アルノーがリッチーを引き付けてくれている間に、僕達は陛下とジュノーの元へと向かった。
ロザリーが真っ先にジュノーに斬りかかる。ジュノーはその一撃を躱した。ロザリーの素早い剣を躱すとは、ジュノーも相当腕が立つようだ。
だが、この回避行動で陛下とジュノーの距離は離れた。陛下をお助けするなら今しかない。
「ライン! 陛下を頼んだ」
「ああ。任された」
ロザリーとクローマルがジュノーに詰め寄っている。ジュノーは全速力で逃げて、謁見の間から出た。ロザリーとクローマルはそれを追いかける。
今のうちに僕は陛下を縛っている縄を解いた。陛下のお身体が心配だ。僕は元衛生兵として陛下の体調に気を遣った。
「陛下。お怪我はないですか?」
「ライン……助かった。礼を言う。奴らに暴行を何度か受けてしまった……」
「ジュノーめ……陛下になんてことをするんだ」
どうやら、陛下は長い間縛られていて、同じ体勢でいたせいで鬱血の症状が見られている。
それにジュノーから受けた暴行が心配だ。とにかく治療しなければ……
◇
ったく、俺が東洋からこの国に来たばかりだっていうのに、こんな大事件に巻き込まれるなんてツイてないぜ。
だけれど、ロザリー姐さんの役に立てる機会が来たのは、そう悪いことではない。俺は今ロザリー姐さんと二人でジュノーとかいう奴を追っている。ここでロザリー姐さんに格好いい所を見せて、男としてアピールしなければ。
「ジュノーはバルコニーに逃げたぞ。あそこは行き止まりだ。奴を追いつめたぞ!」
俺はこの城の構造をよく知らないけれど、ロザリー姐さんが言うならそうなんだろう。ジュノーも間抜けだな。逃げ場がない場所に逃げ込むなんて。
俺達はバルコニーに突入した。ロザリー姐さんの言う通り、ジュノーには逃げ場がなくなった。まさか、三階のこの高さから飛び降りるわけでもあるまいし、完全に追い詰めた。
「逃げ場がなくなったようだなジュノー」
ロザリー姐さんがジュノーに向けて、レイピアを向けてそう言う。格好いい。本当に惚れ惚れする。
「ふふふ。逃げたつもりはないわぁ……二対一は流石に不利だから増援を呼んだの……」
ジュノーがそう言うと、奇妙な鳥の泣き声がしたと思ったら大きな鷲のようなモンスターがバルコニーに降り立った。
「な、何だそのモンスターは!」
俺は西洋のモンスターに詳しくはない。だからこいつは、全く見たことのないモンスターだ。
「ふふふ。この子はグリフォン。翼の生えた獣よ。さあ、グリフォンちゃん。私に加勢してちょうだい」
グリフォンは奇声を上げて、俺に向かって飛んできた。そして、そのかぎ爪で俺を掴むと空へと飛び立つのであった。
「クローマル!」
ロザリー姐さんの声が俺を呼んでいる。けれど、グリフォンはどんどん上空へと舞い、次第にロザリー姐さんの姿が豆粒のように小さくなっていく。こいつ、どこまで飛ぶつもりなんだ。
ある程度の高さに到達した時、グリフォンは俺を離した。俺はそのまま落下していく。加速度的にどんどん勢いが増す。俺はこのまま地面に叩きつけられて死ぬのか……? そう思っていた。
結果的に俺は死ななかった。俺が落ちたのは王城の中庭だ。中庭にはゾンビが蔓延っていて、俺の下に丁度ゾンビがいた。
俺はそのゾンビがクッションになって助かったのだ。一方、俺の下敷きになったゾンビはグチャグチャの液体とも固体とも言えない物体になって飛び散った。
よく飛び降り自殺をして、その下にいた人にぶつかり、それがクッションになって一命を取り留めたという話がある。ぶつかられた方が死んで、死にたかった当人が生きているというのもなんとも皮肉な話だ。まさか、俺の身の回りで似たようなことが起きるとは……
助かったには助かったけれど、気色悪い感触が体を包みこむ。ゾンビ特有の腐臭も体に染みついてしまったようだし、最悪な気分だ。
だが、助かったことを安堵してもいられない。俺は既にゾンビに取り囲まれている。ゾンビ達は仲間を殺されたと思い、俺に憎悪の目を向けている。
こいつら一人一人片付けていくのは骨が折れるな……なら、俺の持っている刀に宿る力を解放して一掃するしかねえな!
「来い! ゾンビ共! 俺の力で痺れさせてやる!」
俺は刀に宿る霊力を解放して、雷を発生させた。四方八方に雷を飛ばして、ゾンビ共を焼却していく。
これで大体のゾンビを消し去った。とりあえずの脅威は去った。そう思っていたら、上空から何かが急降下してくる。
あれは、グリフォンだ。グリフォンはまた俺を掴もうとしてくるのか、かぎ爪を前に出している。
俺は刀を構えた。そして、すれ違い様にグリフォンのかぎ爪に斬りかかった。俺の刀とグリフォンの爪がぶつかり、カキンと弾く音が聞こえた。
俺の手がじんじんと痺れる。なんて力だ。俺もそこそこ力には自信があるが、それすら上回るであろう威力だ。
グリフォンは再び弧を描くように、上昇する。そして、俺目掛けてまた急降下をする。今度は嘴を前に突き出している。俺を突き刺そうというのか。
上等だ! どこからでもかかって来い!
俺はグリフォンの嘴を刀の峰で防いだ。衝突の瞬間、落下の衝撃も乗っているせいか力負けしそうになる。けれど、俺は踏ん張り、何とか押し負けることはなかった。
今なら奴の嘴と俺の刀が接している。直接電撃を流すことが出来る! 俺はそのまま、刀の霊力を解放してグリフォンに電撃を流し込んだ。
直に電撃を流し込まれたグリフォンはショックを起こして、そのまま地面へと落下した。
「これで終わりにしてやる!」
俺はグリフォンの翼を刀で、斬り落とした。片翼を失ったグリフォンは二度と飛べなくなり、バランスもとれなくなり、立ち上がることすら出来なくなる。
俺はそのままグリフォンの胴体に刀を突き刺した。グリフォンは断末魔の叫びをあげて、そのまま息絶えた。
なんとか勝つことが出来た。早くロザリー姐さんの所に戻らなければ。ロザリー姐さんならジュノーに負けることはないにしても、やはり心配だ。
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