うう……ハーピィに連れ去られてどれだけの時間が経ったのだろう。薄暗い洞窟の奥に押し込められて、僕は監禁されている。お父さんとお母さんと妹に早く会いたい。何で僕ばかりがこんな目に遭わないといけないんだ……
今はハーピィはいない状態だ。でも、洞窟の中には堅い樫の木でできたバリケードがあって、僕の力ではそれを突破することが出来ない。つまり逃げられないのだ。
洞窟の奥で雫が垂れる音がする。その音が僕の心を癒してくれる。何もない空間にずっといると気が狂いそうになる。
コツーン……コツーン……と何者かが歩いてきている音がする。ハーピィが帰ってきたのだろうか。
ひょいとバリケードを飛行して飛び越える三体の影。ハーピィの三姉妹が帰ってきたのだ。でも、最後に現れたハーピィに誰かが捕まっている。灰色の髪の毛の細い体の女の人。どことなく目がギョロっとしていて何だかとっても不気味だ。
「いい子にしてた? ボクゥー」
ハーピィの中で一番の巨乳の個体が僕に抱き着いてきた。僕の顔を胸に埋めてきて息が出来ない。苦しい。
「姉さん……そんな抱き着き方するとその子窒息死する……」
この中で一番大人しそうでクールな個体が巨乳の個体を諫める。それに反応したのか巨乳は僕を解放してくれた。助かった。僕は洞窟内の辛気臭い空気を一生懸命吸い込んだ。
「ふふふ。姉さんの少年愛っぷりは相変わらずのようね。まあ、私も好きだけど」
一番厚化粧の個体がそう言った。少年愛? 少年愛って何? どういうこと?
「ふふ。気分はどうかしら? 少年」
ハーピィとは違う人間の女の人が僕に話しかけてきた。
「最悪だよ。早く家に帰して欲しい」
「まあ、そう言わずにキミもそろそろお腹が空いてきた頃でしょう? いいものあげるから食べなさい」
そういうと女の人はピンク色の謎の球状のものを僕の口に無理矢理詰めこもうとする。僕の本能がこれは危険なものだと訴えている。これは絶対に食べてはいけない。
「んー」
口をしっかり噤んで決して開けてはいけない。
「もう強情ね」
「手伝ってあげよーか?」
そう言うと巨乳のハーピィが自身の羽を使って僕の脇腹を擽って来た。く、擽ったい。だ、だめだ。これじゃあ……
僕は思わず口を開いてしまった。その一瞬の隙を逃さずにピンク色の球状のものが僕の口の中に入っていく。
その球状の者は僕の唾液に反応すると綿菓子のように溶けていき唾液と混ざり合う。僕はその唾液をごくりと飲み込むと体の芯が熱くなってまるで自分が自分でなくなるかのような感覚を覚える。
な、なんだこの感覚は……体が熱いし、変な気分になってくる。全身の血流がよくなっていくのを感じる。
さっきまで憎い相手だったハーピィ達が急に魅力的に感じてしまう。い、いけない。何だこれは。僕は一体何をされたんだ。
「実験は大成功だな。目がトローンとしている。薬の効果が効いている証拠だ」
頭がぼーっとする。何も考えられない。
「ふふ、ミネルヴァさんのお陰で美味しい少年を頂けるね」
「でも、まだ足りない……この少年がお姉ちゃん好き好きって甘えてくれるようになるまでもう少しかかる……」
「ふふ、そうなるまでたっぷり待つわぁ。何せ時間はたっぷりあるんだもの」
三匹のハーピィ達が僕を妖しい目で見つめる。まるで蛇のようだ。僕はこのまま捕食されてしまうのかな。怖い……助けて……
「私がやるべき約束は果たしたわ。もし、貴女達が卵を産んだら私にちょうだい。それが約束だから」
「わかってるって。ハーピィの卵が欲しいなんて好き者め」
それだけ言うと灰色の髪の毛をした女の人は去っていった。あの人はミネルヴァって呼ばれてたっけ……一体何者なんだろう……
◇
射撃訓練を終えた僕達はついにタクル高山を登山することになった。紅獅子騎士団と蒼天銃士隊の共同戦線だ。僕達は蒼天銃士隊の規律に従い、山を登っていく。キチっとした統率の取れた動きで山を登っていく。
「なんか新鮮な感じだな」
ロザリーがぽつりと呟いた。
「何が新鮮な感じなんだい?」
「いや、戦場で誰かの下のついたのは久しぶりだなって。紅獅子騎士団が結成されてからはずっと私が団の指揮を執ってきた。それが今回は蒼天銃士隊と協力することになり、彼らの指揮の元動いている。こういうのも悪くないかなって」
確かに自分で考えて行動するよりも誰かの指揮に従って生きていく方が楽だという説はある。ロザリーはずっと皆の指揮を執ってきてその分大変な思いをしてきたのだろう。
団長という立場は気苦労は多い。甘えん坊になっているロザリーを見ていると本当にそう思う。彼女も心労がなければあそこまで甘えん坊になったりはしないだろう。
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