのトークは夜通し続いた。お互いのことを深く知り合った私はいつしか彼女を友人として見るようになっていた。彼女も私のことを団長さんからロザリーと呼び方を変えてくれたし、きっと友情を感じてくれていると思う。
「ふあーあ。流石に眠くなってきた。おやすみロザリー」
「寝ない勢いとか言ってたのに寝るんかい。まあいいや。おやすみ」
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