ウェアウルフ討伐の一件は、上層部からはウェアウルフを全滅させた功績を称えられた。しかし、その一方でロザリーはジャンに釘を刺されていた。
「ロザリー。これからは一人で勝手な行動を取らないで下さい。夜風に当たりたいのなら一人で出歩かないで数人の騎士と固まって動けばいいじゃないですか。ウェアウルフの時はたまたま運が良かったですけど、本来なら貴女はあそこで死んでましたからね」
「うう、面目ない」
ジャンも流石に団長を叱る時は時と場所を考えてくれたもので、今この空間には僕、ロザリー、ジャンの三人しかいない。団長が軍師に怒られている姿を他の団員に見せたらロザリーの面目が丸潰れであろう。
「ロザリー。貴女は強いから信頼していましたが、これからは必ずペアで行動を取ることです。ただし、きちんと戦える騎士も連れて」
きちんと戦える騎士。そこには僕は入っていないな。ということは、これからロザリーは任務中にこっそり僕と抜け出して逢引することを禁止されたも同然だ。
「そ、そこをなんとか!」
「ダメです。貴女のことだからどうせラインと二人きりになりたいとか考えているんでしょ? そういうことは任務が完全に終わってからにして下さい」
「う」
ロザリーが図星を突かれた。これからは僕に甘えることが出来ないか、他の騎士に自身の甘え性癖をバラして堂々と僕に甘えるかの二択になるだろう。ロザリーの性格上後者は取らないだろうけど。
「ラ、ラインからも何か言ってくれ!」
「ロザリー。残念ながらジャンの言っていることが全面的に正しい。今までが勝手に動けすぎていたんだ。モンスターにキミがリーダーであることがバレたらそこを突かれる可能性は確かにある。今回のウェアウルフの襲撃みたいにね」
ロザリーは顔を真っ青にして絶望的な表情をする。でもこれも仕方のないことなんだ。僕だって任務中にロザリーを甘やかすことが出来なくなるのは辛い。けれど、一番に考えなければならないのはロザリーの命だ。
「ライン良く言ってくれましたね。貴方の言うことならロザリーも聞いてくれるでしょう。ロザリー。少しは反省してくださいね」
それだけ言い残すとジャンは部屋から出ていった。彼もあれで忙しい身だ。時間を割いてロザリーを叱ってくれたことは感謝しておこう。
「うぅ……ラインきゅん、ごめんねえ」
ロザリーは急に泣きながら僕に謝って来た。
「え? 僕謝られるようなことされたっけ?」
「だって、ロザリーがあの時不用意に草原に出掛けてなければ、ラインきゅんの命を危険に晒すこともなかったのに」
「そのことなら気にしてないよ。それにあれは僕も悪かった。ロザリーの近くに行ったのは僕自身の意思によるものだからね」
「でも、ウェアウルフはロザリーの匂いを追跡したんだから、やっぱりロザリーのせいだよぉ……敵はこれ以上襲ってこないだろうという推察で撤退指示を出したのもロザリーだし、その読みを外して狙われたのもロザリーのせいだし、全部私のせいだよぉ……」
ダメだ。ロザリーは自身の失敗でかなり思い詰めてしまっている。確かにロザリーの判断と行動が甘かったところはあるだろう。
「でも、ウェアウルフの習性を考えればあの判断は適切だったと思う。しばらく村は襲ってこないだろうと思うし、万一のことを考えて自警団を配置しようとしたのも適切な判断だった」
「でも、結局ロザリーが一人で勝手に動いて敵を刺激して襲われたのは事実なんだよぉ」
ロザリーの思考がネガティブになっている。こういう時はひたすら慰めてあげるのが一番だ。とにかく付き合ってあげよう。
「ラインきゅん。もう二度とラインきゅんを危険な目に遭わせないからロザリーのこと見捨てないで」
僕はロザリーを優しく抱きしめた。ロザリーは今気がとても弱っている。とにかく安心させてあげることが先決だ。
「大丈夫。僕はロザリーのことを嫌いになったりしないし、見捨てたりなんかもしない。僕はずっと傍にいるから」
「ほんと? こんなダメな団長でも付き添ってくれる?」
「ロザリーはダメな団長じゃないよ。逆にこんないい団長見たことない。最高の団長さ」
「ラインきゅん。しゅき……」
ロザリーが僕を抱き返してくる。どうやら少しは落ち着いてくれたようだ。ロザリーは普段失敗しないせいで一度失敗するとその分後に引きずるタイプだ。今後の騎士団の活動に影響が出ないようにここできっちり精神の安定を取り戻さないと。
特に今後は任務中にロザリーを甘やかすことが厳しくなるので、より一層普段の何気ない日で甘やかしてあげないといけなくなる。
「ふう……いつまでもくよくよしてられんな。ラインありがとう。お陰で目が覚めた。過ぎたことを悔やんでも仕方ない! 今後もより一層身を引き締めていかないとな!」
ロザリーがいつもの調子に戻ってくれたようで良かった。落ち込んで甘えたになっているロザリーも愛おしいけれど、やっぱり騎士団長ロザリーあってこそだからね。
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