二人の雪女の右手に氷が生成されていく。氷は先端が尖っていて刃のようになっている。なるほど。これが雪女の武器か。
「私達の氷の刃を受けてみな!」
まずはザクロからこちらに斬りかかって来た。剣での対決なら私に負ける要素はない。剣を受け止めるためのマン・ゴーシュでザクロの氷の刃を防ぐ。
「こっちだよ!」
今度はコハクが横から刃で私の脇腹を刺そうとする。固いものがぶつかりあう音がする。私は右手のレイピアでその攻撃を弾いた。
やはり数ではこちらが不利である。相手の攻撃は全て受け止められる自信はあるが、こちらが攻勢することは出来ない。
私は後方に下がり距離を取ろうとする。しかし、積もっている雪に足が取られて思うように動けない。
それに対して雪女達は雪道での移動になれているのか、スムーズに私を追いかける。ダメだ。距離を取ることは出来ない。
ならば迎えうつしかない。距離を取って体勢を整えられなかったのは誤算だが、それで負けるような私ではない。これまでも私は数々の修羅場を潜り抜けてきた。今回だって負ける気はしない。
コハクの刃が私を切り裂こうとする。とても稚拙な剣。騎士団で日々、訓練している紅獅子騎士団の皆に比べると圧倒的に劣るそれをマン・ゴーシュで受け止める。
今度は刃を思いきり弾いてコハクの隙を作った。今この瞬間にレイピアを差し込めば私の勝ちだ。残り一体ならそう苦労せずに倒せるはず。
そう思っていたが、今度はザクロは私に息を吹きかけてきた。とても冷たい風が私の右手に当たる。私の右手はみるみるうちに凍り付いてしまい、動きが鈍くなってしまった。
「な、なんだこれは!」
「ふふふ。雪女の吐息はどうだい? 私達はこの吐息で色んな男を虜にしてきたのさ。まあ、女に向かって、この息を吐いたのはアンタが初めて。それを光栄に思いな」
折角の攻撃のチャンスを失ってしまった。それだけではない。体が凍えてしまい、先程より私の動きは鈍くなっているのだ。これは戦いが長引けば長引くほど私の不利になってしまうであろう。
「姉さん。ありがとうございます」
「コハク! 今の内にこの女を串刺しにしてしまいな!」
「はい!」
コハクの氷の刃が私の心臓を狙って伸びて来る。まずい。動いて私の体! 動け!
私は凍える体をなんとか動かして、コハクの氷の刃をマン・ゴーシュで防いだ。危なかった。後一瞬動作が遅れていたら、私の心臓は刺されていたであろう。
この雪女達は予想以上に強敵であった。ラインが負けるのも無理はない。だけれど、私は紅獅子騎士団の団長として……そ、その……ラインの自称恋人として負けるわけにはいかないんだ。
私は決意を固める。騎士とは肉体的な強さだけではない。精神的な強さも求められる。私はメンタルは弱いけれど、ラインがいてくれたならいくらでも戦える。ラインは私の心の活力なのだ。そのラインを奪おうとしている奴がいるとするなら……私はそれを許すわけにはいかない。
私は恨みの力を燃え上がらせた。こいつらはラインに酷いことをした。それだけで倒すのには十分すぎるほどの理由がある。
「姉さん。こいつ反抗的な目をしてますよ? どうします?」
「私の冷気を受けてまだそんな気力があるなんてね。愚かな人間もいたものね。なら二人同時に息を吹きかけてあげようか! 私達姉妹の吐息であの世に逝かせてあげる!」
「ええ。そうしましょう姉さん」
何やら雪女達が作戦会議を始めているようだ。しかし、そんなものはもうどうでもいい。こいつらは私を怒らせた。それだけで三秒後には八つ裂きにされているほど十分すぎるほどの理由だ。
私は体の中心……臍の下辺りに力を入れた。ここに力を入れると不思議と全身に力が満ちて来る。全身の血流が良くなり、寒さも収まって来た。これならいつも通り動ける!
私は、紅獅子騎士団一のスピードで、ザクロに向かって距離を詰める。そして、紅獅子騎士団一のパワーを持ってレイピアを振るい、ザクロの口を思いきり引き裂いた。
ザクロが知覚出来ないほどのスピードでそれを行ったのか? ザクロは最初何が起きたのかわからないと言った風な感じで私の方を見ていた。痛みを感じるよりも速く切り裂かれたからなのだろうか。まだ状況を理解出来ていないようだ。それが段々と自身の口の痛みに気づいたのか、情けなく悲鳴をあげて雪の上をのたうちまわる。
「ね、姉さん!?」
「がは……」
「さっきの息を私にくれてやるつもりだったんだろう? だから呼吸がしやすいように口を大きくしてやった。感謝しろ」
私はザクロに向かってレイピアを向けた。そしてコハクの方を向き直り、表情を崩さぬまま尋問を開始することにする。
「これから質問をいくつかする。もし、嘘をついていたり、ふざけたことを言ったとこちらが判断した場合。お前の姉を刺す。もちろん、長く苦しむように急所を外してな」
「わ、わかった。しょ、正直に答えるから姉さんに酷いことをするのはやめて」
ラインに手を出しておいてどの口がほざくか。大切な人を痛めつけられる苦しみをその身に味わわせてやる。
「まずは確認だ。ラインは無事なんだろうな?」
「ま、まだ生きてはいると思う……」
「なら、ラインの居場所はどこだ?」
「わ、私達の住処を教えろって言うのか?」
私は躊躇うことなく、ザクロをレイピアで突き刺した。カエルが潰れたような悲鳴をザクロが上げる。
「訊かれたことだけを答えろ」
「わ、わかった! わかったからこれ以上姉さんを苦しませるのはやめて……私達の住処はここから北北西にある洞窟にある。大木が目印だ」
「そうか……それだけわかれば十分だ」
私はレイピアでザクロの喉元を思いきり刺突した。この攻撃を受けてはもうザクロは生きてはいられないだろう。
「な! ね、姉さん!? ど、どうして! 本当のことを言ったのに刺すなんて酷いじゃないか!」
「私は嘘をついたら急所以外を刺すと言っただけだ。本当のことを言ったら解放するとは一言も言っていない」
「そんな……」
私は呆然とするコハクをそのままレイピアで突き刺し殺した。奴らは妖怪だ。放っておけばまた新たな被害が出る。殺さなくてはならない存在なのだ。
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