僕はいつものように休日に古本屋に出向いていた。今日は新しい知見を得たいなと思い普段は手に出さないジャンルの本に手を出してみようと思う。
僕はいつも学術書などを読み漁っているのでたまには違う本を読みたい。尚且つタメになる本がいいなと本を探していたら恋愛指南書という本を見つけた。
いいじゃないかこれは。俗っぽくてタメになりそうな本だ。これで恋愛のことを勉強して女心を学べばロザリーを甘やかす時に役立つかもしれない。
僕は早速本を買うことにした。
「すみません。おじさんこの本下さい」
「恋愛指南書……ライン。キミもついにそういう年頃になったか。あのバカ真面目のラインがねえ」
「ええ。たまには恋愛について勉強してみるのも悪くないと思いまして」
僕は本の代金をおじさんに支払った。おじさんは本を紙袋に包んでくれた。
「好きな人でも出来たのか? どんな人なんだ? 教えておくれよ」
「いや、そんな僕に好きな人なんてまだ早いですよ。今はロザリーのことで頭がいっぱいですから」
古本屋の店主は不思議そうな顔をした。僕は何かおかしいことを言っただろうか。
「ふっ……中々面白いことを言うね。ロザリーと仲良くな」
「はい!」
僕は本が入った紙袋を受け取って古本屋を出た。早速家に帰って読もう。楽しみだな。
◇
家に帰った僕は紙袋を開けて早速中の本を取り出した。恋愛指南書一体どんなことが書かれているのだろうか。
僕は恋愛指南書をじっくり読みこんだ。男性向けの女性の心を鷲掴みにするような内容が書かれていてその通りに実践すれば僕にも何だか彼女が作れそうな気がしてきた。まあ、特に相手はいないんだけどね。
その中で一つ。目を引くものがあった。女性は記念日を大切にするが、記念日でもない日にプレゼントを贈られると喜ぶという。なるほど。盲点だった。プレゼントと言えば記念日に贈るものという固定概念が僕の中では確かにあった。
今度、何でもない日にロザリーに花を贈ってみようかなと僕は思った。
しかし、ここで一つ問題が発生する。残念なことに僕はロザリーがどんな花が好みなのか全く知らないのだ。ロザリーも女性だからきっと花は好きだろうと思うけど、一口に花と言っても色々な種類がある。
好みでない花を渡したところでロザリーが喜ぶとは思えない。却って迷惑に思われてしまうかもしれない。かといって本人に直接何の花が好きか訊くというのも嫌だな。こう、サプライズ感が欲しいというか、変に感づかれたくない。女性は勘が良いと良く聞くし。
そうなると方法は一つしかない。女友達を利用することだ。同じ衛生兵仲間のキャロルに頼んでロザリーの好みをさりげなく訊いてもらおう。
◇
翌日休暇明けの僕はキャロルを探すことにした。探していない時には何処にでもいる癖に、探している時に限っては中々目につかない。
キャロルを探しているとロザリーとばったり会った。
「ねえ、ロザリー。キャロル知らない?」
「キャロルならさっきトイレで花を摘んでたぞ」
なるほど。なら少し待つしかないか。流石に女子トイレの前で待つわけにはいかないから、適当にブラブラしてよう。
数分後、花を摘んできたばかりのキャロルとばったり遭遇した。
「あ、ラインさん。私を探してたんですか? ロザリー団長に訊きました」
なんだ。キャロルとロザリーはさっき会ったのか。
「ああ。キャロルに頼みたいことがあってね。ロザリーがどんな花が好きなのか訊いてきて欲しいんだ」
「何で自分で訊かないんですか。ってかさっきロザリー団長と話していたなら直接訊けば良かったじゃないですか。二度手間ですよ!」
正論で返されてしまった。キャロルにはこの微妙な男心というのをわかって欲しい。女性をサプライズで喜ばせたいという純情な感情を。
「まあ、ラインさんが何を考えているのか大体わかりますけどね。妬けちゃいますヘン」
キャロルが拗ねてしまった。まずいな彼女の機嫌は損ねたくなかったけど。
「まあいいですけどね。二人は両想いみたいですし」
両想い? キャロルは一体何のことを言っているのだろうか。
そして、丁度いいところにロザリーの姿が見えた。キャロルはすかさずロザリーの元へと駆け寄った。僕は彼女達の会話を遠くから聞き耳を立てることにした。
「ロザリー団長。ラインさんがロザリーさんの好きな花が訊きたいんですって」
キャロル。キミは何を口走っているんだ! 普通僕が訊きたがっていることを伏せるだろ! 頼んどいて言うのも難だけどアホか!
「ラインがか? なるほど。ラインの奴、好きな女でも出来たのか? その女にプレゼントするための調査として一般的に何の花が好まれているのか調べてるんだな」
ロザリーの謎の深読みのお陰で助かった。僕がロザリーに花を贈ろうとしているのはバレてないようだ。
「私が好きなのはスロボルの花だな。新種の花らしいんだが、初めて見た時感動したんだ。こんな綺麗な花があったんだなと」
なるほどースロボルの花かー。ってそんなもん花屋に売ってるわけないでしょうが! あんな希少な植物をまた取りに行くのは面倒すぎる。
「あのー他の花をお願いします。ラインさんが可哀相になるので」
キャロルナイス軌道修正。
「そうだな。次に好きなのはフリージアかな」
「なるほど。ラインさんに伝えておきますね」
フリージアか。なるほど。それなら花屋にも売ってそうだな。よし、今日の仕事終わりにでも買いに行こうか。
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