本選準決勝が始まった。準決勝第一試合はイタチ選手が勝利した。まあこっちは殆どどうでもいいか。肝心の準決勝第二試合、ロザリーとクローマルの対決が始まろうとしていた。
「ロザリー選手とクローマル選手。前に」
クローマルは相変わらず例の刀を持っているようだ。雷を発生させる妖刀十ノ神。その強さは僕が身を持って味わっている。
「よお。ロザリーと言ったな。降参するなら今のうちだぜ」
「誰が降参などするものか」
「へえ。随分と威勢のいいことで。女だから見逃してやろうと思ったが、痛い目を見せてやらねえとな」
「始め!」
審判の合図と共に、ロザリーはクローマルと距離を詰めた。先手必勝というわけだろうか。ロザリーの斬撃がクローマルに命中しようとする。クローマルはそれを慌てて刀で防ぐ。
ロザリーはパワーとスピード共に紅獅子騎士団の中でも最強である。クローマルはパワーはあるが、スピードはそれほどでもない。だからロザリーはスピードで攻める作戦を取っているのであろう。
「どうした? クローマル。動きが鈍いではないか。私の剣に見惚れたか?」
「抜かせ!」
ロザリーは素早い剣技でどんどん攻めていく。クローマルは防戦一方でカウンターすら仕掛けられない。剣術では圧倒的にロザリーが上を行っているのだ。
ロザリーのレイピアがクローマルの着物に切り込みを入れる。お互いどちらかが後少し前に出ていたら、確実にクローマルの肉は斬られていたであろう。
クローマルの額に汗がにじみ出てきている。流石の彼もロザリーの予想以上の実力に焦っているようだ。まさか異国の女騎士がこんなに強いとは思いもしないだろうな。
「く……俺を追いつめたことを後悔するなよ!」
クローマルの刀からバチバチという音が聞こえる。これは妖刀が雷を発生させている音であろう。ロザリーは雷に備えて身構えている。
「食らえ!」
クローマルの刀から雷が放たれた。その一撃がロザリーに命中する。
「貰った!」
ロザリーは痺れて動けないものだと思い込んでいるクローマルは思いきり、刀を振るう。かなり大振りで隙だらけの動き。ロザリーはその攻撃を躱して体勢を整えた。
「な!」
完全に虚を突かれたクローマル。一体何が起きたのか不思議で仕方のない顔をしている。
「ふう……ラインから貰ったこの金属製のブレスレットが役に立ったか」
「な! ど、どういうことだ!」
「うーむ……私には学がないから原理は知らないけれど、このブレスレットに電流が集まることで私は帯電せずに済んだというわけだ」
僕がロザリーに渡した金属はよく電流を通す性質がある。だから、電流はロザリーの体を素通りして、ブレスレットに集まる。一方で、ロザリーはブレスレットと自身の腕の間に布を巻いている。それによって、電気が流れているブレスレットに直接触れずに済んで雷のダメージを最小限に抑えたのだ。
「そ、そんなバカな!」
「貴様の雷はもう通用しない。ここからは純粋に剣の勝負だ!」
「く! 女に負けるかよ!」
クローマルは男の意地を見せるつもりなのか、一生懸命刀を振るう。しかし、悲しいかな。結果は既に見えている。ロザリーはただの女騎士ではない。最強の女騎士だ。僕と剣術の腕がどっこいどっこいな時点でロザリーに勝てるわけがない。
それでも、クローマルは懸命に食らいつこうとする。ロザリーの猛攻を躱すのに集中して何とか隙を伺っているのだ。だが、クローマルは息切れしているのに対して、ロザリーは呼吸一つ乱していない。体力にも圧倒的差があるのだ。
常に紅獅子騎士団の前線で多くのモンスターと戦っていたロザリー。その継戦能力は並大抵のものではない。持久戦に持ち込むのは完全に自殺行為である。
「な、なんて……はぁはぁ……女だ……男の俺より……体力があるなんて……」
体力が切れたクローマルは膝をついた。そして、刀を鞘に納めた。これが意味することは……
「俺の負けだ」
勝者はロザリーだ。この大会で最強の実力を持つとされたクローマルを倒した。これでもう恐れるものは何もない。
「クローマル。いい剣であった。キミは優れた剣士だ。自信を持っていい」
ロザリーを膝をついているクローマルに対して手を差し伸べた。クローマルはその手を素直に受け取り立ち上がった。
「か、か……格好いいです! 姐さん! 俺、ロザリー姐さんに惚れました! 強いだけではない。負けた相手を称賛する優しさも持っている。どこまでもついていきます! ロザリー姐さん!」
「え?」
一体何が起きたというのであろう。あのツンツンした態度のクローマルが一瞬にしてロザリーに懐いてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。私は異国の女騎士だぞ。私についていくということは、海を渡り西洋に行くということだぞ」
「はい! 姐さんのためだったら地獄の底までついていく覚悟です!」
クローマルの目がキラキラとしている。最早、その目は恋する乙女のそれであった。
「ちょ、ちょっとライン! 助けてくれ」
ロザリーは助けを乞うような目でこちらを見ている。そんな目で見られても僕にはどうしようもない。
「ライン? おう、テメエ! ロザリー姐さんの何なんだ? 恋人とか言ったらぶっ殺すぞ。また俺の電撃を食らいたいんか? あ?」
どうやら僕には敵視しているようだ。まあいいか。男の子はそれくらい元気な方がいい。ここは大人の余裕を見せておこうか。
「あはは。強力なライバル登場だね。ライン。うかうかしているとロザリーを取られちゃうかもよ」
ルリが厭らしい笑顔を僕に向けて来る。
「そんなわけあるかい。ロザリーを狙う男なんて腐るほどいるんだ。今更一人二人増えたところで大して変わらないさ」
「おー。余裕だねー。それだけ自信があるってことかな?」
あの甘えん坊将軍を受け入れる度量がある男なんて僕くらいしかいないだろう。何も心配することはない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!