女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

45.ウェアウルフ討伐

公開日時: 2020年10月5日(月) 23:05
文字数:1,859

 僕達はクヌム草原へと足を踏み入れた。この草原は遊牧民達が移動しながら暮らしていて、主に酪農や畜産で生計を立てている場所だ。ケルグ農業地区と同様にここも王国の重要な食料供給源だ。


 草原を馬で駆け抜ける紅獅子騎士団。羊飼い達が住むキャンプ地まで一直線に進んでいく。草原を風を切って馬で駆け抜けていくのはとても気持ちいい。王都にはない自然を満喫する。


 騎士団はキャンプ地へと着いた。皆が馬から降りる。キャンプ地にいる首長が僕達を出迎えてくれた。首長は四十代くらいの男性で先日父親からその役目を引き継いだらしい。彼が首長になった矢先にウェアウルフに襲われるという不幸に見舞われたのだ。


「紅獅子騎士団の皆様ようこそおいでくださいました。貴女が団長のロザリー様ですか。噂通り美しいお方ですな」


「ははは。お世辞がお上手ですな。首長殿」


 首長とロザリーは握手を交わす。


「ところで首長殿。ウェアウルフの被害状況を確認したいのですが」


「はい。繁殖用の羊は保護していたので、なんとか全滅は避けられましたが、今月出荷する分の殆どを食い尽くされてしまいました。ウェアウルフの足跡から奴らが来た方向はわかります」


「なるほど。では、ウェアウルフの巣を叩くとするか。全軍突撃だ!」


「待ってくださいロザリー。全軍突撃して、その間にウェアウルフとすれ違いになりまた集落を襲われたらどうするんですか?」


 ジャンが冷静にロザリーを諭す。流石軍師だ。


「む……確かに」


「ロザリー。貴女は少し焦りすぎです。周りをもう少し見た方がいいのでは」


「私だって! 周りをよく見ている! 一人で突っ走ったりしてない!」


 ロザリーはジャンの指摘に対してムキになって反論する。ロザリーの剣幕に気圧されたのかジャンはそのまま引き下がってしまう。


「ジャンすまない……確かに私は焦っていたのかもしれない。キミの言う通りだ」


「いえ。私こそ貴女の気持ちも考えずにズバズバと言いすぎました。申し訳ありません」


 ロザリーが焦っている原因。それはロザリーが見た夢にあるのだろうか。自分のせいで騎士団が半壊して、僕も死んでしまったというロザリーの悪夢。それが彼女の脳裏にまだ焼き付いているのだろうか。


「ここは二手に別れよう。ウェアウルフの足跡を追跡して叩く部隊とこの集落を守る部隊にだ。今から隊の振り分けを発表する。今から呼ばれた者は私と同じ部隊でウェアウルフの巣を叩きに行く」


 ロザリーは騎士達の名前を次々に呼んでいく。衛生兵もロザリーの部隊に必要であろう。ここは衛生兵の中で一番戦歴が長い僕が行くべきだ。ロザリーもそのことはわかっていると思う。


「……衛生兵代表はキャロル。キミが来てくれ」


 え? 僕じゃない……一体どういうことだ。


「わ、私でいいんですか?」


「ああ。一緒に付いてきてくれ。皆! 行くぞ!」


 そうしてロザリーは探索用にクランベリーを連れて、ウェアウルフの足跡を追うことにした。僕はアルノーやジャンと共に取り残されて集落の護衛をすることにした。



 ロザリーが去った後はとても寂しかった。いつも一緒の部隊で戦っていただけに彼女のことが気がかりで仕方ない。何で……何でロザリーは僕を選んでくれなかったんだ。


「ロザリーに選ばれなかったのがそんなにショックですか?」


 ジャンが僕に話しかけてくる。そうか、ジャンは僕がロザリーと仲が良いのを感づいていたんだったな。


「ロザリーの様子はどうもおかしかった。ライン。貴方、ロザリーとの間に何かあったのですか?」


「ロザリーが夢を見たらしい……僕が死ぬ夢をだ……それからロザリーの様子がどうもおかしいんだ」


 ジャンはズレてきたメガネを指で押さえて位置を調整する。


「なるほど……夢ですか。正夢というものがありますからね。ロザリーはそれに怯えているのでしょうか……ただ、たかが夢で怯えるなんて彼女らしくない。夢を信じる根拠のようなものがあるんじゃないですか?」


 夢を信じる根拠……思い当たるとしたら戦場で恋に落ちたら死ぬというジンクス。僕が告白した直後にあの夢を見たからロザリーは悪夢に囚われたのか。


 僕のせいだ……僕が彼女に想いを伝えてしまったから……


「どうやら思い当たることがあるようですね。二人の間のことは私にはわかりません。ならライン。貴方が解決してあげるべきなのでは? そういうのは男性の役目ですよ」


「ああ。わかってる……わかってるさ」


 けど、僕にはどうしていいのかわからなかった。ロザリーをいくらでも励ましてあげる機会はあったのに、慰めてあげたのに、それでも僕の声は彼女には届かなった。

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