女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

81.アルラウネ発見

公開日時: 2020年10月16日(金) 19:05
文字数:2,195

 ガスラド村に辿り着くと、待機していた騎士達とジャンが出迎えてくれた。既に帰還していた班もいて、その班もリザードマンの奇襲を受けたらしい。衛生兵のキャロルがその奇襲を受けた騎士の傷を手当てしてくれている。


「まさか。リザードマンに奇襲されるとは驚きでしたね。正直彼らを舐めていました」


 ジャンはズレ落ちてきそうなメガネをくいっと上げる。


「リザードマンは滅多に人を襲うことはありません。特に武装している集団に対しては警戒して近づかないようにしているはずです。それなのに、我々に奇襲をかけてきたということは、恐らくミネルヴァが既にリザードマンと接触して彼らに我々が敵であると吹き込んだのでしょう」


「ああ。ジャンの言う通りかもしれないな。奇襲に対して全く迷いがなかった。リザードマンに接触してそのような入れ知恵を出来る人物はミネルヴァしかいない」


 ロザリーとジャンが話している間、僕は清潔な水を汲んできてキャロルに手渡した。キャロルはそれで布を濡らして負傷した騎士の体を拭いてあげている。


 ふと小屋の扉が勢いよく開けられる音がした。


「ジャンさん! アルラウネを発見しました!」


 アルノーの大声にジャンは溜息をついた。


「アルノー。負傷者がいます。静かにして下さい」


「す、すみません」


「それよりアルラウネがいたというのは本当ですか?」


「あ、はい。南側の森の泉付近で水浴びをしていました。ミネルヴァの匂いを覚えているクランベリーについていったら見つけました」


「なるほど……ミネルヴァの匂いを追跡した結果、アルラウネを見つけたということは、既にミネルヴァとアルラウネは接触している可能性は高いですね。アルラウネの花弁の状態は確認しましたか?」


 アルラウネは頭に花弁がある種族だ。もし、ミネルヴァがアルラウネの花弁を手にしているならアルラウネは頭に何も付けていないことになる。


「花弁はきちんとありました。もぎ取られていません」


「なるほど……ミネルヴァはまだアルラウネの花弁を入手していないということですね。これは朗報ですね。もう一度ミネルヴァがアルラウネと接触を図るかもしれません。その時に彼女と直接対決しましょう」


「アルノー。私をアルラウネの所に案内してくれ」


「はい! ロザリー団長」


「ロザリー。ミネルヴァと戦いになるかもしれません。きっちりとメンバーを選出して下さいね」


「ああ。わかった。とりあえず衛生兵は一人欲しい。ライン来てくれ」


「わかった。後はよろしく頼むよキャロル」


「はい! 任せてくださいラインさん!」


 ロザリーは待機していた騎士の中で腕力に自信がある者を二人選んで小隊を組んだ。スピードとテクニックに優れるアルノーとのバランスを考えた結果なのだろう。


「俺の自慢のパワーでミネルヴァをとっ捕まえてやるぜ。へっへっへ」


 僕達はアルラウネがいる泉を目指して森を南下することになった。泉がある所近辺はモンスターが出るらしくて子供の頃の僕は立ち入りが許されていなかった。そんな所に行くものだから何だか悪いことをしているようでドキドキする。もう僕は大人だから関係ないことなのだが。


 南に進めば進むほど木々が濃くなっている。アルラウネの住処がある付近は植物の活動が活発になり、木々の成長が早まるというのだ。そのせいか、空が大木の葉に覆われて日の光が差し込まずに暗くなっている。


「この辺りです」


 アルノーが指さした方角を茂みの中からそっと覗く。そこにいたのは、緑色の肌をして頭には花が付けられているアルラウネであった。手足は根っこで出来ていて手を器用に使って体を洗っている。


「ふんふんふーん」


 鼻歌を歌って上機嫌のようだ。何かいいことがあったのだろうか。


「僕が村と泉を往復するまでの間ずっと水浴びしてたのか。どんだけ水浴びが好きなんだ」


「確かに。植物だから水が好きなのかもね」


 植物型モンスターとはいえ、女性の水浴びを覗くのは何だか罪悪感がある。しかし、そんなことも言ってられない。このモンスターはミネルヴァの手がかりを持っているかもしれない。


「ふふふ。ミネルヴァがあのガスラド村を滅ぼしてくれれば、私達の生息域も広がるってものね。アルラウネはこれからもっと繁栄するのよ」


 ガスラド村を滅ぼす……一体どういうことだ? あそこには僕の父さんと母さんがいる。他の村民はどうでもいいけど、滅ぼされるわけにはいかない。


「皆! 後ろだ!」


 ロザリーの声がする。後ろ? どういうことだ?


「流石はロザリー団長。私の気配に気づくなんてね。それにしても、モンスターの水浴びを覗くなんて悪趣味ね」


 背後から声がした。僕は急いで背後を振り返ると、そこにはミネルヴァの姿があった。


「え? 何々? なんなの?」


 僕の背後でアルラウネが何やら慌てているようだ。彼女は状況がよくわかっていないらしい。この位置取りはまずいな。背後にはアルラウネ。前方にはミネルヴァと挟み撃ちになっている。


「今頃、ガスラド村にはリザードマンの兵団が奇襲をかけに行っている頃よ。ふふふ。あそこにはあなた達の仲間もいるのよね。どうなるのか楽しみね」


 まずい。ガスラド村には負傷した騎士や戦闘能力のない軍師のジャンと衛生兵のキャロルがいる。一応戦える騎士も残しているが、彼らを庇いながらでは戦局は厳しいだろう。


 ミネルヴァが口笛を吹いた。すると木々の影からリザードマンが数体現れた。どうやら戦いは避けられないようだ。

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