ユピテル男爵の一件を終えて王都に戻った僕達。ユピテル男爵の屋敷でジュノーの遺体を改めた結果を大臣に報告することになった。今回、ユピテル男爵の元に向かった四人で大臣の執務室に報告しに行った。
「失礼致します。リュカ大臣殿。今回の任務ですが、ユピテル男爵が管理している墓地にジュノーの遺体はありませんでした」
ロザリーが事実を伝える。それに対して、リュカ大臣は溜息をついた。
「なるほど。やはり、ジュノーが復活したとみて間違いないだろう。これを民に知られるわけにはいかない。だが、同時に王国の警戒レベルを引き上げなければならない。秘密裏で王国全体に騎士を配置しよう。ジャン。警備配置に関してどうすればいいのかキミの知恵を貸して欲しい」
「わかりました大臣」
これから、大臣とジャンの作戦会議が始まるということで僕達は追い出された。まあ、軍の警備に関しての知識は僕達にはないから、いても意味ないんだけどね。
王城を後にした僕とロザリーは騎士団の詰め所に戻っていた。詰め所には今誰もいない。僕とロザリーの二人だけの空間だ。
「ライン。キミはこれからどうするんだ?」
ロザリーが僕に問いかける。どうするとは一体どういうことだろう。
「キミはもう剣を握れるようになったのだろう……私にも秘密にしていたトラウマを克服してな」
ロザリーは後半部分を特に強調して発言した。
「ロザリーさん? もしかして、秘密にしたこと怒ってらっしゃいます?」
「別に。ただ、ラインにとって私はその程度の女なんだなと思っただけだ。辛い悩みやトラウマを打ち明けてくれるような存在ではなかったんだな」
完全に怒ってますねこれは。
「だって仕方ないじゃないか。ロザリーに心配かけたくなくて」
「心配くらいさせてくれ! 私に心配されるのがそんなに迷惑なのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
「すまない。話が脱線したな。このことは後でじっくり話し合うとして、キミは今後はどうするつもりなんだ? 騎士として活動するのか、衛生兵のままでいるのか」
確かにそれは重要な問題だ。僕は元々騎士として活動することを目標に頑張って来た。衛生兵になったのは騎士として活躍出来なくなったから、仕方なくやっているだけのことだった。
「僕は戦いたい。キミと肩を並べて……今まではキミの後ろで支援することしか出来なかったけど、これからは一緒に最前線で戦っていきたいんだ」
「そうか……それじゃあライン。キミを紅獅子騎士団の騎士として任命する。よろしく頼むぞ」
僕は今、このタイミングを以って騎士として復活したのだ。
「そうだ。ロザリー……キミに渡したいものがある」
僕は鞄から短剣を取り出した。僕が愛用していたマン・ゴーシュだ。
「これは……キミが愛用していたものだろう。キミはこれから騎士として活躍していくんだから必要なものじゃないのか?」
「いや、僕にはもう必要のないものさ……それより、キミにこれを持っていて欲しいんだ。これでキミの身を守って欲しい」
「わかった。大切に使わせてもらう」
ロザリーは今までレイピア一本で戦ってきた騎士だ。だが、ロザリーならすぐにマン・ゴーシュの使い方を覚えて実戦で役立ててくれるだろう。彼女はそれだけのセンスがあるからね。
「僕が使うのはこれだ」
僕は詰め所の武器庫から、クレイモアを手に取り握った。この剣は僕がここに保管していたものだ……オリヴィエの形見としてずっとこの騎士団の武器庫に眠らせていたのだ。
「オリヴィエ……キミの力を貸してくれ」
僕はオリヴィエの形見のクレイモアを振るった。ずっしりと重いが中々しっくり来る。
「クレイモアか……私の騎士団にはこれを扱える騎士がいないな。どうしてその剣を使おうと思ったんだ?」
「丁度いい機会だと思ったからね。僕はユピテル男爵と戦った時にレイピアの扱いに大分ブランクを感じた。だから、今からレイピアの腕を鍛えなおすのとクレイモアを新しく覚えるのとでは労力にそんなに差がないように思えたんだ」
僕はクレイモアをしっかりと握りしめた。
「僕はもう過去から逃げない。オリヴィエのクレイモアを見る度に僕はトラウマに苛まれていた。だからこそ、トラウマを克服した今、この剣を戒めとして持っていたんだ」
「そうか……キミは前へ進もうとしているんだな」
僕がロザリーにマン・ゴーシュを渡したのは、クレイモアが両手剣だからだ。だから僕にはもうマン・ゴーシュは必要ない。
「僕はこの剣に誓ってキミを守ってみせる」
「な……は、恥ずかしいことを堂々と言うな! 全く……大体にして、ブランクがあるキミと私じゃ、絶対に私の方が強いぞ!」
「ははは。そうかもね」
照れているロザリーは可愛いな。確かに肉体的にはロザリーの方が強いかもしれない。でもこれは気持ちの問題なのだ。いつかロザリーを守れるくらい強くなってみせる。
◇
「ハーピィちゃんが妊娠したわ。これで有精卵は問題なく入手出来る」
今回のハーピィは前回のハーピィと違って、特に男性の好みとかそういうのはなかった。だから本当に手頃な男とまぐわって来てくれたのだ。また少年趣味とか言われたらどうしようかと思った。
「おかえりなさぁい……ふふふ良い調子ねぇ。後はセイレーンの髪の毛だけかしら?」
腐敗臭のする女、魔女ジュノーが香水をかけながら私に話しかけてきた。
「ええ。そうね。ハーピィの有精卵。アルラウネの花弁。マーメイドの鱗は既に揃ってるわ」
「セイレーンの居場所は既に分かっているのよねえ」
「ヘキス海域にて目撃情報があるわ。あそこの出現する幽霊船に住み着いていると言われてるわ」
「幽霊……なら、アンデッドの私の出番かしらねえ。不死系のモンスターと相性が良いのは私の方だし」
ジュノーがやけに乗り気のようだ。今までずっと墓の下にいた鬱憤が溜まっているのであろうか。
「紅獅子騎士団も既にセイレーンの情報を入手している可能性は高い。鉢合わせするかもね」
「構わないわぁ……数十年ぶりに戦う王国の騎士団。どうなっているのか楽しみだわ。あの頃と何が違うのかしらふふふ」
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