私達はその後もゴブリンに追いつかれては私とアルノーが時間稼ぎとして戦い、皆が逃げる時間を稼ぐのを繰り返して森の出口へと向かった。
かなり長い時間経っただろうか、ついに森の出口が見えてきた。体力も切れかかっているキャロルも出口が見えた途端に元気になってペースが上がったようだ。
「み、皆さん! もう少しで着きますよ」
森の外には紅獅子騎士団の皆が待機している。皆が待っているなら心強い。ラインに早く会いたい。
「待ってゴブリンちゃん達。様子がおかしい。私達はここに誘い込まれた?」
ミネルヴァが状況に気づいたようだ。だが、もう遅い。
「ゴブリンちゃん達! 撤退するわよ。森の外は危ない」
その瞬間、紅獅子騎士団の皆がゴブリン達を取り囲むように登場した。何人かは既に森の出口付近に待機していたのだ。私達の役目はゴブリン達は森の出口付近まで集めること。そのまま誘導されて森の出口に出るのも良し。森の出口付近で踏みとどまっても、既に森の奥に待機している騎士団のメンバーが逃がさないように包囲陣を囲ってくれる。
これもジャンの考えた作戦。森を探索してゴブリンに遭遇して誘導する部隊。森の入り口付近で待機して囲うための部隊。森の出口で待機するための部隊。この三部隊を結成して確実にゴブリンを囲えるようにしたのだ。
「く……取り囲まれた。私達に勝てないと踏んで逃げたのではなく、私を追いつめるために逃げたフリをしていたのね」
ミネルヴァの姿を補足できた。ミネルヴァは悔しそうに唇を噛み締めた。このままゴブリン達諸共一網打尽にしてやる!
「でも、私はここで捕まるわけにはいかないわぁ……」
ミネルヴァは指笛を吹いた。その合図と共に上空から、女の上半身と鳥の下半身。両手が翼に変化しているハーピィというモンスターが現れた。
ミネルヴァはジャンプしてハーピィの鉤爪に飛び乗った。ハーピィは強い握力でミネルヴァを持ち上げるとそのまま上空へと飛び立っていく。
「待て! ミネルヴァ!」
私は上空へと逃げていくミネルヴァに向かって叫んだ。しかし、聞こえてくるのはミネルヴァの高笑いだけ。悔しい。折角追いつめたのに逃げられてしまうなんて。
「また会いましょう。紅獅子騎士団のロザリー!」
指揮官を失ったゴブリン達は慌てふためいている。取り囲まれているこの状況ではゴブリン達も不利だと自覚しているだろう。
「俺タチハ……見捨テラレタノカ……」「ミ、ミネルヴァ様……」
ゴブリン達が上空を見上げて悲しそうな顔をする。少し同情してしまうが、かと言って情けをかけるわけにはいかない。こいつらは何人もの人を殺しているモンスターだ。許すわけにはいかない。
「皆! せめてこのゴブリンを倒すぞ! 傭兵部隊の弔い合戦だ!」
私は容赦なくゴブリンに剣を向けた。先程は時間稼ぎのための守備的な構えであったが、今回は攻撃的な構えで剣を握る。一瞬の隙をついてゴブリンの心臓を一突きにする。
ゴブリンはその場で息絶える。ゴブリンの返り血が私の頬に付着する。全く返り血はいつ浴びても嫌な感触だ。長いこと戦場に出ているけど未だに嫌い。
私がゴブリンを倒したことを皮切りに他の騎士達も続けてゴブリン達に攻撃を仕掛ける。ゴブリンは最早精神的に負けを認めたのか動きが鈍くなっている。私以外の騎士でも倒せるほどに弱体化している。
ボスゴブリンクラスに強かったこのモンスターも肉体が強くなっただけで知恵と精神は前のボスゴブリン程ではない。あの時のような苦戦はしなくて済んだ。
前はゴブリンの残党を逃がしたが、今度は逃がすつもりはない! 目指すは敵の全滅だ! 一匹たりとも逃がすつもりはない。そのために包囲網を張る作戦をしたのだ。
◇
数分後、ゴブリン達の死骸が森の中に横たわる。このまま放っておけばゴブリン達は土へと還るであろう。それが自然の摂理というやつだ。
「皆。すまない。ミネルヴァを取り逃がした」
私は団員達に深々と頭を下げる。
「気にすんなよロザリー」「そうだよ。空を飛ばれたら誰だって取り逃がしちゃうよ」
団員が私を擁護してくれる。その言葉に私は救われた。
「ロザリーはよくやってくれたよ。お疲れ様」
ラインが私の頑張りを認めてくれた。嬉しい優しい大好き。今日も後でいっぱい甘えよう。
私はラインに甘えているところを妄想しながら、王都へと凱旋するのであった。
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