「騎士を辞めたってどういうことだ? ライン! 何でそんな簡単に夢を諦めるんだ」
ロザリーが僕に詰め寄ってくる。正直言って勘弁して欲しかった。僕はただでさえ、任務に失敗し、友人を失って心が疲弊しているのに。責められるような言い方をされては辛すぎる。
そんな僕の表情を読み取ったのか、ロザリーはバツが悪そうな顔をする。
「すまん……キミにも考えがあるんだよな。騎士を辞めるだけの理由があるんだよな」
ロザリーは僕の心情を理解してくれた。やはり長年一緒にいるだけのことはある。僕とロザリーの絆は下手な夫婦よりも堅い自信がある。
「なあ、ライン。私、騎士になろうと思うんだ。今度、騎士の採用試験を受けて来る」
ロザリーはふとそう言った。ロザリーが騎士になるだって?
「ダメだよロザリー。騎士は危険すぎる。僕はキミに危険な目に遭ってほしくない。それにキミは戦うのが嫌いなはずだろう? キミに騎士は向いてないって」
「そんなの! やってみなければわからないじゃないか! どうして頭ごなしに否定するんだ!」
ロザリーに怒られてしまった。確かにロザリーの言うことも一理ある。ロザリーは実力で言えば十分騎士としての素質はあるだろう。しかし、彼女のメンタルに問題があるのだ。彼女はとても心が弱い。ちょっとのことですぐに挫けるし、僕に甘えていないとすぐに精神が病んでしまうのだ。
「本気なの? ロザリー。もし騎士になれば、任務で何日もキャンプ地にいくことになるだろう。その間は僕と離れ離れになってしまう。その時にロザリーを甘やかしてくれる人は誰もいないんだよ?」
その説得に心が動くかと思った。しかし、ロザリーは譲らなかった。
「それは辛いけど……私だってもうすぐ大人になる! いつまでもキミに甘えていないと立ち上がれない子供じゃないんだ」
ロザリーの意思は固いようだ。しかし、このまま彼女を騎士にするわけにはいかない。口ではそう言っているが、ロザリーは僕なしではすぐに限界が来てしまうであろう。
ともすれば、僕は再び戦場に戻らなければならない……騎士としては無理だけど、彼らを補助する役職。例えば衛生兵なんかいいだろう。衛生兵になれば僕はロザリーと一緒にいることが出来る。
それから、僕は医学の猛勉強をした。もちろん、勉強の合間を縫ってロザリーを甘やかすのも忘れなかった。任務から帰って来たロザリーはかなり精神的に疲弊していて、見ているこっちが辛かった。
「ふぇえん。ラインきゅん。また上官に怒られたよぉ。あいつら、私が何も言い返せないのをいいことに好き放題言ってるよぉ」
「うん。そうだね、辛かったね。酷い上官もいたもんだ。僕の前ではもっと吐き出していいんだよ。僕は何があってもロザリーの味方だからね」
「えっぐ……ありがとうラインきゅん。しゅきぃ」
僕は猛勉強の結果、衛生兵として採用された。すぐにロザリーのいる騎士団に行きたかったが、新人が所属部隊を選べるはずもなかった。僕は蒼天銃士隊という組織に配属されて、しばらくそこで経験を積んだ。自分の意思で部隊を選べるようになるまで、頑張る。そのためには早く実力を付けなければ……
◇
閃光のように早い剣技が蜂型のモンスターを切り裂いていく。ここら一帯を荒らしまわっていたキラービー達。それを一人の女騎士が華麗に退治していく。
「流石です! ロザリー隊長」
彼女の部下の騎士が彼女を褒めたたえる。それに気を良くしたロザリーは更に動きを早めて、キラービー達を次々に倒し、奥で待ち構えているクイーンビーの元へと辿り着いた。
クイーンビーこそがこの群れのリーダーだ。クイーンビーを倒せば、キラービーは統率能力を失い、脅威ではなくなるだろう。
クイーンビーがロザリーに向かって尻の針を刺そうとする。ロザリーはそれを難なく躱す。スピードはロザリーの方が圧倒的に上である。
相手は飛んでいるとはいえ、低空飛行だ。攻撃を当てることは可能であろう。ロザリーはレイピアでクイーンビーの腹部を突き刺した。
刺されたクイーンビーは金切り声を上げて、危機を周囲のキラービーに告げた。キラービーは女王の危機を感知したのか一斉にロザリーに襲い掛かった。いくらロザリーでもこの数を相手にするのは難しいだろう。
すると後方で備えていた騎士達が前線に出てきて、ロザリーに攻撃しようとするキラービーの大群を引き付けてくれた。
「隊長! 今の内に早く! 俺達が持ちこたえている間に女王を倒してください!」
「ああ。わかった!」
ロザリーは華麗な剣技でクイーンビーの滅多刺しにした。勝負あり。女王を失ったキラービーは統率を失い、みんな好き勝手に散り散りに飛んで逃げて行ってしまった。これでキラービーの脅威もなくなったであろう。
◇
ロザリーはこの時の功績を認められて、自身の騎士団を結成する権利を得た。ロザリーは既に騎士団内外から絶大な人気を得ていた。強くて可憐な女騎士が人気が出ないわけがない。
当然そんな人気の彼女の元には人が集まった。自分からロザリーの騎士団に異動を願う者や、ロザリーの騎士団に配属されたいがために騎士の採用試験を受ける者もいた。
ロザリーの騎士団は人気だなあ。僕が入れる枠はなさそうだなと思っていたら、ロザリーが僕に話しかけてきた。
「ライン……キミは私の騎士団に志願してくれないのか?」
ロザリーは少し寂し気な表情を僕に向けた。
「僕としては是非ともロザリーの騎士団に入りたいんだけど、騎士団には定員というものがあるからね」
「キミの分の枠はちゃんと開けてあるぞ! だから……私の紅獅子騎士団に来て欲しい」
「ああ。わかった。これからよろしくねロザリー」
「うむ。これで任務内外でも一緒だな。いっぱい甘えてやるから覚悟するんだな」
「ははは。お手柔らかに頼むよ」
これが僕とロザリーの出会いと紅獅子騎士団に入るまでの流れだ……
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