僕達は謁見の間を目指すために階段を上って行った。階段を上った先には、火が燃えていて行く手を遮っている。
「く……これでは先に進めないではないか」
ロザリーが拳を握りしめて、悔しそうな表情をする。だけれど、僕はそれほど絶望はしなかった。何故なら、新たなに得たこの力を使えば解決出来るからだ。
「皆、ちょっとどいてくれるかな? オリヴィエ……力を貸して」
――ああ。この冷気で炎を消すんだな。
僕がオリヴィエの霊力を使い、冷気を発生させた。冷気の塊は氷の粒となって、炎に降り注ぐ。すると炎は跡形もなく消えてしまった。
「す、凄いなライン。いつのまにそんな術を身に着けたんだ」
「僕の力じゃないさ。このクレイモアに宿ったオリヴィエの魂が力を貸してくれただけのこと」
「ま、俺のお陰でもあるけどな」
後ろ手で頭を組みながら、クローマルが恩着せがましく言った。まあ、実際にクローマルがオリヴィエの存在に気づかせてくれたからというのはある。
「さあ、早く陛下の所に向かうぞ」
◇
「うふふ……いい様ねえルイ国王……先代の国王には随分と世話になったものだわぁ……」
地獄から蘇った魔女ジュノーが、私の顎を撫でながらそう言った。艶めかしいその指使いを受けていると、背筋がぞくぞくとする。ジュノーは元娼婦だと言う。指先一つで男を堕とすこともしてきただろう。だが、私はこの快感に身を委ねるわけにはいかない。国家の最高権力者としての意地がある。私はこのビッチに決して屈したりはしない。
「ガチガチになっちゃって可愛い。下の方も固くなっているのかしら? 私の柔らかい指使いで全身を解してあげようかな?」
私は今、磔にされている。全く身動きが取れない状態で、無様にもこの元娼婦に体を弄られている。私は国王として清廉潔白として生きてきたつもりだ。女遊びなんてしたことがない。私が知る女は今の妃だけである。彼女は幸い公務のため王都を離れていて、被害は受けていない。
「ジュノー。貴女も好き者ですねえ。国王を手玉に取るなんて、悪女に鑑と言った所ですね」
歴代の王以外座るのが許されない玉座。そこに無礼にも座っている一人の人物。白銀色の髪の毛と、不健康そうな色白の肌。全身白装束に身を纏った中性的な男。人間であれば中々の美形だろう。だけれど、奴は歴としたモンスターだ。
「ふふふ。私、真面目で堅物な男の人って好きよぉ。たっぷり虐めがいがあるもの。後はクールな男の人が私のテクの前に喘ぐ姿を見るのもそそるものがあるわぁ……」
「痴れ者が……」
私がそう言った瞬間に、乾いた音が謁見の間に響き渡った。私の頬がじんじんとする。どうやら、ジュノーにビンタされたようだ。
「口の利き方がなっていない子だこと。今のアンタは王様じゃないのぉ。磔にされて、無様に玉座を明け渡して、そんな王様どこにいるのぉ? 今この国を支配しているのは、私とリッチー。この国は不死者の国にするの。そして、リッチーは亡者の王になって、私は彼の妃になる。素晴らしいと思わない?」
「頼む……私は何度だって殺されたって構わない。けれど、民を傷つけるのはやめてくれ」
「ふふふ。貴方は殺さないわ。貴方には自分の国がゆっくりと陥落されていくのを見物してもらうもの。そして、国民を……国を失って、失意の底に落ちた貴方を私達の奴隷にしてあげる。面白いでしょ?」
もうこの国は終わりなのか……私は絶望の淵に追いやられた。あの声が聞こえてくるまでは……
「陛下ー!」
この凛とした透き通る声は聞き覚えがある。我が国が誇る女騎士団長のロザリーのものだ。
謁見の間の扉が勢いよく開いた。そこには四人の騎士がいた。彼らがロザリー率いる紅獅子騎士団……!
◇
なんだこの異様な光景は……陛下が磔にされていて、その傍らにジュノーがいる。玉座には全く知らない白銀の髪の男性が座っている。
「貴様! 陛下から離れろ!」
ロザリーがジュノーに向かって刃を向ける。それに対してジュノーは余裕たっぷりで笑っている。
「あはは。もうここまで辿り着いたんだぁ。偉い偉い。よく頑張ったね。ユピテルはもう倒したのかしら?」
「奴なら今頃頭を冷やしている頃さ。二度と溶けることのない氷の中でね」
僕はクレイモアを構えてそう言った。ジュノーも氷漬けにしてやろうか。
「ライン……お前の霊力はユピテルの時とさっきの炎を消した時で消耗している。だから、冷気の技を使おうだなんて考えるなよ」
「そ、そうなの?」
クローマルから忠告されてしまった。ここは格好良く決めたかったけど仕方ない。冷気の力なしで戦うしかないのか。
「これはこれは紅獅子騎士団の皆さん。初めまして。私は亡者の王リッチーと申します。ヴァンパイアと並ぶアンデッド系のモンスターの最上位に位置する存在です」
「え? 何こいつ。自分で最上位の存在とか言ってますよ?」
アルノーが真っ当なツッコミを入れる。確かに、自分ではあんまりそういうことは言わないと思う。
「生意気な小僧ですね。貴方から脳天割って差し上げましょうか?」
リッチーは立ち上がり、メイスを持ってこちらに駆けつけてきた。そして、物凄い速度でアルノーめがけてメイスを振るう。
アルノーはそれを躱した。そして、メイスが空振りをして地面へと叩きつけられた。物凄い轟音と共に床が抉れる。かなりの威力だ。もし命中していたら、骨が砕けるどころじゃ済まないかもしれない。
「皆さん! このリッチーとか言う奴は俺が引き受けます。その隙に陛下をお助け下さい」
「アルノー? 一人で平気かい?」
「はい! 大丈夫ですよライン兄さん! こんな奴俺一人でも何とかしてみせます」
「私のメイスの威力を見ておきながら、そうほざきますか……ますます生意気な小僧ですね。気にくわないです。殺します!」
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