女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

93.見習い騎士ライン

公開日時: 2020年10月19日(月) 21:05
文字数:2,322

「ライン。よくぞうちの騎士団に入ってくれたな」


 オリヴィエは僕に右手を差し出した。僕は彼と堅い握手をして友情を確かめ合った。


「オリヴィエ。キミと一緒に戦いたくて頑張ったんだ」


「ライン。俺は今、この不死鳥騎士団の第四部隊の隊長を務めている。まあ、隊長だからって堅苦しいのは苦手だから昔みたいに接してくれても構わないぜ」


「ああ。わかったよオリヴィエ」


「では、早速モンスター討伐の要請がうちの騎士団に来ている。ライン。キミの初任務になるな」


 初任務。その言葉に僕の心はウキウキと踊った。モンスターの脅威から皆を守るために騎士になったのだ。僕は自身が持っているレイピアに誓い、この国を守る。


「準備が出来たか? ライン。行くぞ」


 オリヴィエの手には一メートル程の刀身の剣が握られていた。僕の記憶が正しければ彼は師匠にレイピアを教わっていたはずだが、武器を変更したのだろうか。


「オリヴィエ。その剣は何だい?」


「これはクレイモアという両手剣だ。とある部族の間で使われていた剣でな。振るってみたら俺の手によく馴染んだ。それ以来、こいつが俺の相棒さ」


 オリヴィエは嬉しそうに語った。それだけ、このクレイモアという剣を気に入っているのであろう。



 僕達は王都より東にある採掘場の前に来ていた。この洞窟に生えているキノコ型のモンスター、マタンゴが悪さをしているらしい。それを討伐するのが今日の僕らの任務だ。


 マタンゴはそれほど強いモンスターではない。身体能力も低いし特に毒を持っているとか溶解液を吐き出すとか特殊な行動も一切してこない。本当に弱いモンスターだ。これなら新人の僕でも楽に倒せそうだ。


 とはいえ、騎士にとっては楽勝な相手でも一般人にとっては十分脅威となる相手だ。一匹残らずマタンゴを始末して、早く鉱夫の人達が安心して仕事が出来るようにしないと。


 洞窟の中を隊列を組んで進んでいく。僕は前から二番目に位置するところにいた。経験を積むために前線に立つが、最前線では少し危険と判断してこの位置なのだろう。


「初任務がマタンゴ討伐で拍子抜けしたかライン?」


 最前線に立っている騎士が僕に話しかけてきた。


「ええ。どうせならもっと強いモンスターと戦ってみたかったです」


「ははは。そう言うな。これから嫌でももっともっと強いモンスターと戦うハメになるんだからな。その内ドラゴンと戦ったりしてな」


「ドラゴンなんて滅多にいるようなモンスターじゃないでしょ」


 そう話しているうちに前方に青白いカサをしたキノコのモンスターが現れた。柄の部分が人間の胴体並に丸まる太っていてそこから手足がにょきっと生え出て来る。こちらに気づいたのか襲い掛かって来た……が、所詮マタンゴ。動きがとてもトロくて戦闘における緊張感も何もない。


「よし、まずは俺が手本を見せてやる」


 そう言うと先輩騎士は手にしたサーベルでマタンゴを縦に切り裂いた。あっけなく倒されたマタンゴ。仲間がやられたと言うのにマタンゴは全く反応せずにこちらに近づいてくる。どうやら恐怖というか知性の欠片も感じない。ただ、自分の縄張りを冒したものを機械的に攻撃するだけの存在だ。


「ライン。お前も倒してみろ!」


「はい!」


 先輩騎士にけしかけられて、僕も最前線へと立つ。そしてそのままマタンゴと接触し、レイピアでキノコをいともたやすく切り裂いていく。


「はっはっは。やるじゃないかライン」


 勢いづいた僕はマタンゴの軍勢に突撃する。刺突したり、切り裂いたり、とにかく僕が無双していた状態だ。


 そんな中、一番奥に赤いカサのマタンゴが一匹いた。何だろう。何であのマタンゴだけ色が違うんだ。何だか嫌な予感がする。


「どうしたライン」


「いや……あの赤いマタンゴ。手を出しちゃいけない気がする」


「何だよライン。ビビっているのか。まあお前も初めてにしては上出来だったからな。後は俺達に任せてお前は後方に下がってろ」


 そう言われて僕は素直に後方に下がった。嫌な予感は払拭されないままモヤモヤとした気持ちを抱えて僕は後ろに下がる。


 遠目で見ていると先輩騎士が赤いマタンゴに斬りかかった。しかし、マタンゴは切り裂かれずにゴムのように剣をはじき返した。そして、その反動で黄色い粉のような何かをまき散らした。


 その粉を吸い込んだ前線に立っていた先輩騎士達は思わずくしゃみをした。くしゃみの連鎖は止まらずに前線にいた殆どの騎士がくしゃみをしている。戦闘中にくしゃみなんて随分と呑気なものだなと思っていたら……


「ひ、ひひ……お前ら全員皆殺しだ!」


「上等だ。やってやるよ!」


 前線にいた騎士達はお互いがお互いを剣で攻撃しあった。一体何が起きていると言うのだ。騎士達の鮮血が飛び散り洞窟の内壁に付着する。狭苦しい洞窟の中に血の臭いが充満する。とても不快な気分だ。


「お、おい! お前やめろよ!」


 正気を保っている騎士もいた。正気を失った騎士を止めようとするが、相手は武装してこちらを殺そうとしてきている。とても止めきれるものではなく、止めようとした騎士が返り討ちにあい殺されていく地獄絵図と化した。


 そして、正気を失っている騎士の中に……僕の友人だったオリヴィエもいた。


 オリヴィエは両手剣クレイモアを振り回して騎士達を次々に殺していく。誰もオリヴィエには敵わなかった。正気を失った騎士も保ったままの騎士も関係なく、彼は次々に殺していった。


 斬られていく騎士達の悲鳴が洞窟内にこだまする。とても嫌な気持ちだ。人の悲鳴がこんなにも心に突き刺さるなんて……


「やめろオリヴィエ!」


 僕は彼を止めようとした。レイピアを持ち、彼のクレイモアに立ち向かおうとする。


「よお、ライン。久しぶりに稽古つけてやるよ。どれだけ成長したか俺に見せてみろ!」

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