僕達はジュノーが占拠していた王城を後にして、ジャン達がリザードマンと戦っている市街地を目指した。途中、逃げ出したゾンビと遭遇し、それを倒していきながら進む。
僕達が辿り着いた頃には、ジャン達は既にリザードマンとの戦闘を終えていた。結果的には紅獅子騎士団の勝利である。
「ロザリー。遅かったですね。もう既にリザードマンを全滅させましたよ」
「流石はジャンだな。見事な指揮だ」
騎士達は戦闘の疲れからか、その場に座り込んでいる。キャロルを始めとした衛生兵達が傷ついた騎士の介抱をしている。
「キャロル。僕も手伝おうか?」
「あ、ラインさん! お願いします」
僕はキャロル達を手伝うことにした。リザードマンとの戦いで負傷した騎士は予想外に多かった。少しでも、衛生兵の手は多い方がいいだろう。
「ジャン。街にゾンビがいるかもしれない。余力がある騎士を連れて街の見回りに行くぞ」
「はい。わかりました。皆さん。まだ戦える者は集まって下さい」
ジャンの呼びかけの数人の騎士が名乗りを上げた。その時だった。軍用犬のクランベリーが急に唸り始めた。
「クーちゃんどうしたのですか?」
王都の門の方角から警鐘が鳴り響く。一体何が起きたというのだろうか。まさか脅威はまだ去っていないのか?
僕達が呆然としていると、門の方角から見張り兵が息も絶え絶えでこちらに向かって走って来た。
「も、もう終わりだ……王都はおしまいだ……み、皆逃げろ……死ぬぞ……死ぬぞ……俺達はもうおしまいだ」
「おい、どういうことだ! 説明してくれ」
ロザリーが見張り兵に詰め寄る。見張り兵の顔色は蒼白で、とてもまともに会話出来る精神状態ではないだろう。
「あ、ああ……た、助けて……ロザリー……化け物が、化け物が王都に……」
「ロザリー! どうやら門の方角から王都に対する脅威がやってきたのは間違いないようです。急ぎましょう」
「しかし、街に蔓延っているゾンビはどうする?」
「それは王都を守る衛兵達に任せましょう」
「そうだな……よし、戦える者は私に続け! 王都を……国を守るんだ!」
騎士達が雄たけびを上げて応える。やはり紅獅子騎士団はいいな。こんな辛い状況でも決して士気を失わないんだもの。
「ラインさん。ここは私に任せて行ってください。きっと、ラインさんの力も必要だと思います」
キャロルは、キリっとした顔でそう言った。その顔は決意に溢れていた。いい顔をするようになったな。
「ああ。わかった。ここはキャロルに任せる」
僕は立ち上がり、ロザリー達の元へと駆け寄った。キャロルの成長に背中を押されながら、僕は戦いの地へと赴く。
「よし! 皆! 私に続け! 王国の騎士の力を見せてやるんだ!」
紅獅子騎士団は隊列を組んで、門の方へと向かっていく。しばらく歩いた頃だっただろうか、物凄い地響きが地面越しにこちらに伝わってくる。
前方には巨大な黒い邪龍がいた。その邪龍の背中にミネルヴァが乗っている。やはり、この騒ぎの黒幕は彼女であったか。
「お前はミネルヴァ!」
ロザリーは宣戦布告の証としてレイピアをミネルヴァに向かって突き付けた。邪龍リンドブルムを味方につけたミネルヴァ。かなり厄介な存在であることには間違いない。
「紅獅子騎士団か……あなた達には随分と苦しめられたわ。けれど、それも今日でおしまい。私には成長して最強になったリンちゃんがいるもの」
リンちゃん……リンドブルムのことだろうか。中々ごつい体に似合わない可愛らしい名前だな。
「ねえ、ママ? こいつら? ママを虐めたって悪い騎士団は?」
邪龍の声は子供のように甲高くて少し意外だ。口調も相まってか、無邪気な子供のように思える。だけれど、その体から放たれる暗黒の邪気はとても可愛いだなんて言ってられない。こいつは間違いなく災いを呼ぶ存在だ。
「ええ。そうよリンちゃん。けれど、あの両手剣クレイモアを持っている黒髪の騎士は殺しちゃダメだよ」
「えー何で?」
「彼は……ラインお兄ちゃんだけは私に優しくしてくれたから」
「うん。わかったー。ママが言うならあのお兄ちゃんはきっといい人なんだ。だから殺さないよ」
リンドブルムは目を細めている。どうやら納得したらしい。それにしてもミネルヴァのことをママと呼んでいるのかこいつは……
「その代わり、あの赤い髪の女騎士団長は嬲り殺しにしていいわ」
「どうして?」
「あの女はとんでもない悪女だからよ。あの女がラインお兄ちゃんを誑かしたから、彼は私の敵になってしまったの。だから、あの女を殺してラインお兄ちゃんの目を覚まさせてあげなきゃ」
「わかったよママ。考えうる最悪の方法を使って、生まれたことを後悔するくらいの苦痛を与えてあげるね!」
リンドブルムは無邪気な笑顔でそう言った。口調は可愛らしいが、内容は全く可愛くない。ロザリーを嬲り殺しにするだって? そんなことさせるわけにはいかない! 僕がロザリーを守ってみせる。
「ライン兄さん。随分とあのミネルヴァに好かれているみたいですね」
「ああ……アルノーには話してなかったけど、ミネルヴァとは昔色々あった。幼馴染だよ……」
「え? そうなんですか?」
アルノーは口をあんぐりとあけて驚いている。そりゃそうか。王国の憎き敵と僕が幼馴染だなんて信じられないか。
「ごめんなさいライン兄さん。辛いことを思い出させてしまって……そんな相手と戦うの辛いですよね?」
アルノーなりに気を遣ってくれているのだろう。その気遣いが少し嬉しかった。
「ふふふ。さあ、始めましょう。最後の戦いを! 王国か私! どちらが滅びるのか! 二つに一つの戦いを!」
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