女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

136.モンスター混合軍

公開日時: 2020年11月2日(月) 19:05
文字数:2,234

 ヘキス海域に行ったロザリーが戻って来た。正直心配だったけれど、彼女が無事に戻ってきてくれただけで良かった。


「皆……すまない。邪龍リンドブルムの封印が解かれてしまった。私のせいだ」


「そんな……ロザリーのせいじゃないよ」


 実際、ロザリーで無理だったのなら、これは避けられようのないことだ。ロザリーばかりの責任ではない。


「大丈夫ですって、ロザリー姐さん。邪龍なんて俺がやっつけてやりますよ!」


 クローマルがロザリーを慰める。けれどロザリーはそれほど絶望した顔を見せてはいなかった。


「だけれど悪いことばかりじゃない」


 そう言うとロザリーの体から聖なる気のようなものを感じる。何だこの厳かなオーラは……ロザリーが神聖で尊いものに見える。


「解かれた封印は邪龍のものだけではなかった。邪龍を封印した巫女ティアマトの力も解かれた。それが私の体内に宿ったというわけだ」


「ほう……つまり、邪龍の封印が解かれたと同時に、聖龍の力も解かれたと。邪龍に対抗出来る力も同時に手に入った訳ですね」


 ジャンは冷静に状況を分析した。


「その力、どれだけの物か分かっていますか?」


「いや……私もこの力を手に入れたばかりで、どこまで強くなったのかはわからない。けれど、水精ニクスを一撃で倒せる程の力を手に入れたのは事実だ」


「水精ニクスを!? 凄い……あれだけ強かったニクスをも上回る力だなんて」


「う、うん……私も驚いている」


 ロザリーは僕に凄いと言われて少し顔を赤らめている。


「ロザリー。貴女がいない間に、モンスターの軍勢が確認されました。早速討伐に行って竜騎士の力とやらを確かめに行きましょう」


「ああ。そうだな。行くぞ皆!」



 モンスターが出現したと報告がった平原まで紅獅子騎士団は来ていた。僕は偵察として、双眼鏡を覗き込んだ。


 平原に多数のモンスターの軍勢が遥か遠くにいる。ゴブリンにウェアウルフにオークにスライムなど多数のモンスターの混合軍だ。


 それぞれが違う種族のモンスターがこんなに一致団結するとは思えない。モンスターは基本的に我が強くて別の種族とは滅多なことがなければ組まないのだ。


 だとすると、これを束ねている存在がいるはずだ。僕はよく目を凝らした。すると、モンスターの更に奥にジュノーがいた。やはり、モンスターを束ねている存在、モンスターテイマーがいた。


「ロザリー。ジャン。敵はやはりモンスターテイマーのジュノーだ」


「やはり、そうでしたか。これだけのモンスターを束ねるとなると、ミネルヴァかジュノーしかありえないでしょう」


「相手が誰であれ、私のこの竜騎士の力を見せるいい機会だ」


 ロザリーは、早く戦いたくてうずうずしているようだ。本当は戦いが嫌いな彼女らしくない。それだけ、実戦で試したくなる程の力なのだろうか。


 僕は再び双眼鏡を覗き込んだ。敵が進行を始めたようだ。陣形としては、スライムが最前線に立ち、次いでオークとゴブリン。殿にウェアウルフがいる布陣だ。僕はそのまま見た内容をジャンに報告した。


「なるほど。中々理に適った陣形ですね。足が一番遅いスライムをペースメーカーとして配置し、後続の体力を温存させる作戦でしょう。足が一番速いウェアウルフを前方に出したら、それに追いつこうとして後続が全力で走ることになる。そうなるとペースが乱れますからね」


 ジャンは敵の作戦の狙いを読み解いた。流石は軍師だ。


「かといってこちらも同じように足の遅い重装兵を先頭に立たせることは出来ません。何故なら、スライムを倒すのにはスピードとテクニックが必要だからです。だから最前線はスライムを倒せる素早い騎士を配置させる必要があります」


 スライムには核があり、そこを正確につくにはスピードとテクニックが両方必要なのだ。逆にコアは少しの力で傷つき再生しなくなるからパワーはそこまで求められない。重装兵とスライムは相性が悪いのだ。


「また前回スライムと戦った時のように、俺とロザリー団長が最前線に立ちますか?」


 アルノーがそう提案する。確かにアルノーもあの頃に比べて実力が上がっている。この程度のスライムの軍勢なら楽に倒せるであろう。


「いえ……核を突く以外にもう一つスライムを倒す方法があります。ですよね? クローマル」


 皆の視線がクローマルに集まる。当のクローマルはそれに対してそっぽを向いた。


「ふん。俺の力が必要だってのか?」


「はい。貴方の雷の力をスライムにぶつければ楽に倒せるはずです。スライムは粘性が高い液体に包まれている。その液体は電気をよく通すのですよ」


「俺は別に構わない。だけれど、一つ言っておくことがある。この雷の力は無限に撃てるものじゃない。この刀に宿っている刀鍛冶の霊力が尽きたら撃てなくなる。霊力の回復には時間が必要だ。スライムを一掃させたら、後続のモンスターに雷の力は使えないと思え」


「ええ。スライムを倒してくれるだけで十分です。作戦は立て終わりました。それでは出陣しましょう!」


 クローマルを最前線に出した魚鱗の陣で挑むことになった。前線には重装兵を配置し、ペースメーカーとする。幸いクローマルもパワータイプで足はそんなに早い方じゃなかった。


 ジュノーの軍勢と紅獅子騎士団がお互いが進行する。そして、最前線の者同士がぶつかる。


「まずはご挨拶代わりに食らいな!」


 クローマルが刀に宿った霊力を解放して、雷を発生させた。最前線に立っていたスライムの軍勢は雷に焼かれて核ごと消滅してしまった。


「さあ行くぞ!」


 クローマルはそう掛け声をあげた。

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