私はジュノーと|相対《あいたい》していた。私は右手にレイピアを左手にラインから貰ったマン・ゴーシュを構えている。それに対してジュノーは先端に赤い宝石が付いた金属製の杖を持っている。
「うふふ……可愛い可愛いロザリーちゃん。愛らしい見た目とは裏腹に、騎士団長として、皆を引っ張って行く頼りになる存在。強くて、勇ましくて、皆の憧れ。そんな子とこれから戦うだなんて楽しみすぎるわぁ……」
ジュノーは両手に杖を持ち、それを大事そうに抱え込む。うっとりとした表情を見せた後に急にキリっとした表情に変わる。表情変化の激しい女だ。
「貴女が死んだら一体どれだけの数の人が絶望するのかな? 一人? 二人? いいえ。きっと国民の殆どは悲しむと思うわ。それくらい貴女は人気ですもの」
「何が言いたい」
「私は災厄の魔女。王国民達を絶望へといざなう存在。手始めに貴女に死んで貰うわ!」
そう言うとジュノーは赤い宝石を私に向けた。すると宝石から火の玉が出現して、私の方に向かって飛んでくる。
物凄い速さだ。私はその火の玉を躱した。火の玉は城の外壁にぶちあたる。幸い外壁は石製だったため引火は免れた。
「ふふふ。驚いた表情をしているわね……私はアンデッドモンスターとして転生した時に炎を操る魔術を覚えたの。ふふふ。火刑に処された私が炎術を使えるようになるなんて皮肉でしょう? 人間に魔術は使えないから、私はモンスターに転生して良かったと思うわぁ……」
確かに魔術を使った人間はこれまでにいない。この世界で魔術の類が扱えるのは人ならざる者しかいないのだ。
ジュノーは元は人間だが、今はゾンビとして転生して蘇った存在。魔術が扱えても不思議ではない。文字通り、ジュノーは魔女になったのだ。
「私の炎を避けきれるかしら!」
ジュノーが無数の火の玉を飛ばして来た。私はそれを一つずつ避けていく。剛速球で来る火の玉も私なら華麗に避けることが出来る。
しかし、次の瞬間私の脇腹に鈍痛が走る。ジュノーの杖による打撃攻撃をその身で受けてしまった。
「痛っ……」
私は、後方に跳躍してジュノーから距離を取った。そして脇腹を抑える。確かに痛いが、損傷という程のダメージは受けていない。やはり、ジュノーは人外とはいえ女。力はそれほどないのだろう。私はまだ戦える。
「うふふ。油断したようねロザリーちゃん。貴女が火の玉を避けられるのはわかっていた。だから、避ける先を私の杖攻撃の射程距離内に誘導してあげたの」
このジュノーとか言う女は相当の策士だ。下手をすればミネルヴァよりもタチが悪い相手かもしれない。モンスターを操る力を持っているし、何より自分がモンスターだから相応の戦闘力もある。元々人間だから、知能もかなり高い。中々隙がない相手だ、
だが、このままやられっぱなしという訳にもいかない。私は脇腹の痛みを堪えて、レイピアで思いきり空間を斬った。その衝撃波はまっすぐ進み、ジュノーの方向へと飛んでいく。
ジュノーは私の攻撃に気づいたのか、その衝撃波を躱す。もし、命中していればジュノーにダメージを与えられていただろう。けれど、私の本命はそれじゃない。
ジュノーが衝撃波に気を取られている隙に、私は跳躍して一気にジュノーと距離を詰めた。
「な!」
ジュノーが私が接近していることに気づいた。慌てて、杖で私の攻撃をガードしようとするが、遅い! 私のレイピアは既にジュノーを捉えている!
私はジュノーの心臓を一突きした。ジュノーの持っている杖が石畳の上にカランと落ちる音が聞こえる。勝った! 私の勝利だ!
私はゆっくりとジュノーの左胸からレイピアを抜き取ろうとする。その瞬間、ジュノーの両手が私の首を掴んで絞め始めた。
「ぐ……」
「ふふふ。油断したわね。ロザリーちゃん。私は不死者。心臓なんて既に止まっているのよ! 既に機能していない心臓を破壊した所で私は倒せないわ」
ジュノーの両手が燃え始める。私の首を焼いていくつもりだろう。
「ふふふ。首が絞められて落ちるのが先か。火が全身に回るのが先か。賭けるのも面白いと思わない?」
ああ。確かに、全身に火が回るのが先かどうか賭けるのは面白いかもな! ジュノー! お前の体の方がな!
私のレイピアが真っ赤に燃える。私も聖龍の巫女ティアマトの力を得て竜騎士に覚醒した存在だ。炎を出す術を持っているのはジュノーだけじゃない。
「な! わ、私の体に火が!?」
ジュノーの服が引火する。火はどんどん勢いを増して、ジュノーの体を焼いていく。どうやら私の火の方が勢いが強いみたいだ。
「や、やめて! 焼かないで! あ、ああ! 炎に焼かれるのは辛いのよ! い、嫌だ! もう一度あの苦しみを味わうなんてやめてえ!」
ジュノーは涙を流して懇願している。けれどやめるつもりはない。このままこいつを焼き切ってやる。
「な、何で! どうして貴女は平気でいられるの! 首が焼かれてるのよ!」
確かに、首が絞められて苦しい感じはするが首が熱いといった感覚は私にはない。これは一体どういうことだろうか。
まさか、これも竜騎士の力なのか? ドラゴンの鱗は熱気に強いと言う。竜騎士に覚醒した私の皮膚も熱に強くなっているのだろうか。
「あ、あ……あああ!」
ジュノーの握力が弱まってくる。火で焼かれて衰弱しているのであろう。
「ぜーはー……」
私は急いで呼吸をする。危なかった。後少し、首を絞められていたら、窒息するところだった。
火だるまになって、倒れこんだジュノーがいた。火刑に処された魔女ジュノーは再び、焼かれて死亡した。
「再び炎に抱かれて眠るがいい……災厄の魔女」
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