女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

90.マーメイド討伐

公開日時: 2020年10月17日(土) 23:05
文字数:2,214

「た、助けて下さい!」


 紅獅子騎士団の詰め所に一人の若い女性が勢いよく扉を開けて入って来た。女性の服装と髪はボロボロで体も泥だらけ傷だらけであった。かなり険しい道を必死に駆けてきたのだろう。


 詰め所にいたジャンが女性の応対をしようと彼女に近づく。ジャンなら冷静な対応をしてくれるだろうという妙な安心感がある。


「落ち着いて下さい。まずは怪我の手当てからしましょう。キャロル。彼女をお願いします」


「はい」


 ジャンの指示の元、衛生兵のキャロルが女性の傷の手当てをすることになった。女性はまだ落ち着かない様子であったが、ひとまずこちらの指示には大人しくしたがってくれているようで、手当てを受けてくれている。


「ここまで来るのに大変な思いをしたでしょう。でも、もう大丈夫ですよ。紅獅子騎士団が貴女のことを守ってみせます」


 キャロルが女性に優しい言葉をかける。その言葉に女性は少し安心したのか、荒れていた呼吸が少し穏やかなものになっていった。


「あ、あの……私、エルマという小さな漁村に住んでいるんですけど、そこにマーメイドが出現したんです」


 マーメイド。その言葉を聞いた時、僕達に電流が走った。目撃情報が少ない海のモンスターであるマーメイド。まさか、その情報が得られるとは思いもしなかった。


「最初、マーメイドは陸に打ち上げられた状態で発見されて弱っていたんです。ですが、美しいマーメイドに対して、村の男達がスケベ心を出して、マーメイドを匿ったんです。その間にマーメイドは体力を回復して、村の男達を魅了して殺してしまったんです」


 女性は目に涙を浮かべている。自身の服をぐっと握って、悔しそうに奥歯を噛んだ。


「あの時、弱っている時にマーメイドを殺しておけばこんなことにはならずに済んだのに……」


「さぞ悔しい思いをされたでしょう。ですが、ご安心下さい。この紅獅子騎士団が必ずマーメイドを討伐して、貴女達の無念な思いを晴らしてみせましょう」


「本当ですか!? よろしくお願いします!」


 女性はジャンの発言に顔を明るくした。次の任務は決まったようなものだな。エルマ漁村に行き、マーメイドを討伐する。そして、可能であればミネルヴァより先にマーメイドの鱗を回収するんだ。


「あ、この人私の漁村に来た人に似ている」


 女性は詰め所の壁に貼ってあったミネルヴァの手配書を指さした。ミネルヴァは既にマーメイドの情報を察知してたのか。


「この人はどこに行ったのかわかりますか?」


「私の忠告を無視してマーメイドがいる海岸に向かっていったけど……それから先は知りません」


「そうですか……」


 ミネルヴァはマーメイドと接触をした。それは間違いないようだ。だとすると既にマーメイドの鱗を回収された可能性が高い。



 僕達は早速、エルマへと向かった。エルマは人の気配が全然しなかった。皆マーメイドにやられてしまったのだろうか。


「皆。まずは村の探索だ。もしかしたら生き残っている村人がいるかもしれない。彼らを見つけたら保護するんだ」


 ロザリーの指示で、数班に分かれて村を探索することになった。村はもぬけの殻で人の気配らしきものはなかった。どこを探索しても人がおらずゴーストタウンのような不気味な雰囲気が漂っていた。皆人魚に魚の餌にされてしまったのだろうか。それともどこかへ逃げ出したのか。


 探索が終わって報告会が始まったけどどの班も同じようなものだった。この村に人はいなくなってしまった。マーメイドのせいで。


「村一つを廃墟にするなんて恐ろしいモンスターだな。今から海岸に行く。皆、心してかかれよ」


 ロザリーを始めとした女騎士を先頭に、男騎士は後列に下がった陣形を組んで海岸に向かった。マーメイドは男を魅了するすべを持っている。男騎士が先頭に立つと魅了されて危険だからという判断だ。


 海岸に辿り着くと、岩礁の上に緑色の髪をした女性が座っていた。女性の下半身は魚になっていて彼女がマーメイドであることは間違いないだろう。


「あら……この村の人間を狩り尽くしたと思ったら、今度は武装した集団が来たようだね」


 マーメイドはこちらに気づくとニッコリと笑った。そしてそのまま海の中へと飛び込んだ。


「でも残念。人間であるあなた達に海を根城にする私を捕まえられませーん」


 そのまま、人魚は海の中に潜り込んでしまった。逃げられた。そう思っていた次の瞬間、ロザリーが海岸に落ちていた銛を拾い、それを持って海へと飛び込んだ。


「な、何をしているんだロザリーは!」


 僕は思わず突っ込んでしまった。完全に予想外の行動だった。


 海の中が真っ赤な鮮血で染まる。それと同時にロザリーとマーメイドが同時に海面に顔を出した。


「ぶは……い、痛い……な、何をするの貴女は……」


 マーメイドは負傷した左肩を抑えている。ロザリーがつけたであろう傷口からは血が流れていく。


「貴様を逃がすわけにはいかん! モンスターは必ず討伐する! 紅獅子騎士団団長のロザリーの名にかけて!」


「もう怒ったよ」


 そう言うとマーメイドは口笛を吹いた。その音に反応して、海から大量の緑色の肌をして手足が水かきで出来ている半魚人サハギンが陸に上がって来た。


「私の美しい肌に傷をつけたことを後悔させてあげる。貴女の仲間を一人残らずサハギンちゃんの餌食にしてあげるんだから」


「ジャン! 陸での戦いはキミが指揮を取ってくれ。私は海でこのマーメイドと決着をつける!」


「了解しましたロザリー」


 ロザリーとマーメイドは海の中へと潜った。

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