女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

115.極東の島 才の国

公開日時: 2020年10月23日(金) 23:05
文字数:2,206

 僕はロザリーとの思い出を頭に浮かべていた。その思い出すをきっかけを与えてくれたルリに内容を掻い摘んで話した。ロザリーが甘え癖のことは伏せて。彼女の名誉に関わることだからね。


「そっかー。二人はそんな小さい頃から仲が良かったんだね。幼馴染っていいなー。私も幼馴染のイケメンの子が欲しかった」


「羨ましいだろルリ。幼馴染か……ふふふ」


 ロザリーは幼馴染という響きが気に入ったのか笑みを浮かべている。


「おーい! そろそろ陸が見えて来たぞー!」


 望遠鏡を覗き込んでいる船員の人が船中に聞こえる大声でそう伝えてくれた。長かった船旅もこれで終わりか。やっと解放されるという思いでいっぱいだ。ただ、残念なことに僕達は帰りもこの船に乗らなければならない。退屈な船旅をまたしなければならないのだ。


 まあ、今から帰りのことを考えても仕方ない。今はただ水龍薬を手に入れることだけを考えよう。東洋の極東の島。その神秘的な国に僕らの求めているものがある。


「ただいま……私の故郷。今日は友達を連れて来たよ」


 ルリは陸が見える方角を向いてそう呟いた。



 陸に降りた僕達。早速、馬を手配してルリの故郷である“才の国”を目指すことになった。才の国はこの港から北東の方角にある。


 馬を手配したのはいいが、二頭しか借りることは出来なかった。ロザリーとルリが二人で一頭の馬に乗り、僕はそのまま残った馬に乗ることにした。


「ルリ。振り落とされないようにしっかり捕まってくれよ」


「うん。ロザリーの体からいい匂いがする。甘いミルクのような香りがするね」


「香水の匂いだ。あんまり嗅がないでくれ。恥ずかしいだろ」


「だって、この匂い落ち着くんだもん」


 ルリはロザリーの長い髪に顔をうずめて、匂いをクンクンと嗅いでる。何ともまあ微笑ましい光景だ。普段甘えているロザリーが少女に懐かれて甘えられている。中々面白いものが見れた。


 僕達は街道を馬で走っていく。僕達がいる西洋の国では見られれない不思議な形をした家屋が目に入る。看板の文字も僕達が使っている言葉とは全然違くて文化の違いというやつを思い知らされる。


「ねえ。ルリ。ルリの出身国である才の国ってどんな所なの?」


 僕は好奇心からかその質問をルリにぶつけてみた。


「んー。あんまりいい土地じゃないね。秋、冬になると作物が育たなくなる不毛の地だし。土も痩せているから、春夏で作物を育てても小さい野菜しか取れない。正に地獄のような環境だよ」


「そんなに酷いんだ。でも、どうしてそんな場所に住んでいるの?」


「まあ、そこは住む場所って言うよりは修行地みたいなものだからね。限られた食料で生き永らえた者が、予言者としての力に目覚める。そう信じられているんだよ」


「信じられていると言っても実際にキミのお婆さんは予言者なんだろ?」


 とロザリーが会話に参加してきた。ロザリーの後ろでルリはこくりと頷いた。


「うん。そうだね。予言者は滅多に現れないんだ。どれだけ厳しい修行をしても、予言者の力を得られない人もいる。私のお婆ちゃんを除けば、ここ数百年、予言者は出てないみたいだから、それだけ貴重な存在ってこと」


 不毛の大地で厳しい修行に耐えても予言者としての力に目覚めるかどうかはわからないってことか。中々ハードだなあ。


 才の国に近づくにつれて肌寒くなってきた。ここら一帯は寒冷地帯のようで、もう少し先に進むと常に雪が降り積もっている地点に辿り着くようだ。


 山の傾斜を登っていくと周りの景色が白一色に染まって来た。一面、雪が積もり幻想的な雰囲気を醸し出している。王都ではあまり雪が降らないから、この光景は非常に貴重なものだ。


 馬が走る度に積もった雪に蹄の跡がつく。子供の頃、ガスラド村で雪が降った時に足跡を付けて遊んだのを思い出すな。


「そろそろ才の国に着くね。ごめんね。ロザリーとライン。ここは不毛の大地。あんまり食料がないからおもてなしすることが出来ないんだ」


「気持ちだけでも十分だ。ありがとうルリ」


 ロザリーがルリのフォローをした。


「そうだね。僕達は観光にきたわけじゃないしね」


「二人共ありがとう。ここの盆地にある村が才の国だよ」


 山から盆地を見下ろすと部屋に雪が積もった家々が見えた。その中心に一際大きい建物が見える。


「あれは一体何?」


 僕はでかい建物を指さしてルリに聞いた。


「あれが、才霊寺院と言ってあそこに修行僧が集まっているんだ。あそこにいる大師様がメノウ……私のお婆ちゃんの予言で作り出したものを管理しているんだ」


「ってことは、水龍薬もあそこにあるってことだな」


「うん。そうだね。本来なら門外不出のものだけど、事情を話せばきっとわかってもらえると思う」


 僕達は馬を走らせて才霊寺院へと向かった。



 馬を走らせること三十分程。僕達は才霊寺院へと辿り着いた。


 とても厳かなで静かな雰囲気で、何も音がしていないはずなのに耳の辺りがぞわぞわする感覚を覚える。それだけ神聖な場所だと言うのだろうか。


 才霊寺院の庭園には不思議と雪が積もっていなかった。中央の石畳の道の脇には白い小石が敷き詰められている。


「その小石は踏まないでね。とても神聖なものだから踏むとバチがあたるよ」


 危なかった。ルリが忠告してくれなかtら踏むところだった。やはり、神聖な場所というのはそれ相応の敬意を払わなければならない。文化が違くてもだ。


 僕達は中央にある才霊寺院の本堂へと入っていった。そこに水龍薬があるのだろうか……

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