女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

140.オリヴィエと共に

公開日時: 2020年11月2日(月) 23:05
文字数:2,548

 このクレイモアからオリヴィエの声が確かに聞こえた。何だ。僕は幻聴でも聞いているのか? そう思っていると僕の目の前に青白くて薄いオリヴィエが現れた。見た感じ肉体を持っていなくて魂だけの存在のように思える。


「ライン。やっとお前に声が届いた。俺がずっと話しかけてもお前全然気づかねえからな」


「ごめん……オリヴィエ。僕はキミを殺してしまった」


 僕の言葉を受けて、オリヴィエは吹き出した。僕何かおかしいことを言っただろうか。


「何だ。そんなことか。むしろ、俺はお前に感謝している。俺の暴走を止めてくれてありがとう。そしてごめんな。お前に人殺しの罪を背負わせてしまって」


 オリヴィエは僕を恨んではいなかった。それを知って僕の心は少し軽くなった。


「ライン。お前に俺の力を授ける。俺は一度死んで、その魂は精霊へと転生した。肉体を持ってはいないから、俺が生前使っていたクレイモアに憑依したんだ」


 オリヴィエは僕に向かって右手を差し出した。


「ライン。俺のクレイモアを使ってくれてありがとう。これでお前と一緒に戦える」


 僕はオリヴィエと握手をした。


「ああ。一緒に戦おう。オリヴィエ!」


 オリヴィエの体がすーっとクレイモアの中に入っていく。それと同時に沸き上がる力を感じる。オリヴィエと対話したことでこのクレイモアの力を引き出せた。そんな感じがする。


「ユピテル! 待たせたな!」


「その顔は……ほう。次はいい勝負が出来そうだな」


 僕は思いきり跳躍してユピテル男爵との距離を詰めた。


「な……速っ……」


 僕は思いきりクレイモアを振るい、ユピテル男爵の額に傷をつけた。僕の素早い動きに不意を突かれたのか、対応が一手遅れた。剣を振るうことに迷いがなくなった僕は動きが格段に良くなっている。自分でもそう感じていた。


「させるか……」


 僕の追撃をユピテル男爵はサーベルを用いて弾き返す。やはり、こいつはかなりの強敵だ。モンスターでありながら、剣術の腕も相当なものだ。


「そう何度も私を斬れると思うな!」


 ユピテル男爵の反撃の刃が僕に襲い掛かる。僕はバックステップをして、それを回避する。その跳躍でユピテル男爵との間に再び距離が生じた。


 危なかった。一瞬でも反応が遅れていたら、僕は彼のサーベルの餌食になっていたであろう。ほんの一瞬の油断が命取りになる。これはそういう戦いだ。


 ユピテル男爵は勢いに乗じて、僕と距離を詰めた。僕が回避行動をして、体勢を崩している内に攻め入るという判断だろう。その判断自体は間違ったものではない。相手の体勢を崩し、その隙を突くのは戦いの基本だ。だが、ユピテル男爵の判断ミスは……


「遅い!」


 僕はユピテル男爵の背後に回り込み、背中を思いきり斬りつけた。ユピテル男爵の返り血が僕の頬に付着する。背中を斬りつけられたユピテル男爵はその場で倒れこんだ。


 ユピテル男爵の誤算。それはたった一つだった。僕の身体能力を甘くみたことだ。僕は回避行動を取った後も素早く体勢を整えられる。それくらい身体能力には自信があった。僕の隙を突くにはコンマ数秒は遅すぎた。


 ユピテル男爵が生まれたての小鹿のようにゆっくりと立ち上がる。そして、息を切らしながら僕の方に向き直り、サーベルを構える。


「ははは。面白い! 面白いぞ! ライン! だけれどわかっているのか! この私を倒した所で私は何度でも蘇る! 生きてさえいれば、私は何回だってキミの邪魔を出来る!」


 確かにヴァンパイアは不死身の種族だ。何度殺した所で死にはしない。だけれど、それは百も承知だ。


 僕は、クレイモアでユピテル男爵を斬りつける。最初の一撃はサーベルで防がれた。しかし、背中にダメージを負っているユピテル男爵は踏ん張ることが出来ない。次の二撃目には対応しきれずに、僕のクレイモアで腹部を思いきり斬られる。


「がは……」


 ユピテル男爵の口から血が出る。今は追いつめているのだ! 僕はそのままクレイモアでユピテル男爵の心臓を突き刺した。返り血が思いきりかかる。けれど気にしてられない。


「ふ、ふふふ……損傷した心臓もすぐに回復するさ……私を倒すのは不可能だ」


「それはどうかな」


 僕はクレイモアを思いきり握りしめた、オリヴィエ力を貸してくれ。


 クレイモアに宿った霊力が冷気へと変換されていく。ユピテル男爵の心臓部分から徐々に凍り付いていく。


「な、なんだ……この氷は!」


「永久凍土! 二度と溶けることがない氷の中にお前を閉じ込める!」


 オリヴィエは死んで氷の精霊へと転生したのだ。そして、オリヴィエの魂が宿っているこのクレイモアは霊力を解放することで斬りつけた者を凍らせる能力を得た。


「や、やめろ! ライン! そ、そんなことしたら私は二度と動けなくなってしまう」


「ああ。そのために凍らせているんだからな! お前が不死身で死なないって言うのなら、殺しはしないさ。永遠に動けなくさせればいいだけのこと」


 ユピテル男爵の体がどんどん凍り付いていく。その氷は喉の域にまで達しようとしていた。、


「や、やめ……」


 喉まで完全に凍り付いた頃、ユピテル男爵は最早会話すら出来なくなった。ただ、恨めしそうな目でこちらを見ているだけであった。


 喉を伝い、顔も凍り付いていく。最初は恨めしそうな表情をしていたが、顔の半分が凍り付いた頃、それは絶望的な表情へと変わった。顔の半分は恨めしそうな表情、もう半分は絶望的な表情というアンバランスな表情の氷像が出来上がっていく。


 やがて、クレイモアに宿っている霊力が尽きかけようとした時、一体の氷像が完成した。


「ユピテル男爵。お前はもう死ぬことはないだろう。だが、それと同時にもう二度と動くこともない。お前の負けだ」


 こうして、王都に危機をもたらそうとしたユピテル男爵の討伐に成功した。これで王都は救われただろうか……


 そう思っていたら、王城の方からパチパチとした音が聞こえてきた。僕は嫌な予感がして、王城の方を向いた。すると城が真っ赤に燃えていたのだ。


「な……なんだこれは!」


 僕は呆然としていた。僕達が守るべき王城が燃えているのだ。


「くくく……間抜けめ。王国への侵攻が我らだけだと思ったか?」


 ユピテル男爵の配下のリザードマンが僕達をあざ笑っている。


「あの城には既にジュノー様とゾンビ軍団が攻め入っている。城の構造を知り尽くしたジュノー様がな!」

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