リザードマンの軍勢と紅獅子騎士団の戦いが始まった。それぞれが剣を武装した中での戦いだ。
一人の騎士がリザードマンの攻撃を受けて剣を落としてしまった。
「しまった」
「終わりだ! 人間!」
リザードマンのサーベルが剣を落とした騎士に襲い掛かろうとする。しかし、そのタイミングでリザードマンの体に風穴が開いた。
「が……」
高い位置に陣取っている蒼天銃士隊の銃弾がリザードマンの体を貫いたのだ。騎士はその隙に剣を拾い、リザードマンに止めを刺した。
大丈夫だ。蒼天銃士隊の皆と連携が取れている。この戦い勝てる! 僕はそう慢心していた。この場は皆に任せていいと。
だからこそ、僕はユピテルと戦うためにどんどん前へ出た。
「ライン! 待て! 前へ出すぎだ!」
ロザリーの制止する声を無視して、僕は前進を続ける。ユピテルと決着をつける! 奴は不死身かもしれないけれど、それでも倒せば一定期間無力化出来る。その間に地下牢に永遠に閉じ込めればいい。王都に侵攻した確かな証拠があるし、今ならユピテルを追いつめられる!
「行かせねえよ!」
僕の周りを数匹のリザードマンが取り囲む。しまった! 周りには味方の騎士がいない。
「貴様らどけ」
ユピテルが背後からそう言うとリザードマンはあっさりと引き下がった。どういうことだ。僕を倒す絶好のチャンスを自ら逃したぞ。
「私とサシで戦おうとするなんて嬉しいぞライン。さあ、早く私の元へ来るがいい」
ユピテルは自身が持っているサーベルを抜き取り構えた。僕と一対一の戦いを望んでいるようだ。面白い。この手で決着をつけてやる!
「僕は紅獅子騎士団の騎士ライン。ユピテル男爵。貴殿に決闘を申し込む!」
「私はユピテル男爵。その決闘、受ける! リザードマン達よ。私とラインの決闘を邪魔するなよ」
決闘が成立した。ユピテル男爵は早速僕に斬りかかった。僕はそれをクレイモアで防ぐ。そして、奴のサーベルを力いっぱいはじき返す。
「両手剣のクレイモアか。キミの戦闘スタイルに合っているとは言い辛いんじゃないか? やはり、キミにはレイピアとマン・ゴーシュの二刀流が似合っている」
「黙れ! このクレイモアはオリヴィエの形見だ。彼の思いが籠っている剣だ!」
「恨みの間違いではないのかい? キミは彼を殺してしまったのだろう?」
「ぐ……そんな言葉で僕は惑わされない!」
僕は感情の赴くままにクレイモアを振るった。しかし、その軌道はユピテル男爵に読まれているのかあっさり回避されてしまう。
「どうした。ライン。やはり剣に迷いがあるようだね。その迷いがある剣で私が倒せると思うな!」
ユピテル男爵のサーベルが僕の左腕を削り取る。掠った程度だが、血が出ている。痛みは今の所ないが、戦いが長引けば不利になってしまうだろう。
迷いがあるか……まるで僕の感情が見透かされているようだ。確かに、トラウマを払拭して剣を握れるようになった。けれど、僕は未だにオリヴィエに恨まれているんじゃないかと思ってしまっているのだ。その自責の念が迷いとなり、剣筋に曇りを生じさせている。
「迷いを捨てろ。ライン。出なければ私に勝てんぞ」
「言われなくたって!」
僕はユピテル男爵に言われて余計に頭が血が昇った。彼の挑発だとわかっていても、どうしても心が勝手に反応してしまう。
僕は自身の心を誤魔化すように叫び声をあげながら、ひたすらユピテル男爵に斬りかかった。何度も何度も斬りかかる。だが、そんな稚拙な剣で捉えられるほど、ユピテル男爵は甘くない。全ての攻撃を避けられてしまった。
「やはり、キミにそのクレイモアは似合わない。レイピア使いのままでいたのなら私に勝てたのかもしれないがな」
「黙れ!」
事実、僕はレイピアを用いた戦闘ではユピテル男爵に勝っている。その事実があるが故に、今の戦況が重くのしかかる。僕はオリヴィエの想いを継ぐことが出来ないのか……?
――……イン……ライン!
何だ? 今、声が聞こえたような気がする。どこだ? どこから声が聞こえた? それにこの声は聞き覚えがある。一体誰の声だっけ。とても懐かしい、そんな感じの声だ。
僕が声に気を取られている隙に、ユピテル男爵が斬りかかって来た。僕は寸前の所でその一撃に気づくことが出来て、回避に成功した。後コンマ1秒遅れていたら、僕は斬られていたであろう。
「どうした? 集中力を欠いたのかね?」
ユピテル男爵には今の声は聞こえなかったのか? それとも僕の幻聴なのだろうか。
「おい! ライン!」
僕の後方から声が聞こえてきた。この声はクローマル。ここまで辿り着いたのか?
「ったく! お前が前に出すぎたせいでロザリー姐さんが心配してんだろうが! 姐さんは団長で指揮しなければならない立場だ。前に出れねえから代わりに俺が来てやったぞ」
「あ、ああ……ごめん」
クローマルの言う通りだ。僕は独断で前へ出てしまった。これは流石に申し訳ないことをした。
「何だ貴様は……私とラインの決闘を邪魔しないでくれたまえ!」
「んな無粋な真似しねえっての。ただ、ラインと少し話をしてもいいか?」
「ああ。認めよう」
話? 一体何だろう。クローマルが僕と話したいだなんて珍しいな。
「ライン。俺はハッキリ言ってお前が嫌いだ。ロザリー姐さんに気に入られているからな! そこが気にくわん!」
「はあ……」
何だ。そんなことを言うためにわざわざここに来たのか?
「だけどな! お前が死んだらロザリー姐さんが悲しむ! それはもっとムカつく! だからお前は生き残れ! そして、俺が生き残るための|術《すべ》を教えてやる!」
「生き残るための術だと……? 一体どういうことだ?」
「俺の刀には雷に打たれた刀鍛冶の霊が宿っていることは知ってるな? 俺はその力を引き出しているから強い」
クローマルがドヤ顔でこちらを見ている。こんな時に自慢しに来たのかこいつは……
「だからお前もやれ! そのクレイモアには霊が宿っている。その霊と対話して協力して戦え」
「このクレイモアに霊が宿っているって?」
「お前、霊感とかなさそうだからな。気づいてないかもしれねえが、そのクレイモアの霊はずっとお前の傍にいてくれたみたいだぜ」
僕の傍にずっといてくれた霊……? このクレイモアに霊が宿っていると意識してみると確かになんかぞわっとしたものを感じる。なんだろうこの感覚……
――ライン……俺の声が聞こえるか?
「こ、この声は……オリヴィエ!?」
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