「これで最後だ!」
クローマルが力を振り絞り、雷の力で最後のスライムを蹴散らした。刀の霊力を引き出したからか、クローマルの顔には疲労の色が伺える。
「ハァハァ……道は開けたぜ……後は頼んだ。俺がここまでやったんだ。下手やったら承知しねえぞ」
「キャロル。クローマルの所に行って彼の体調を診てくれ」
「はい」
僕は元衛生兵のリーダーとして、キャロルに指示を出した。
「クローマルさん。大丈夫ですか?」
「チッ余計なお世話だ」
「ええ……」
キャロルの善意を無下にするとか、なんてひどい奴だ。本当に実力はあるのに、性格に難がある奴だな。
「クローマルが道を作ってくれた! 前線の重装兵はオークに突撃だ!」
ロザリーの指示を受けて、重装兵が突撃する。パワータイプのオークには同じく、パワーに優れる重装兵をぶつける。戦略としては悪くはない。
「野郎共! ロザリーのために頑張るぞ!」
「おー!」
重装兵の士気が上がる。流石はロザリー。一言指示するだけで、団全体の士気を上げられる。強いのは勿論だけれど、ロザリーの団長の資質はこういう所にあるのだろう。団長の顔をしている時のロザリーは決してブレずに、部下を信頼して指示を的確に出す。誰にでも出来ることではない。
「軽装兵はそのまま前進だ! 重装兵とオークの戦場の隙間を縫って、とにかく前へ進め!」
ここで、重装兵の後方で待機していた軽装兵が前へ出る。隊列的には逆転している。このまま前へと進めば、ゴブリンと軽装兵部隊がぶつかることになる。
「アルノー! 後は任せたぞ!」
「はい! ロザリー団長!」
ロザリーはアルノーを始めとする軽装兵部隊にゴブリンの相手を任せて、先へ先へと進んでいく。どうやら、ロザリーもアルノーの騎士としての資質を見出しているようだ。彼はこのまま成長すれば、いずれ隊長、団長クラスになる騎士だ。それだけの可能性を秘めている。
「ライン! 私に付いて来てくれ!」
「ああ。わかった!」
僕とロザリーは二人で最後のウェアウルフの群れへと突っ込んだ。人数で言えば一番薄い層である。ハッキリ言って数の上では勝機はないだろう。
実際、僕とロザリーは過去に二人だけで、ウェアウルフの群れに立ち向かおうとした時がある。その時はハッキリ言って死を覚悟したが……今なら負ける気がしない!
竜騎士の力に覚醒して最強になったロザリーが付いている。こんなに心強い味方はいない!
「行くぞ!」
ロザリーがレイピアを一振りする。それが空気を切断して、衝撃波となり、ウェアウルフの軍勢を切り裂いていく。ウェアウルフは飛び道具を持たない接近戦が主の種族である。遠距離から攻撃出来る手段を得たロザリーの敵ではない。
ウェアウルフは完全にロザリー一人に対して怯んでしまっている。気持ちの上では完全に勝っている。
「あらら。何しているのかしら、狼ちゃん達。そんな攻撃に怯む必要なんてないわぁ……既に倒れた仲間を盾にしなさぁい。そうすればその攻撃を恐れる必要なんてないわぁ」
ジュノーの指示を受けて、ウェアウルフ達は前線に立って倒れていた仲間を持ち上げた。そしてそのまま仲間を盾にしてこちらに突っ込んでくる。
なんて発想しているんだこの女は……人の感情というものがないのか?
「でや!」
ロザリーが再び空気を切断した衝撃波を当てようとしても、肉壁に阻まれてウェアウルフに当てることは出来なかった。
「く……お前達いいのか! その女の指示に従っていたらそんな外道な戦い方をさせられるんだぞ!」
ロザリーの問いかけに対して、ウェアウルフは唸り声を上げて返答する。どうやら、説得は通じないようだ。やはり、モンスターが言うことを聞くのはモンスターテイマーだけだ。
「うふふ……私の指示に従って一生懸命戦ってくれる子は好きよぉ……それを惑わせようとする女騎士は大嫌いだけれどね」
ある程度近づいてきたところで、先頭のウェアウルフが仲間の死体をロザリーに向かって放り投げた。ロザリーはその死体を躱す。
ウェアウルフは群れで暮らしていて、本来なら仲間思いの種族のはずだ。それなのに、こんな戦い方をさせられるなんて……
ロザリーが回避行動を取ったせいで一手遅れた。ウェアウルフの爪がロザリーの柔肌を切り裂こうとする。
「させるか!」
僕はクレイモアを振るい、ウェアウルフの爪を叩き折った。爪を破壊されたウェアウルフは怒り狂い、今度は僕を標的として飛び掛かってくる。僕を噛みちぎろうと大口を開けての行動だ。
「ライン!」
ロザリーが剣を振るう。その剣先からは炎が出てきて、ウェアウルフの体毛に引火する。焼かれたウェアウルフはそれを消そうとして、草原中を転がりまわった。
「ロザリー……今のは?」
「どうやら、私は炎を自在に出せるようになったらしい。これも竜騎士の力なのか」
獣は火を恐れる。ロザリーの炎を見た、ウェアウルフの群れは流石に本能には勝てないのか、後ずさりをする。
「怯むな! 相手はたかが二人じゃないの! どれだけ強くても数の上ではこちらが有利! 炎くらいなんとかしなさい!」
ジュノーが滅茶苦茶な命令を下した。ウェアウルフはその命令に従い、こちらに突進してくる。なんて哀れなモンスターなのだろう。敵ながら同情する。
「お前達も本当は戦いたくないのかな……」
ロザリーは悲しそうな目をしながら、ウェアウルフに立ち向かった。数多くいるウェアウルフをばったばったとなぎ倒す。竜騎士の力に目覚めたロザリーは、数の上の不利すらも通用しない。正真正銘の最強の騎士となった。
数分後、百を超えるウェアウルフの屍の周囲にロザリーは立っていた。その怒りに満ちた目はジュノーを捉えていた。
「ジュノー! 許さんぞ!」
「あらら。怖い怖い。怖い女騎士さんに殺される前に逃げようかしらね」
そう言うとジュノーは駆け足で逃げ出した。
「待て!」
ジュノーを追いかけようとする僕とロザリー。しかし、地面から何者かの手が出てきて僕達の足を掴んだ。急に足を掴まれた僕達はそのままこけてしまう。
「あはは。ゾンビは地中に潜むのよぉ。私は死霊と化した存在。ゾンビと相性がいいのを忘れたのかしらぁ?」
ジュノーの不快な笑い声が徐々に小さくなっていく。逃げられてしまった。僕達はそのまま地中のゾンビを倒して、後方の騎士達も勝利を収めた。モンスターの大群を倒すという任務は達成出来た。しかし、首謀者であるジュノーを捕らえることが出来なかったのは心残りだ。
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