ロザリーの風邪もすっかり良くなったところで、僕とロザリーは二人で休暇を申請してタクル高山へと登ることになった。
このタクル高山は王都に流れるレーゼ川の上流にあり、ここから湧き出る水の一滴が水の都を形成しているのだ。
自然豊かな場所で動植物も豊かである反面、それらを食い荒らすモンスターも多数存在している危険な場所だ。それ故に立ち入りには特別な許可が必要なのだが、紅獅子騎士団の僕らには特に許可はいらないらしい。
ロザリーは前にこの山に修行目的で来たらしい。百キロの重りをつけて頂上へと登り下山するという恐ろしいことをやってのけたのだ。道中モンスターに襲われることもあったが、彼女は問題なくそれらを蹴散らした。
「ライン。見てくれ。この野草可愛いぞ」
ロザリーがピンク色の花をつけた可愛らしい野草を指さしてはしゃいでいる。最強の女騎士と言われているロザリーだが、やはり乙女な一面もあるのだろう。
「その花は毒があるから食べない方がいいよ」
「誰が食べるか!」
キャンプ中に食料が不足した時のために食べられる野草とそうでない野草の違いは嫌というほど叩き込まれた。そのため、僕は無駄に植物に詳しくなってしまったのだ。
「こっちの紫色の花は食べられるよ」
「うえ。こんな毒々しい色でも食べられるのか。世の中見た目じゃわからないな」
今はキャンプ中でもないし、お腹も空いてないので野草を食べることはしなくていいだろう。今欲しいのは食える道草ではなく、万病に効くと言われているスロボルの花だ。
もし魔導書の書いてあることが本当なら医学の発展に多いに役立つであろうものだ。衛生兵の端くれとしては是非とも回収したいものだ。
僕達はそのまま山を登り続ける。しばらく登ったころだろうか、茂みがゆらゆらと揺れた。何か生き物がいるのだろうか。僕とロザリーはその場で構えた。
茂みの中からクマがぬっと出てきた。クマはまだこちらに気づいていないらしく、辺りを見回して警戒をしている。
その様子を見たのかロザリーは思いきり雄たけびをあげた。クマを追い払うためだろうか。クマは存外臆病な生き物だと聞く。これで逃げ出してくれればいいのだが。
しかし、その願いも空しくクマはこちらに向かって走ってきた。騒音を立てているロザリーに腹を立てたのだろう。立ち上がって巨大な爪でロザリーの柔肌を切り裂こうとする。
あーあ死んだな……クマが。
ロザリーはクマの攻撃を最小限の動きで躱して、そのままクマに足払いを掛ける。すっころんだクマの喉元にチョップを入れてクマに大ダメージを与える。悶絶するクマの顔面に更に追い打ちをかけてきつい一発を食らわせた。
その一撃でクマはピクリとも動かなくなった。気絶したのか死んだのか。どっちにしろ、ロザリーの勝利だ。
「あービックリした。いきなり襲い掛かってくるんだもん」
ビックリしたのはクマの方だろう。まさかか弱い人間の女にボコボコにされるとは思いもしなかっただろうに。しかも素手の。
「ロザリーは素手でも十分強いからな……」
クマすら倒せる彼女に誰が喧嘩を売ることが出来ようか。僕はロザリーとは絶対喧嘩をしないことを誓わざるを得なかった。
「はっはっは。私は無敵なのだ! ライン? 私にもっと頼ってくれていいのだぞ」
どうやら今のロザリーは頼れる女騎士団長ロザリーのようだ。甘えん坊とは程遠い勇ましい姿に見える。
ふと、僕がロザリーの足元に目をやると毒を持ったサソリが彼女の足元に近づいてきているのが見えた。これはまずい。急いでなんとかしないと。
「ロザリー! 動かないで!」
僕は咄嗟に鞄から投げナイフを取り出し投げて、毒サソリの甲殻をぶち抜いて奴を退治した。
「ひ、ひい……サ、サソリ……!?」
「ロザリー? 大丈夫だった? 怪我はない?」
僕はロザリーの元にすぐに駆け寄った。それに安心したのか彼女はその場にへたり込んで座ってしまった。
「あ、ありがとうライン……キミがいてくれなかったら、今頃私はサソリに刺されてたよ」
僕はサソリが息絶えたのを確認すると投げナイフを抜き取り回収した。
「しかし、ラインも戦うのを辞めた割にはまだ腕が立つみたいだな。どうだ? 今度一緒に私と手合わせをしないか?」
「やめとくよ。今の僕ではロザリーに勝てない」
「むー。私はラインに一回も勝ってないんだぞ! 勝ち逃げ反対!」
僕の方がロザリーより強かった時期もあったな……っと、今はそんなことは関係ない。思い出している暇があったらさっさと山を登ろう。
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