女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

122.帝都観光

公開日時: 2020年10月26日(月) 20:05
文字数:2,408

 僕達は才の国を出発して、帝都へとやってきた。帝都は才の国とは違い、人々が多くて活気がある。帝都の街並みは基本的に平屋が短い間隔で並んでいてごちゃごちゃとしている。二階建て以上が基本の王都とはその辺が違うな。こんな密集していたら、火事が起きると一気に燃え広がって大変そうだなあ。


 ただ、やはり人々の服装は西洋と東洋では違うのか、僕達は今相当浮いているようだ。街を行きかう人々が僕達の方をじろじろと見ている。


「ねえ、ルリ。この辺に東洋の服を売っている店はないの? 何かこの格好だと目立ってしょうがないんだけど」


 僕の申し出にルリは唇に人差し指を当てて考え込んでいる。


「うーん。この近くだと、あざみ屋かな? あそこならいい反物が売ってるよ」


 ルリが僕に近づき耳元に顔を接近させる。


「あそこの反物結構可愛いものがあるんだ。きっとロザリーに似合うよ。その姿を見たら惚れ直すかもね。ひひひ」


 ルリは悪戯っ子っぽい表情を浮かべて僕を揶揄からかった。でも本音を言えば、ロザリーの和服姿は楽しみかもしれない。美しい彼女のことだから、きっと何を着ても似合うであろう。それは間違いない。僕が保証する。


 そんなこんなで僕達はルリに案内されて、呉服屋へと辿り着いた。そこはとても気品溢れる空間だった。帝都の城下町とは思えない程静けさに包まれた空間であった。


 妙齢の女性が「いらっしゃいませ」と僕達に声をかけてくれた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 始めての空間に僕達は戸惑いを隠せなかった。特にロザリーは顔には出さないが、かなり緊張しているはずであろう。


「この二人に似合う反物をくれるかな?」


「はい。かしこまりました」


 ルリは慣れた様子で店員に注文をする。流石としか言いようがない。


「そちらのご婦人にはこちらの品がよろしいかと」


 ロザリーが渡されたのは白地に赤い花が描かれている反物であった。


「こ、これ少し派手じゃないか?」


 ロザリーが僕の方をちらちと見る。僕に意見を求めているのだろうか。


「んー。別にいいんじゃないかな。僕は好きだよこういう花柄。ロザリーにもきっと似合うよ」


 ロザリーは花が好きな一面もあるから、これはこれでいいと思う。ただ、やはりロザリーが気にしているのは……


「わ、私はこれでも騎士団長だぞ、こんな可愛らしい柄着られるか!」


 そうだよね。ロザリーは騎士団長のイメージを崩さないように皆の前では張っているんだよね。品行方正のイメージを保つのも大変だと思う。


「ロザリー。大丈夫だよ。ここは異国の地だ。騎士団の皆も王都の民もキミを見ていない。僕の前でくらい騎士団長として着飾らなくていいんだよ」


「む、むー。ラ、ラインがそう言うなら仕方ないな」


 ロザリーは口では仕方ないと言っているが、顔はにやつきが止まっていない。やはり、心の底ではこの柄が気に入っていたんだな。


 僕は適当に紺色の反物を選び、呉服屋にお金を払い店を後にした。後はこれを仕立て屋に持って行って服にしてもらおう。


 仕立て屋には、歯が抜けた老人がいた。老人はニカっと笑うとロザリーの採寸をしていく。


「ふむ……そこのお嬢さんは女にしちゃ背が高いね。中々いいスタイルしている。東洋人には滅多にいない上玉だな」


 僕とロザリーの寸法を測るとそのまま熟練の手つきで着物を仕立てていく。


「はいよ。早速着ていくかい? 着ていくんなら、そこに小部屋がある。そこで着替えるんだな」


 僕とロザリーはそのまま別々の小部屋に入り着替えていく。僕は鏡に映った着物を着た自分の姿をまじまじと見てみた。うん、自分では悪くないと思う。


 着替え終わった僕は小部屋から出て、ロザリーを待っていた。やはり女性の着替えというものは時間がかかるものだな。


 しばらく待っていると、ロザリーの使っている部屋のふすまが開いた。そこから現れたのはとんでもない美女だった。


「え、えっと……? どうかな? ライン? 変じゃないかな?」


「あ……ああ。変というよりかは、可愛すぎというか何というか」


「んもう! ライン! 変なこと言わないで!」


 ロザリーの顔が真っ赤に染まる。僕はただ率直な感想を言っただけなのに、怒られてしまった。


「おー似合うねー二人共。ラインも決まっているし、ロザリーも美人だよ。それじゃあ、そろそろ昼食の時間だし、どこかで美味しいものでも食べに行こうか」


 僕達はルリに案内されるまま帝都を進む。僕達が辿り着いたのは魚の生臭い臭いがする料理店だった。


「こ、この匂いは……! ルリ、キミは実にいい奴だな!」


 魚が好きなロザリーは目をキラキラさせている。この匂いだけでロザリーは満足しているようだ。


「ここはお寿司屋さん。二人共お寿司って食べたことある?」


「なんだその料理は? 魚好きの私でも聞いたことないな」


「酢飯の上に生魚の切り身を乗せて握る料理なんだ」


「この国では生魚を食うのか!?」


 確かに意外だ。僕達の住む国では魚と言えば焼くか煮るかをして食べるのが基本だ。生食なんて考えたこともなかった。


「大丈夫か? お腹壊したりするんじゃないだろうな?」


 ロザリーは完全におっかないものを見る目で見ている。流石のロザリーも生魚を食べる勇気はないのだろうか。


「平気だよ。私食べたことあるけど一回もお腹壊したことないし」


「そ、そうか。なら食べても平気かな?」


 元衛生兵の僕としては異国の地での生食はさせたくないけれど……まあ、ロザリーのあの楽しそうな目を見ていると止めるのも忍びない。ここは大目に見ておこう。


「へい、お待ち」


 お寿司屋さんが握ったお寿司をロザリーが一口食べる。そしたら、ロザリーの顔がだらしない程緩んでいる。こんな顔、紅獅子騎士団の皆には見せられないな。威厳が一気になくなる。


「な、何だこの美味しいものは! 天才か!?」


「あはは。そんなに喜んでもらえたら紹介した甲斐があったよ」


 僕も腹痛覚悟でお寿司なるものを食べる。ロザリーほど大袈裟なリアクションは取らなかったけれど美味しかった。

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