スライム達が通せんぼをしていた橋を抜けて紅獅子騎士団は更に南西に向かう。
先程の戦いで名誉ある戦いをしたアルノーは今度は後衛に下がった。もし、前衛がスライムを撃ち漏らした時のための保険として待機することになった。アルノー自身も後方で僕の護衛をしたいということからそれをあっさりと承諾した。
前衛ではロザリーを軸に、後衛ではアルノーを軸にした布陣で紅獅子騎士団は進軍していく。
「皆! スライムを発見した。これより戦闘態勢に入る!」
ロザリーが後方にいる騎士達に号令をかける。スライムの数は無数にいる。そのどれもが小さい個体だが、一際大きい個体がスライムの群れの中心にいた。その個体は人の大きさほどもあり、恐らくあれがボスであろう。
「前衛部隊はスライムを引き付けてくれ。そして、あの巨大スライムに至るまでの道筋を開けてくれ。あいつは私が倒す」
ロザリーはレイピアを取り出して、慎重に一歩ずつ前に進んでいた。雨の湿地帯故に足元がぬかるんでいてロザリーのいつものスピードが出せない状況だ。それ故に慎重に一匹ずつスライムを倒していくしかないだろう。
ロザリーがスライムの核を的確に突いて倒していく。周りの騎士達もスライムに剣を振るって戦いを始めた。
「うわ! なんだこの粘液!」
騎士の一人がスライムの粘液に捕まった。このままでは身動きが取れないままスライムに捕食されてしまうであろう。
「任せろ!」
周りの騎士が粘液で捕まった騎士のフォローをするために、彼を捕食しようとするスライムの核を突こうとする。しかし、照準が少しズレてしまったのか核を少し傷つけただけで完全に破壊するには至らなかった。
「ひ、ひい!」
粘液に捕まった騎士にスライムが覆いかぶさる。このままでは彼はスライムの溶液に溶かされて捕食されてしまうだろう。
「せいや!」
ロザリーが掛け声と共に騎士に覆いかぶさっているスライムの核を突いてスライムを破裂させた。間一髪、騎士は一命をとりとめた。もう少し遅ければ彼は確実に死んでいたであろう。
「ロ、ロザリー。助かった……ありがとう」
「礼などいらん。団員の命を助けるのは団長として当然のことだ。それより、衛生兵に診てもらえ。溶液が少し体に付着しているかもしれん。早めに落とした方がいい」
「あ、ああ」
「キャロル……後衛は頼んだ。僕は前衛に行って、今さっき捕食されかかった騎士を診て来る」
「はい。気を付けてくださいねラインさん」
「アルノーもキャロルを守ってくれよ。今後衛にいる一番頼りになる騎士はキミなのだから」
「はい! ライン兄さんの命令なら全力でキャロルさんを守ります!」
僕は同じ衛生兵のキャロルに後衛のことを任せて前衛に上がった。前衛はスライムがいて危険なところだが、粘液を食らった騎士は後衛に下がることは出来ない。僕が直接出向いくしかない。
「何だ。ラインか……キャロルが良かった。男に体拭かれても何も面白くねえよ」
「彼女を危険な前線に上げるわけにはいかないだろ? 僕で我慢してくれ」
僕は、清潔な水と布で騎士の体を拭いていく。溶液を早めに取り除かなければ彼の命に関わるだろう。
◇
ラインが前線に上がって来た。彼のことは心配だが、今は目の前の敵を倒すことに集中しよう。私が相手するのは巨大スライムだ。あれがボスだとするとかなりの戦闘力があると予想されている。今までのスライムのように簡単に倒されてはくれないであろう。
私はレイピアを構えて巨大スライムと相対する。他のスライム達は紅獅子騎士団のメンツが引き受けてくれていている状況だ。全く、いい騎士団になったものだな。
巨大スライムはうねうねと動き始めて、何やら形を変形させていく。一体何が始まるのか。私は警戒してその動きを観ることにした。
スライムは姿形を変えていき、手足のようなものを形成して人間の顔のようなものを作り出した。更に髪の毛も再現してまるで人間の女性のような体躯をした人型を形成したのだ。
この姿はどこかで見たことある。私がいつも鏡で見ている顔にそっくりだ。
「私の姿を真似たというのか!」
でも、このスライムより私の方が絶対美人だ! それだけは言い切れる! 偽物がオリジナルに敵うわけないだろ!
私の姿を真似たスライムは右手の一部を変形させてレイピアを作り出した。なるほど、私と剣の勝負をしようというのか。面白い。
所詮姿形、戦法を真似ようとも剣の修行をロクにしたことがないスライムの剣など私の敵ではない!
私は一歩を踏み込み、スライムに向かって突き攻撃を放った。しかし、私の一撃はスライムが作り出した剣によって防がれてしまった。
剣は硬質化されていてまるで本物の金属の感触のようだった。なるほど。硬質化する部分を一部分にすることでより長く硬質化を保とうとする作戦か。従来のスライムは全身を硬質化させるからその分エネルギーを使ったが、この戦い方なら一部分硬質化で済むからエネルギーの消費を抑えられるということか。
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