女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

39.指名手配犯ミネルヴァ

公開日時: 2020年10月2日(金) 22:05
文字数:2,283

 休暇を終えた僕達は早速軍の上層部に事の顛末を伝えた。スライムの討伐は無事に終了し、粘液を回収出来たことを。クランベリーの追跡により、モンスターテイマーのミネルヴァという女がいたことを。その女が王国の陥落を狙っていることを。


 上層部は事の重大さを認めてミネルヴァを指名手配するようにした。ミネルヴァの似顔絵はロザリー、ジャン、アルノーがそれぞれ描くこととなった。審議の結果、真っ先に候補から外されたのがロザリーの描いた似顔絵で、ジャンとアルノーの描いた似顔絵どっちを採用するかによって三人で話し合いがされた結果、ジャンの描いたミネルヴァの顔が手配書に掲載されることになった。


 ミネルヴァの似顔絵を見ても僕は全然ピンとこなかった。当たり前か。僕はミネルヴァの顔を見ていないのだから。


 後日、似顔絵が真っ先に不採用になって不貞腐れたロザリーを慰めることになってしまった。彼女はあれで結構自信があったようだ。ミネルヴァの顔を見ていない僕が言うのも難だけど、あの子供の落書きレベルの絵がよく採用されると思ったなと感じたのが第一印象だ。


「ジャンもアルノーも酷いんだよ。私の描いた似顔絵を見て、これはないってバッサリ斬り捨てたんだよ……酷くない? 私一生懸命描いたんだよ!?」


 ロザリーが僕の胸で泣いている。ロザリーの絵は……何というか独特なセンスで常人には理解しがたいものがあるんだろう。きっとそうだ。せめて僕だけでもそう思ってあげないといくらなんでも彼女が可哀相だ。


「よしよし。僕はロザリーの絵好きだよ」


「本当!? じゃあ、ラインきゅんの似顔絵描く~」


 ロザリーがとんでもないことを言い出した。あの美的センスで僕の絵を描くと言うのか……ただ、断るのも可哀相なので僕は大人しく受け入れることにした。


 僕はモデルになるためにじっとしている。ロザリーは鼻歌交じりで僕の似顔絵を描いている。白いキャンパスがロザリーの手によってある意味芸術作品へと変化していく。


「出来た!」


 ロザリーが描いた絵はとても独創的で、芸術のセンスが皆無の僕にとってはとても理解出来るものではなかった。きっと小さい娘に似顔絵を描いてもらった父親はこんな気持ちになるのだろう。問題なのはこの娘が小さいどころか、僕よりも年上なところだが。


 まあ、でもロザリーが一生懸命似顔絵を描いてくれただけで僕は嬉しい。下手とか上手とかよりももっと大事な心が籠っているんだ。この絵は家宝にしよう。うん。


「ど、どうかな?」


 ロザリーが僕の反応をわくわくしながら伺っている。


「うん。ありがとうロザリーとっても嬉しいよ」


 僕はロザリーに似顔絵を描いてもらって嬉しいことをそのまま素直に伝えた。絵の良し悪しにはあえて触れないで。


「ラ、ラインに喜んでもらえるなら私も嬉しい」


 ロザリーの顔が赤くなる。ははは。全く可愛いやつめ。


 急に部屋の扉が開いた。アルノーがやってきたのだ。


「ライン兄さん探しましたよ……ってあれ、なんだこのヘッタくそな絵は……」


 ラインが開口一番にとんでもない爆弾発言をかましてしまった。それを聞いたロザリーは放心状態になっている。


「アルノー。キミってやつは……」


 僕はアルノーの空気の読めなさに呆れた。やれやれ。ロザリーを慰めるのは少し延長が入るようだ。



 私は黒いマスクを着けながら王都を散策している。王都のそこら中には張り紙がしてあった。指名手配犯ミネルヴァ? あらやだ。どこの美人さんかしらね。この女の人は。


 私は自身の顔がとても上手に描かれていることに少し嬉しくなった。とはいえ、指名手配されたのは少しまずいわね。これでは王都の情報を散策できないわ。


 王立の騎士団に私の素性と目的を明かしたのはまずかったかしら。でも、素性を隠して不意打ちするのも私の趣味じゃないんだよね~。正々堂々戦いたいのよ私は。


「ねえ、ママ。あの人あの手配書の似顔絵に似ている」


 男の子が私の方を指さしてそう言ってきた。このクソガキ。ミンチにしてやろうか。


「こらやめなさい。すみません」


 どうやら母親はまさかこんな白昼堂々指名手配犯が現れるとは思ってなかったのか、人違いだと思ってくれたようだ。良識的な母親で助かった。


 私は王都の街外れにある酒場に来ていた。ここなら情報がいくらでも手に入る。


 早速酒場に入ると中には沢山の下衆共がいた。私のお目当ての情報は聞けるかしらねえ。


「なあ。知っているか? 紅獅子騎士団のロザリー団長っているだろ? あいつの下着の色は黒らじいぜ」


「バカ、お前それガセネタだよ。本当は赤だよ」


「は? 俺が前聞いた時は水色だって言ってたぞ」


 男三人が集まってバカな話をしている。酒場は情報が集まる反面、ガセネタやどうでもいい情報が集まりやすいのだ。その中でも私が信頼を置いているのは……


「マスター。いい情報が入っているかしら」


「ミネルヴァか……」


「今はその名前で呼ばないで」


「ふふ、そうだな。指名手配中だもんなお前は」


 ちょび髭が生えた酒場のマスターがグラスを拭きながら私の相手をしてくれている。


「そうだ。ミネルヴァ。煉獄の書って知っているか。噂によると東洋の魔導書なんだけどさ、それが結構信頼性の高い魔導書らしいんだ」


 マスターがアホなことを言い始めた。魔導書なんて九割ガセでしょ。全く。


「興味ないわ」


「まあ聞けって。噂によるとその煉獄の書に記されていた植物から作った薬で東洋の国の皇帝の病気が治ったらしいんだ」


「それって本物ってこと?」


「ああ。そして、その煉獄の書を今持っているのはロザリーだ」


 なるほど。これは面白いことになってきたわ。ロザリーから煉獄の書を奪ってやるわ。

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