女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

30.スライム討伐作戦

公開日時: 2020年9月30日(水) 00:05
文字数:2,097

 今日も今日とて紅獅子騎士団にモンスターの討伐依頼が来る。リュナ湿原地帯にてスライムが大量に出現した。それを討伐するのが今回の任務だ。


 スライムと言えば、ロザリーの父親を殺したモンスターでロザリーにとって因縁深い相手だろう。


「皆……スライム相手に油断はするなよ。奴らは軟体な体を活かしてトリッキーな動きを仕掛けてくる。粘液、溶液、あるとあらゆる液体を飛ばしてくるからな」


 ロザリーは騎士達に注意喚起をする。彼女の父親と同じ轍を踏ませたくないのだろう。


 今回の討伐にはスライムの死骸も回収することが義務付けられている。スライムの死骸から抽出される液体が怪我を治す軟膏の材料になるのだ。かなり貴重な材料らしく軍の薬師達が欲しがっているらしい。


 衛生兵の僕としてもその貴重な軟膏が手に入る今回の任務はかなり嬉しい所だ。戦場で救える命が増えるかもしれない。


「今回は特に急ぎの用事ではない。出発は三日後だ。それまで各自準備をしてくれ。ジャン。ライン。作戦会議だ」


 軍師のジャンと衛生兵代表として僕。いつものメンツでの作戦会議だ。ロザリーがリュナ湿原地帯の地図を広げて、机の上に置いた。そして、駒を置いていく。


「この緑色の駒がスライム。こっちの青いコマが紅獅子騎士団に見立てる。我々はまず、東側から湿地帯に入る。王都は湿原から見て東側にあるからな」


 ロザリーが青い駒を東の方向から西へと動かす。進軍を表しているのだろう。


「今回の情報によるとスライムは南西の方向に固まっているとのことです。なのでスライムは南西に配置します」


 ジャンが緑色の駒を南西の方向に固めていった。これでそれぞれの初期配置が決まった。


「東側から南西の方角に行くためには、川を渡る必要があります。しかし、この川は流れが急で魚系モンスターのマッドギョリンが生息しています。泳いで渡るのは無理でしょう」


「私ならいけるぞ」


 ロザリーは胸を張ってそう言った。確かにロザリーの身体能力なら川を渡り切ることは出来るだろう。例えモンスターに襲われながらだとしても。


「皆を貴女みたいな人外と一緒にしないで下さい」


 人外と言われてロザリーは少しショックを受けてしまったようだ。明らかに年頃の女性に対して形容する言葉ではないのはない。僕はロザリーの傍に近寄り、彼女の頭をぽんぽんと撫でてあやした。


「ロザリーよしよし」


「ラインありがとう。本当に優しい……それに比べてジャン酷い……」


 ジャンはロザリーが落ち込んでいることを気にせず冷徹に話を進めていく。青い駒を進軍させて、南西の川を渡るための橋の前まで来た。


「この橋を渡るルートにしましょうか。報告によるとこの橋にも数体のスライムが潜んでいる可能性があるとのことです。橋の上での戦いになるでしょう」


 ジャンは橋の上に緑の駒と青い駒を置いた。ここで最初の戦闘が始まると想定される。


「困ったことにこの橋は二人分の幅しかありません。つまり、スライムと戦うのは二人だけということになります。尤もその二人がやられてしまえば後ろにいる控えの人が戦うことになるでしょうが」


 ジャンはメガネを指で押し上げてそう言った。その二人に全ての重圧がかかる。ここで躓いているようでは到底南西のスライムがいる拠点まで辿り着くことは出来ないであろう。


「その役目は私がやろう」


「ええ。貴女ならそう言ってくれると思ってました。紅獅子騎士団最強の戦力をここにぶつけます。そうすれば死傷者が出る可能性がぐっと減る」


 ロザリーは危険な役目をいつも率先して引き受けてくれている。しかし、彼女は本当は怖がりなんだ。今回だってきっと怖いに決まっているだろう。なんたって父親の命を奪ったスライムが相手なのだから。


「問題はもう一人の相方ですが……私はアルノーを推奨します」


「アルノーだって!? ジャンは何言っているんだい。彼はまだ新人なんだ」


 僕はアルノーが心配でジャンの提案を却下しようとした。一方でロザリーは何か考え事をしているようだ。


「アルノーか……ありだな」


「ロザリー! キミまで何を言っているんだ」


 僕はこの二人がご乱心になっているかと思った。新人騎士のアルノーにこんな大役が務まるとは到底思えないからだ。


「まあ、聞けライン。アルノーはパワーよりもスピードとテクニックを重視するタイプの騎士だ。スライムは軟体生物故に力押しの剣は通用しない。的確に核と呼ばれる急所を突くテクニックが必要だ。それに、スライムの粘液を躱すのもある程度のスピードがいる。うちの騎士団で一番スライムとの戦いが向いているのはアルノーなんだ」


「ええ。私も同意見です。うちの騎士達はどうも力押しのゴリゴリのパワータイプが多いんです。そうした中でアルノーのようなタイプは貴重なんです。彼の繊細さに期待しましょう」


 二人の説得に僕も心を動かされた。正直、アルノーには危険な目に遭ってほしくない。僕の可愛い弟分なのだから。でも、いつまでも過保護でいさせる訳にもいかないか。


「わかった……その代わりロザリー。この三日間でアルノーの特訓をきっちり仕上げて欲しい」


「ああ。任された。アルノーに対スライムの特訓をみっちり仕込んでやる」

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