僕は少年とその妹と一日中遊んだ。彼らとも打ち解けて、遊び疲れた頃には村の近くにあった原っぱで三人で仰向けになって寝ころんだ。
「ねえ、ラインさん。僕に訊きたいことがあるんでしょ?」
少年が図星を突いてくる。元々はその目的だったけど、彼らとの遊びが楽しくてすっかりそのことを忘れてしまっていた。
「ああ。でも、無理に思い出さなくていいさ。キミは辛い思いをしたんだから、その心の傷が癒えるまでは無理に訊き出そうとはしない」
「ううん。僕はもう大丈夫。あの時あったことを話すね」
少年の心がすっかり回復していたようで良かった。
「タクル高山で遊んでいた僕は三匹のハーピィに取り囲まれて逃げることも出来ずにそのまま巣へと連れていかれたんだ。食事も本当に最低限度のものだけ。その辺で拾って来た木の実を与えられる程度だった」
「それは辛かったね」
「うん。でもラインさんが助けてくれたから平気。でね、ハーピィ達が一人の女の人を洞窟に連れてきたんだ。名前はミネルヴァって言ったかな?」
ミネルヴァはこの少年の前にも姿を現していたんだ。
「その人が持ってきたピンク色の玉みたいなものを無理矢理口の中に押し込まれてから変な気持ちになっちゃって怖かった」
ピンク色の玉のようなもの……? どこかで既視感があるな。少年に起こった症状を思い返してみるとある一つの物が思い浮かんだ。
東洋の国からやってきた少女ルリが持っていた惚れ薬。別れ際に僕にくれたけど、確かそのような形状だったと思う。
「でね、そのミネルヴァって人はハーピィの卵を欲しがっていたんだ」
ハーピィの卵……ミネルヴァは何の目的でそんなものを欲しがっていたんだ……
「ありがとう。とりあえず、またここに寄らせてもらうね。見せたいものがあるんだ」
「わかった。ラインさん今日は来てくれてありがとうね」
後日、僕はルリから貰った惚れ薬を持って少年の元を訪れた。少年はその薬を見て、自分が飲まされたのはこれだと証言をしてくれた。ミネルヴァは東洋で書かれた未来の技術が書かれている煉獄の書に出てきた物を持っているのだ。
これはルリに話を聞きに行きたいな。そういえば、ロザリーの話ではルリは今この国にいると言っていたな。丁度いい所に来てくれたな。
◇
僕はロザリーと共にルリがいる学術研究組織に足を運ぶことにした。そこ向かうまでの道中でロザリーと話をすることにした。
「実はな……私が持っていた煉獄の書は何者かに盗まれてしまったんだ。それが恐らく、ミネルヴァの手に渡ったのだろう。面目ない」
「なるほど。ロザリーの手元から無くなってミネルヴァの元に移ったなら辻褄があうな。ミネルヴァは煉獄の書に書かれている未来の技術を手に入れてそれを自分の物にしたんだ」
「飲ませた物を恋に落としやすくなる惚れ薬。あれも私の持っていた本に書かれていた」
ロザリーは自分が煉獄の書を盗まれたせいで、ミネルヴァに技術を与えたしまったことを悔やんでいる。僕はそんな彼女を慰め励ました。
「ミネルヴァの手に煉獄の書が渡ったのはしょうがない。だからこそ、ルリに話を聞きに行くんだ。逆にミネルヴァの企みをこちらで予見出来るかもしれない」
そうこうしているうちに学術研究組織の施設に辿り着いた。そこの正門の前でルリが待ち構えていてくれた。
「あ、おーい。ラインさん。ロザリー。久しぶりー。私に急に会いたいって書簡が届いた時にはびっくりしたよ。落ち着いたらこっちから会いにいこうと思ってたけど……会いに来てくれてありがとう」
「久しぶりだなルリ。元気にしてたか」
ロザリーとルリが握手を交わす。
「ルリ。今日は訊きたいことがあって来たんだ」
「うん。書簡で大体の事情は聞いてるよ。ミネルヴァって悪い人が煉獄の書を盗み出してその技術を悪用していることでしょ……」
話が通じているなら助かる。僕達は煉獄の書を失くしてしまったから、ミネルヴァが何をしようとしているのかがわからないのだ。
「ミネルヴァはハーピィの交尾を手伝う代わりにハーピィの卵を要求していたらしい。ハーピィの卵を材料としているものって何かあるかな?」
僕の問いかけにルリは少し考え込んだ。
「んー。ハーピィの卵か。ハーピィが多種族と交雑した時に出来る有精卵が材料になっているものがあるんだ。それは水中でも呼吸が出来るようになる不思議な薬、水龍薬って言うんだ」
水中? ミネルヴァは水中をも侵略しようとしているのかな? 彼女が作ろうとしているものが特定出来たところでその目的までは僕にはわからない。
「水龍薬の材料は、ハーピィの交雑有精卵。セイレーンの髪の毛、マーメイドの鱗、アルラウネの花弁。この四つの素材が必要なんだ」
「だとすると、ミネルヴァは次にそれらのモンスターと接触する確率が高いな! すぐにこのモンスター達の生息域を調べて先手を打つぞ!」
ロザリーが張り切り出した。しかし、僕には気乗りしないことがあった。アルラウネ……そのモンスターは。
「アルラウネは僕の故郷の村の近くに生息している……」
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