女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

62.ハーピィ殲滅作戦

公開日時: 2020年10月12日(月) 20:05
文字数:2,170

「さて、冗談は程ほどにしてそろそろ本題に入ろうか」


 ピエールはタクル高山の地図を広げた。地図には×印が付けられている。この位置は山の中腹にある洞窟の位置だ。ピエールは×印を指さした。


「目撃情報によるとこの位置からハーピィが出没しているという。ハーピィは繁殖期になると洞窟に潜むという生態がある。洞窟付近にいるということは、恐らく今は丁度繁殖期の時期なのだろう」


「繁殖期のハーピィか。厄介な相手だな。どのモンスターも基本的には繁殖期には凶暴になるという。本来の実力以上の力を発揮するだろう。私も繁殖期のオークと手合わせしたことがあるが、奴らはかなり強かった」


「ロザリー。そんな危険なことしてたのか? 毎年どれだけの女騎士が繁殖期のオークにやられてると思ってるんだい……」


「心配するな。勝てばいいのだ」


 僕はロザリーの発言に呆れた。全く、ロザリーはもっと自分の体を大事にして欲しい。いくらロザリーが強くても万が一ということもある。


「ハーピィが繁殖期ということは連れ去られた少年が心配ですね」


 確かに繁殖期のハーピィは交尾したオスを食い殺すとも言われている。そうでなくても三日三晩の交尾は少年の体力的にも持たないであろう。


「ハーピィは交尾する時にムードを重視するという。だからそれなりに準備をするはずだ。まだ少年は無事だろう」


 ピエールがハーピィについて解説してくれた。ムードを重視する。少し人間的なところがあるんだな。ハーピィは。


「さて、肝心の作戦だが、紅獅子騎士団のキミ達には悪いのだが、囮になってもらいたい」


 囮。敵の注意を引き付ける役か。素早いロザリーとアルノーなら適任だけど僕に出来るのだろうか。


「銃士隊のメンバーは走力に優れない者が多い。ハーピィはかなり素早く飛ぶモンスターだ。銃士隊のメンバーでは追いつかれてしまう」


「そこで私達紅獅子騎士団か。いいだろう。囮にでも何でもなってやる」


 ロザリーは強気だ。前回のゴブリンとの戦いでも実質的に囮の役を努めたから囮役には自信があるのだろう。


「ありがとう。引き受けてくれて。では、作戦を説明する。まずはキミ達はハーピィが潜む洞窟まで行ってくれ。そこにこの煙玉を投げて欲しい。これは衝撃が加わると破裂して煙が出るというものだ」


 ピエールは黒い球体をロザリーに渡した。


「その煙でハーピィ達は洞窟から炙り出すんだ。その後、ハーピィはキミ達に気づくだろう。そしたらキミ達はここにある谷を目指して逃げて欲しい」


 ピエールが洞窟近くにある谷を指さした。この谷は比較的高低差が低く谷と呼べるかどうかギリギリの存在だ。


「銃士隊のメンバーはこの谷の上に待ち構えている。谷底に集まって来たハーピィをこのマスケット銃でハチの巣にしてやるというわけだ」


 ピエールがマスケット銃を構える。非常に手慣れた手つきで流石銃士隊の隊長と言ったところか。


「ピエール殿。一つ質問がある。洞窟内でハーピィを倒してはダメなのか?」


「ロザリー。それが危険なことはキミも知っているはずだ。相手がただのハーピィなら問題はないだろう。しかし、奴らにはミネルヴァというブレインが付いている。洞窟内には罠が仕掛けられている可能性が高い」


 言われて見ればそうだ。今回はミネルヴァが付いている。人間の知恵の結晶である罠が仕掛けられている可能性は高い。


「あの、俺からも質問いいですか? この煙玉を投げたら捕まっている少年にも被害が出るんじゃないですか?」


「煙玉は人体に有害な成分は含まれていない。代わりにモンスターが嫌がる臭いを配合してある。逆に煙に包まれることでハーピィに嫌われるなら少年も逆に助かるだろう」


 いくら、無害な成分とはいえ煙たいのは流石に可哀相だと思うが……まあ、これも作戦なら仕方ないか。すまない少年。少しだけ犠牲になってくれ。


「質問は以上か? なら、キミ達も念のためマスケット銃の訓練を受けてくれ。素人でも威嚇射撃くらいにはなるだろうからな」



 キャンプ地に設置された簡易射撃訓練場で僕達はマスケット銃の訓練を受けることになった。


 エミールが僕達にマスケット銃の取り扱い方。照準の合わせ方などを教えてくれた。エミールの立会いの元早速撃ってみることにした。


「まずは私からやろう」


 ロザリーは的にしっかり狙いを定めて引き金を引く。その瞬間銃声と共に的の中心から少し外れた所に弾痕が出来た。


「惜しい。後少しで中心を狙えたのに」


「初めてにしては悪くない。次」


「俺がやるよ!」


 アルノーが前に出る。マスケット銃を構える。銃士隊の隊員の息子だけあって中々様になっているようだ。


 アルノーが引き金を引くとほぼロザリーと同じような位置に弾痕が出来た。二人の銃の腕は互角なのだろうか。


「いいぞアルノー。流石俺の息子だ。良かった」


 ロザリーに対する評価は悪くない程度だったのに、アルノーに関しては随分とベタ褒めするな。この親父は。まあ、それだけ息子が可愛いということだろう。


「じゃあ最後は僕だね」


 僕は緊張に震える手を落ち着かせて、ゆっくりと引き金を引いた。銃声と共に的の中心を綺麗に撃ち抜いたのだ。


「……やるな。ライン。昔、俺達の隊にいただけのことはあるな。銃の取り扱い方もきっちり見てたんだな」


 まさかの一発大成功。僕に銃の素質があったなんて思いもしなかった。確かにダーツは得意だったけど……

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