女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

123.剣術大会予選

公開日時: 2020年10月26日(月) 21:05
文字数:2,213

 昼食を終えた僕達は剣術大会の申し込みをすることにした。帝都の城下町に受け付け会場があり、僕とロザリーは参加エントリーをした。


 大会は三日後に執り行われる。それまで、僕達は城下町の宿場に泊まることになった。東洋では魚食文化が進んでいるのか、宿場の料理も魚料理であった。魚が好きなロザリーは満面の笑みで魚料理を食べている。しかし、僕は最近魚ばかり食べているせいかそろそろ飽きてきた。そろそろ肉が食べたい。


 ロザリーとルリが同じ部屋で寝泊まりし、僕は隣の部屋で寝泊まりすることになった。まあ性別が違うから当然か。明日は剣術の修行でもしようかな。そう思いながら僕は床に就いた。


 翌朝、ルリが僕の部屋にやって来た。


「おはよー! 今日も帝都案内するよー」


 やけに張り切っている。けれど僕は剣術の修行がしたいのだ。


「ごめん。ルリ。僕達は剣術大会に向けて修行をしないといけないんだ。遊んでいる暇はないよ」


「えー」


「そうだぞ。ルリ。私達は遊びに来ているんじゃない。元は水龍薬を手に入れるためにこの東洋にやってきたんだ。その目的を忘れることは騎士としてあってはならない」


 ロザリーも真面目だ。まあ、騎士団長なら当然か。


「そんなー。折角、今日はオススメの釣りスポットを案内しようかと思ったのに」


「釣りだと!?」


 ロザリーが食いついた。いや、キミが釣られてどうするんだ! 釣るのは魚でしょうが!


「よし、行くぞライン!」


「えー」


 熱い掌返しを見てしまった。さっきまでの真面目な騎士団長様はどこに行ったの?


「ロザリー……いくらなんでもそれは」


「あのなあ、ライン。本番前に慌てて練習するような奴は三流だ。一流の騎士は常日頃から鍛錬しているから、戦いの前に慌てて訓練することはないのだ。普段通り生活をしていても、実力を発揮出来るのが一流の騎士だ」


 屁理屈という名の正論に流されて結局僕達は釣りに行くことになってしまった。


 その後も理由を付けては、遊びまわる生活が続く。


 結局僕達は三日後まで遊び呆けてしまった。任務で来ているはずなのに……もし、紅獅子騎士団の皆に知られたら示しがつかないかな。


 そんなことを思いながら大会当日。僕達は大会会場にやってきたのであった。


 大会会場は盛況している。僕は東洋に来てから殆ど剣を握ってないけれど大丈夫かな?


 大会は予選と本選に別れている。予選では一度でも敗北すればその場で即失格。本選は選ばれた八人がトーナメント方式で戦う。要は一度も負けが許されない戦いだ。


 対戦組み合わせは本当に運次第。僕とロザリーはどちらかが優勝出来ればいいから出来るだけ、この二人で争いたくない。頼むから予選で当たるというオチだけはやめて欲しい。


「予選第一試合を始める。ライン選手とカエデ選手。前に出て戦いの準備を」


 僕はクレイモアを両手で持ち、戦いの部隊へと上がった。僕の相手は、奇抜な恰好をした女子だった。髪型はポニーテールで、鎖帷子くさりかたびらを着こんでいて、その上に和服を羽織っている。


「あら、強そうなお兄さんね。私負けちゃうかもー。ねえ、手加減して?」


 試合前に猫なで声で僕を懐柔しようとしてきているな。女であることを武器にして戦うつもりなのであろう。確かにこの子は胸がでかい。はっきり言ってロザリーよりもだ。だけれど女性の価値は大きさだけで決まるものではない。僕にはロザリーがいる。こんな相手に惑わされるわけにはいかない。


 カエデは胸を前に突き出して胸を強調している。余程大きさに自信があるのだろうか。


「ライン! 負けるなー!」


 後ろでロザリーが応援してくれている。より一層負けるわけにはいかないという気力が湧いてくる。


「では、第一試合始め!」


 カエデは刀と呼ばれる剣で僕に斬りかかってくる。手加減を要求した割にはとても素早い動きだ。はっきり言って強い。


 僕はクレイモアでその刀を防いだ。そして、力押しで刀の斬撃を跳ねのけた。


「お兄さんのパワー凄い。私、力がある男の人って好きなんですよー。だから今晩一緒にどう?」


「悪いが僕には好きな人がいるんでね。お断りだ!」


 ロザリーが見ている前で浮気なんて出来るわけがない。


「あら、残念。お兄さんには私の誘惑が通用しなさそうね。なら、お兄さんには痛い目にあってもらわないとね」


 カエデが怪しく笑う。そして、胸元に手を突っ込み中から黒い玉を取り出した。そして、その玉をこちら目掛けて投げてきた。


 玉が僕にぶつかるとそれが破裂して、中から煙が出てきた。視界が塞がれた? これはまずいな。


 そう思った僕は目を瞑った。どうせ煙で周りが見えないのなら、目を開けていても同じこと。目を開けていると下手に視覚情報に頼ろうとしてかえって混乱する。


 こういう時は視覚神経以外の情報に耳を澄ませた方がいい。しかし、聴覚も観客の声援やブーイングによって惑わされてしまう。目と耳に頼ることは出来ない。なら……


 そこだ! 僕はクレイモアで香水の匂いがする方を思いきり叩きつけた。すると、柔らかい感触の何かを思いきり打ち付ける感触がする。感触と共に全く可愛げの欠片もない潰れた声が聞こえてくる。


 僕はゆっくり目を開けた。煙が晴れた先にいたのは、クレイモアに強打されて地面にへばり付いているカエデの姿であった。


「カエデ選手戦闘不能とみなし、ライン選手の勝利!」


「やったな! ライン!」


「おめでとー!」


 ロザリーとルリの祝福する声が聞こえた。とりあえず初戦で敗退するという情けない結果にならなくて良かった。

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