私はいつものように前線に出てモンスター達と戦う。ゴブリンやオークを始めとする獣人系モンスターの混合軍だ。戦況は拮抗状態。なら、いつも通り私が先陣を切って戦い突破するまで!
「私の可愛いモンスターちゃん達に勝てるかしら?」
モンスター達の後方に指揮官としてミネルヴァがいた。あの女、今度こそひっ捕らえてやる!
私は我を忘れてミネルヴァに突っ込んだ。ミネルヴァを守護するモンスター達を剣でばっさり斬り捨てて、前へ前へ駆け抜けていく。
私は無我夢中でミネルヴァを追った。決して後ろを振り返らずに……
ミネルヴァの目前まで辿り着いた。私の息は少し切れているがそんなことは関係ない。ミネルヴァ自身は戦う力を持たないただの女だ。私の敵ではない。
「観念するんだなミネルヴァ」
「ふふふ。私を追いつめたつもり? 後ろを見てごらん?」
私はミネルヴァに言われるがまま後ろを振り向いた。そこには地獄絵図が広がっていた。私の騎士団のみんながモンスター達に蹂躙されていた。騎士の半数以上がモンスター達に嬲り殺されていた。
「な! み、皆!」
悪夢はそれだけでは終わらなかった。巨大なオークにラインが首根っこを掴まれて持ち上げられていたのだ。
「ロ、ロザリー……」
「ライン!」
次の瞬間、オークのとんでもない握力によってラインの首の骨が折られてしまった。ラインの手足はだらーんとしてしまい、彼は動かなくなってしまった。
「そ、そんな……」
「オ前ノ恋人ダ……」
オークはそう言うとラインの死体を私の前に投げつけてきた。ラインの口から血が垂れ流れてきている。やだ……こんなの見たくない。
「あははは。貴女のせいで死んだのよ。貴女が後ろを見ずにそのまま突っ込むから。冷静に対処していれば皆も死なずに済んだのにね」
ミネルヴァの高笑いが私の頭の中に響く。やめてくれ……私の頭が酷く痛む。まるで脳みその内側から殴られているような感覚だ。痛い……痛い……頭が痛い……
◇
僕はロザリーのベッドの上で目が覚めた。そうか……僕はロザリーの家に泊まったんだったな。
隣からうなされている声が聞こえる。ロザリーだ。寝苦しいのだろうか? 少し心配だ。
「ロザリー? 大丈夫か?」
僕はロザリーの体を優しく揺すった。すると彼女の目がゆっくりと開いた。
「ライン……」
ロザリーは寝ぼけ眼で僕を見つめる。一瞬の静寂の後、ロザリーは大声をあげて僕に抱き着いてきた。
「ライン! 生きてて良かった! 私……私……!」
「ロ、ロザリー落ち着いて……何があったんだ」
僕がロザリーの頭を優しく撫でると彼女は落ち着いてきたのか、状況を語ってくれた。夢の中でミネルヴァと戦っていたこと。その夢で紅獅子騎士団の皆が惨たらしく殺されたこと。その中に僕が含まれていたことを。
「私守れなかった……夢の中とはいえ、皆を……ラインを……」
「ロザリー。ただの夢の話だよ。そんなに気にすることじゃないよ。僕は生きている」
「うん……」
結局、その後に僕がどんだけ励ましたり慰めたりしてもロザリーの暗い顔は晴れないままだった。ロザリーの見た夢はそれだけ凄惨なものだったのだろう。
僕は自分自身を情けなく思った。ロザリーがこんなに精神的に苦しんでいるのに、僕には彼女の心をケアすることが出来ていない。僕は何のためにここにいるのだ……
◇
紅獅子騎士団にまたモンスターの討伐依頼の書簡が届いた。羊飼い達の集落がウェアウルフに襲われたらしい。羊が多数殺されてかなりの被害が出ているという。
「皆! 羊飼いの集落に急ぐぞ! 出発は今日の昼頃だ。準備を怠るなよ!」
ロザリーは毅然とした態度で皆に指示をしていく。今朝の弱気なロザリーが嘘のようだ。やはりロザリーは凄い。どんなに辛い状況でも騎士団長としての責務を果たそうとしているのだから。
皆がそれぞれの準備のために動いていて別室に行った後、僕とロザリーは二人きりになった。
「ロザリー? 大丈夫? 無理してない?」
僕はロザリーのことを心配した。しかし、彼女はそれを鼻で笑うのだった。
「はは。ライン。キミはいつから私を心配出来るほど偉くなったのだ? 私は紅獅子騎士団団長のロザリー。無敵の強さと決して折れない信念を持ち合わせた皆の手本になる存在だぞ」
精一杯強がってみせているけど、僕にはわかる。これが彼女の精一杯の空元気なのだ。僕は少し寂しく思った。どうして僕の前でそんなに強がってみせる必要があるんだ……僕の前くらいでは騎士団長の仮面を取ってくれてもいいのに。
「さあ、ラインもボサっとしてないで医療器具の点検をしっかりしてくれ。衛生兵のキミがしっかりしてくれないとこの団は崩壊するからな。自分が団の生命線だってことをきっちりわかってくれよ」
ロザリーが僕の肩をぽんと叩く。僕に喝を入れてくれているのであろう。違う……こんなのはいつものロザリーじゃない。どうして僕に甘えてくれないんだ……
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