私の背後から聞こえていた銃声が鳴りやんだ。一瞬の静寂の後、銃士隊の歓喜の声が溢れ出た。
「アルノー。引き返すぞ。銃士隊の皆がやってくれたようだ」
「そうみたいですね」
私達はそのまま馬を旋回させて引き返した。
地面には二匹のハーピィが血を流して倒れこんでいる。一匹は羽を負傷してその部分を手で押さえている。息も絶え絶えで最早戦う力も残っていないだろう。
もう一匹は胸から血を垂れ流して倒れている。ピクリとも動いていない。気絶しているか死んでいるかどちらかであろう。
「わ、私達の負けね……」
羽を負傷しているハーピィが呟いた。上空から撃ち落とされて地面に激突したダメージで最早動くことも出来ないだろう。骨の何本かは確実に折れていると思う。
ハーピィは私を恨めしそうな目で見た後にぐったりと地面に伏せて目を閉じた。私は近づいてハーピィの呼吸音を確認する。息はしていないようだ。私は医療の知識がないから正確な死亡判定は出来ないが、このハーピィは恐らく死んだであろう。
「蒼天銃士隊の皆! ハーピィは今ここで息絶えた! 私達の勝利だ!」
私は谷の上で待ち構えている銃士隊の皆に向かって叫んだ。その言葉を聞いた銃士隊の歓喜の声がより一層高まる。
「ロザリー団長。俺、逃げる時に敵の攻撃を受けて怪我してしまいました。銃士隊の衛生兵に治してもらってきますね」
そういえば、私も肩の所を怪我していたな。忘れてた。逃げるのに夢中で痛みが飛んでいた。その怪我を意識した途端私の肩がずきずきと痛みだした。
「ロザリー団長も早く治療を受けた方がいいですよ」
「ああ。わかってる。ただラインが心配だ。私は先に彼を迎えに行きたい」
私は馬を走らせてハーピィが潜んでいた洞窟に向かった。ハーピィは全部で三体いたはずだ。倒せたのは二体だけだ。最悪、ラインの身に何かが起きているかもしれない。
ラインの無事を祈りながら馬を走らせる。待っててくれライン。今すぐ私が駆け付けてやるからな!
◇
少年を担いだ僕は洞窟の出入り口に向かった。既にエリー……否、ミネルヴァは遠くへ逃げているだろう。
洞窟の出口付近に近づくと馬の蹄の音が聞こえる。ハーピィが馬を使うわけがないから、僕達の仲間が洞窟に駆けつけてくれたのだろう。
「ライン! 無事かー!」
外からロザリーの声が聞こえる。彼女がここにやってきたと言うことは作戦は無事に成功したのだろう。良かった。
「僕は無事だよ! ロザリー! 今少年を救出して洞窟から出るところだ!」
「そうかー! それは良かった」
僕はロザリーが待っている洞窟の出口に向かって足早に進んだ。
洞窟の出口にはロザリーが待っていて、僕を出迎えてくれた。ん? 彼女の肩の部分の服が破けていて血が滲み出ている。敵の攻撃にやられたのだろうか。
「ロザリー! 怪我しているじゃないか!」
「ああ。これな。大したことない。それよりラインが無事で良かった」
「どうしてすぐに蒼天銃士隊の衛生兵に手当して貰わなかったんだ! 大したことないかどうか判断するのはキミじゃない。僕達衛生兵の仕事だ!」
僕はロザリーを怒鳴りつけた。傷口から菌が入り化膿したり悪化する可能性があるのに、どうしてその場で適切な処置をしなかったんだ。団員の健康を守る衛生兵としては注意せざるを得ない。
「す、すまないライン。どうしてもキミが心配ですぐに駆け付けたかったんだ」
ロザリーは僕に怒られてシュンとしてしまった。少し言い過ぎたかな。ロザリーはメンタルが弱いから優しくしてあげるべきだったと反省した。
「僕の方こそ強く言い過ぎたごめん。でも、僕だってキミの体のことが心配だったから……戦場で負った少しの怪我が原因で感染症にかかって死ぬケースだってあることを忘れないで」
とにかく、ロザリーの手当てをするのが先だ。僕は出来るだけ平坦な場所に担いでいた少年をおろしてから鞄の中にしまっておいた医療道具を使い、彼女の手当てに当たった。
「ロザリー。傷口の洗浄をする。少し染みるかもしれないけど我慢して」
「わかった……んぐ、す、少しどころじゃない! かなり染みるぞ」
「はいはい。団長さんが泣き言言わない。団員の皆だって我慢してることなんだから」
「や、優しくしてよラインきゅん」
「甘えたってダメなものはダメ」
ロザリーの治療を終えた僕は少年を抱きかかえてロザリーが乗って来た馬に彼女と乗った。
「よし、皆のところに戻るぞ。少年を落とさないようにな」
ロザリーが馬の手綱の引き、少しスピードを弱めて走り出す。少年の無事も確認出来たし、ハーピィも全滅させた。皆の所に戻ればこれにて任務は終了だ。
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