ロザリーは騎士団を率いてゴブリンが住処にしている森の前まで来ていた。この森は木々が大量に生えていて陣形を組むうえでは邪魔になる。ということで、これからの先の戦闘は陣形による仲間同士での連携がとり辛くなるということだ。それはゴブリンの軍団とて同じこと。連携力が高いゴブリンもその力は封印される。特に有利不利になるということはないだろう……とジャンは推察していた。
「ロザリー。敵の実力は未知数です。少なくとも傭兵部隊とやりあって勝てる以上の実力はあります。こちらも森の地形に適した騎士で攻めるべきです」
「そうだな。まあ私が行くのは確定として他の人選をどうするかだな」
「出来るだけ小柄な騎士がいいでしょう。その方が木々の間に隠れられるし、大柄な騎士が通れないほどの隙間も移動出来ます」
「という訳だ。アルノー。キミも行くのは確定だ」
ロザリーがアルノーの肩をポンと叩いた。アルノーはそれに対してガッツポーズを取った。
「俺、頑張ります!」
確かにアルノーは小柄で素早い繊細な騎士だ。この地形にも対応出来るであろう。
「後はそうだな。キャロルにも来てもらおうか。衛生兵の中で一番小柄だからな」
「はい!」
その他にもロザリーは状況に適したメンバーを読んでいった。僕の名前は呼ばれなかったけど、今回は条件が小柄であるというので僕は引っかかったからまだ納得は出来た。ロザリーの傍にいられないのは辛いけど、これが彼女の下した決断なら仕方ない。
「ロザリー。あまり無理はしないで下さいね。貴女なら問題はないでしょうが、他の騎士がゴブリンとタイマンでやりあって勝てるとは限りません。それくらい今回のゴブリンは厄介なものです」
連携がとり辛い森の中では必然的にそういう状況に陥りやすいだろう。これは個々の力が試される戦陣だ。
「無理だとわかったならすぐに撤退指示を出してください。そうですね。出来ればその時にゴブリン達を森の外に誘導出来るような動きで逃げかえってくれると助かります。追って来たゴブリンを森の外で待ち構えていた騎士達で叩けますからね」
「ああ。わかった。無理はしないさ。皆の命がかかっているのだからな」
「それともう一つ作戦があります。それは――」
◇
私はアルノー達と引き連れて森の中に入っていく。森の中は通れる箇所がとても狭くて確かにこれでは陣形を組んだまま進むのは不可能だ。
こういう自然の中にいると私の野生的な本能が疼く。このまま一人で前を突っ走っていきたい気分だ。しかし、その感情を抑えて、私は隊の中心を歩く。いつも最前線で戦っている私だが今回は中ほどにいる作戦だ。森の中は不意打ちで襲撃を受けやすい。だから、周りの騎士達が私を守るような位置取りを取っている。
紅獅子騎士団最強の私を不意打ちから守るための作戦なのらしいが、どうも守られるというのは性にあわない。私は誰かを守るためにここまで剣の修行をして強くなったのだ。なのに強いからという理由で逆に守られることになるとはな。
でも、ラインに守ってもらえるように甘えてみるのも悪くないかもしれない。私は肉体は強いという自負はあるが、心がどうにも弱い。ラインがいなければ私は団長という重圧に耐えきれないであろう。
早く任務を終わらせてラインに甘えたい。そう思いながら私は進軍をする。
森の木陰から何者かの気配がする。この気配は敵か? 私はレイピアを構えた。
「皆。止まれ……何かがその木陰にいるぞ」
私は騎士達に指示を送る。この木陰に何かがいるのは間違いない。その何かが出てきた瞬間に剣を振るう準備をする。
木の枝を踏む音が聞こえる。何かが動いたのだ。緊張が走る。次の瞬間、黒い影が飛び出てきた。
「可愛いー!」
キャロルの声が聞こえた。森の木陰から出てきたのはウサギだった。何だ。ただのウサギか。ウサギはこちらに気づいたのか逃げ出すように飛び跳ねて去っていった。
「ふう……ただのウサギだったな」
一瞬にして緊張の糸が切れた。張りつめていた空気が一気に和む。騎士達もこれには苦笑いをしているようだ。
気を取り直して更に進軍を続ける。今回はたまたまウサギだったから良かったものの、次に遭遇するものがこちらに害をなさないものとは限らない。気を引き締めていこう。
前方から殺気立った気配がする。これは明らかにこちらに敵意を向けている何かだ。それも一つや二つではない……私はこの気配に覚えがあった。
「皆……今度こそゴブリンの気配だ。前方の木陰に隠れている」
私はレイピアを構えて戦闘態勢を取った。私は、騎士達に散り散りに広がるように指示を出した。
ゴブリンもこちらに気づいてきているのか、木陰から一気に飛び出て来た。ゴブリン達の個体はそれぞれがボスゴブリン級に大きかった。これもミネルヴァの仕業だろうか。
「皆! 戦闘開始だ!」
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