女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

33.ライン直伝の剣技

公開日時: 2020年10月1日(木) 22:05
文字数:2,100

 戦闘開始から三分程が経過した。ロザリーとアルノーはそれぞれ一体ずつのスライムを消し去った。だが、橋の上や手すりにはまだ七体程のスライムがいる。これらを全て駆除しない限りは紅獅子騎士団は進軍はできないであろう。


「ロザリー団長……こいつら仲間がやられた途端隙がなくなりました」


「ああ。スライムはこれでも知能がそこそこ高いモンスターだ。今回はたまたま奇襲が成功して一体ずつ仕留められたが、二体目以降はそう簡単には倒されてはくれないだろう」


 スライムが硬直している。これは防御動作であると同時に粘液や溶解液を出す準備をしている所作なのである。この状況のスライムに近づくのは危険なのでロザリーとアルノーは近づくことが出来ないのだ。


 とはいえ、この硬直状態はスライムにとってはかなりエネルギーと神経を使う状態なので長くは持たないだろう。硬直状態が解けた隙をついて剣を突くのがセオリーな戦い方だろう


「アルノー。敵の方が数が多い。もし、一体だけの硬直状態が解けたとしても決して油断はするな。他の個体がお前に狙いを定めているかもしれない」


「はい!」


 ロザリーはアルノーに冷静に指示をする。スライムとの戦いは一瞬の油断が命取りになるケースが多い。なぜなら、スライムの相手の動きを封じる粘液も相手を溶かす溶液も正に一撃必殺の技なのである。一度食らったらそれまでだ。


 溶液の方はまだ少量なら後方に下がれば、僕が治療できる。だが粘液を食らえば一発で終了。その場から動けずにスライムの餌食になるだけだ。


 ロザリー達とスライムの睨めっこが続く。さきに根をあげたのはスライムの方だった。ロザリーの側面の手すりにいたスライムが硬直状態を解除して休憩をとろうとしたのだ。


 その一瞬をロザリーは見逃さなかった。ロザリーの素早い剣技によって破裂音と共にスライムは水となり消えてしまった。


「よし、残り六体……! 行けるかアルノー!」


「俺はまだまだやれます!」


 アルノーは剣を構える。そろそろスライムの個体も我慢が出来なくなってくる頃だろう。もう一匹硬直を解いたスライムが現れた。


「そこだ!」


 アルノーがスライムを突く。面白いようにスライムが弾け飛ぶ。アルノーのスピードもテクニックも一流で確実に素早く核を突けているようだ。


 スライムの核を突くのは実はかなり高等難易度の技である。スライムは一瞬の隙でしか核を突くことが出来ない。硬直状態になったらそれこそ剣が弾かれてしまう。硬直が解除された時に素早く突く必要があるのだが、核はかなり小さく、剣で狙おうとしても若干の標準のブレで上手く突けないこともあるのだ。


 だからスライムを倒すのにはスピードとテクニックが求められている。ロザリークラスの騎士となればそれは十分クリア出来ているのだが、それをクリア出来る騎士は実はそんなに多くない。


 アルノーはパワーこそまだ未熟ではあるものの、スピードとテクニックは光る物がある。


 残り五体。ロザリー達の勝利はもう目前まで来ていた。


 ところが、状況が一変した。残った五匹のスライム達が集まって固まり始めたのだ。スライムなりに知恵を使った作戦だろう。バラバラに散って各個撃破されるよりも、それぞれが近くでカバーしあえば牽制になるという。


 事実、この作戦はかなり厄介だ。一匹が硬直を解いても近くの他のスライムが硬直を解かなければ粘液を飛ばされる可能性があり迂闊に近づくことが出来ない。


 打つ手なしかと思われたその時、アルノーが前に出始めた。


「アルノー! 何をするつもりだ!」


 ロザリーはアルノーを制止しようとした。アルノーは根比べに負けて動いてしまったと思われたからだ。


「ロザリー団長……今からスライムを打ち上げます。上空に漂っている隙にスライムを狩ってください」


 アルノーは剣を構える。この構えは三日前に僕が見せた必殺剣の構えだ。


「アルノー……お前まさか」


「ライン兄さん直伝の剣を受けてみよ!」


 アルノーは下方向に思い切り突き攻撃を放った。周囲の風を取り込み、突風を発生させる。風の刃で一匹のスライムを撃破する。その他四匹のスライムは巻き起こった風に飛ばされて上空へと打ち上げられた。


 上空へ打ち上げられたことで力のバランスが崩れてスライムの硬直状態が解けた。ロザリーはその隙を逃さなかった。四連の突きを打ち出してそれぞれのスライムを空中で四散させた。


 スライムの液体がロザリーの体にかかる。スライムの死骸の液体はべたべたしてとても気持ち悪いだろう。ロザリーは自分の肌に付着したスライムの死骸を手で触ってあからさまに嫌な顔をする。


「うええ……気持ち悪い……」


「確かスライムの死骸のネバネバした液体って軟膏の材料になるから回収するんでしたよね?」


「ああ。面倒くさいがきちんと回収しよう。私の体に付着した奴は流石に使えんか……」


「いいじゃないですか。今は雨が降っているし、丁度洗い流せますよ」


「お前……私が雨をシャワー代わりにする卑しい女だと思っているのか……」


 ロザリーはアルノーに対して呆れたような物言いをする。何はともあれロザリー達は勝って橋の通行権を得たのだ。このまま進軍して本拠地にいるスライムを叩こう。

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