転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第23話 カトック隊 vs エグモント団(5)

公開日時: 2020年10月24日(土) 17:30
更新日時: 2023年5月11日(木) 15:30
文字数:3,022

   

 翌日。

 朝食の後、ひと休みしてから、僕たち五人は『赤天井レッド・ルーフ』――冒険者組合アーベライン支部――へと向かった。

 もちろん部屋着ではなく、いつもの格好に着替えた上での出発だ。このままダンジョンに行くわけではないが、鎧やローブが冒険者の正装に相当するからだった。


 ちなみに、昨日の夕食ほどではないものの、朝食も美味しかった。パンケーキ、トースト、ベーコン、卵、サラダ、フルーツという、ありきたりな朝メニュー。それなのに余所よそで食べるのと味が違うのだから、不思議な話だ。

『ほら、あれじゃないか? ベーコンの焼き加減が違うとか、パンケーキのシロップが違うとか……』

 ベーコンに関しては、ダイゴローの言う通りかもしれない。わざわざクリスタが「カリカリにする? それとも焼き過ぎない派?」と尋ねてきたから、今まで考えたことなかった――そこまで細かく注文したことのない――僕は、少し戸惑ったのだが……。

「ベーコンはカリカリに限るぞ」

「違うよ、カーリンちゃん。クッキーやクラッカーじゃないんだから! ベーコンは柔らかくして、脂ごと卵に絡まるくらいが美味しいんだよー!」

 それぞれ、ベーコンには一家言あるらしい。

「カーリンもアルマも、自分の好みを彼に押し付けちゃダメよ」

 と言うクリスタに任せたら、中庸に焼いてくれた。これが、たまたま僕にはピッタリだったのだろう。明日からは「最初の日と同じくらいで」と頼もうと思う。

 一方、パンケーキに関しては……。同じように見えて、生地が微妙に良かったのだろうか。バターもシロップも一般的な製品であり、そもそも僕は少量しか塗らなかったから、影響は少なかったはず。アルマに至っては、生クリームをドッサリのせて食べていたが、あれではパンケーキ自体の風味を損ねてしまうから、絶対に真似するつもりはなく……。


 そんなことを考えていたら、

「バルトルトくん、何をニヤニヤしてるのかな?」

 と、前を歩くアルマからの言葉。わざわざ振り返って言われるほど、あからさまな表情だったのだろうか。

 思い出し笑いをしていたつもりはないので、少し恥ずかしいが……。思わず顔がニヤけるほど朝の食事が素晴らしかった、という証かもしれない。

「いや、別に……。ちょっと朝食のことを思い出して……」

「あら、もう昨日みたいなことを言うのはめてよね」

 僕の「美味しかった」を封じるかのように、横からクリスタが微笑みかけてきた。あまり絶賛されるのも、照れ臭いのだろう。

「食べ物のこと考えて、そんな顔になるなんて……。案外キミも食いしん坊なのかな? アルマみたいだね」

「ニーナちゃん! なんでそこで私の名前が出てくるのー?」

 そんな感じで。

 爽やかな日差しの下、たわいないお喋りをしながら、僕たちはアーベラインの街中まちなかを歩くのだった。


 冒険者組合の窓口は、午前中なのでいていた。並んでいる冒険者はおらず、僕たちが近づいていくと、受付のお姉さんの方から声をかけてくる。

『バルトルトが一人で来た時とは違うな』

 とダイゴローは言うが、人数のせいではないだろう。昨日の今日なので――「明日の午前中、また同じ窓口まで来てください」と告げたのは彼女自身なので――、僕たちの顔を覚えていたに違いない。

「カトック隊……でしたっけ。依頼番号一五八九の件ですね」

「そうです。どうなりました?」

 受付の前に立って、リーダーのニーナが対応する。残りの僕たちは、ニーナの後ろに四人横並びで、彼女の背中を見守る形だった。

「はい、依頼者に連絡したところ、やはり『両方とも来るように』と言われました。今日の午後二時を指定されていますが、大丈夫ですね? 場所はこちらです」

「了解しました。ありがとうございます」

 依頼人の屋敷――ベッセル男爵邸――までの地図を渡されて、頭を下げるニーナ。

 窓口から離れると、アルマが彼女に駆け寄っていく。

「ねえねえ、ニーナちゃん。結局どうなったの? もう一つのパーティーと、一緒にお仕事するの? それとも、貴族のおじさんが雇ってくれるのは片方だけ?」

 彼女の質問は、僕も気になるポイントだった。しかし、僕たちにも聞こえていた会話から判断すると……。

「さあ、どうでしょうね。どっちになるのか、行ってみるまでわからないみたい」

 と言って、肩をすくめるニーナ。

 冒険者組合としては、ここから先は依頼者と冒険者の直談判に任せる、という形なのだろう。冒険者組合は、あくまでも仕事の仲介をするだけであり、それ以上は関与しない組織なのだ。

『今の窓口での様子を見れば、僕にもそう思えるぜ。いかにもお役所仕事って感じだな』

 ダイゴローは、茶々を入れるような口調だ。

 しかし、彼に構っている場合ではなかった。

「そのベッセルって男爵の考え次第だけど……」

 クリスタが、意味ありげな視線を僕に向ける。

「……もしも『二つのパーティーで共同』って言われたら、あなたは少しやりにくいのかしら?」

「えっ、それは……」

 相手はエグモント団、つまり僕を追放したパーティーだ。気まずいのではないか、と心配してくれたらしい。

 その気持ちに甘えてしまうのは簡単だが、それでは男がすたると思って、虚勢を張ることにした。

「……いや、大丈夫ですよ。むしろその場合、両方と面識ある者として、僕が橋渡し役になりましょう!」


 食堂ホールで軽く昼食にして――あくまでもカトック隊基準の『軽く』だったが――、少し時間を潰してから。

 僕たちは、依頼人であるベッセル男爵の屋敷へ向かった。

「昨日、少し調べてみたのだけど……」

 歩きながら、クリスタが興味深い情報を持ち出す。

「ベッセル男爵というのは、アーベラインの行政府で働く貴族の一人みたいよ」

「ああ、そっか。それで『回復の森』を担当してるのね。伯爵じゃないのに、ってちょっと不思議だったんだ」

 と、納得するニーナ。

 僕は今まで気にしていなかったが、なるほど、言われてみれば。

 地域のトラブルを解決する目的で、地方領主の伯爵ではなく男爵がわざわざ冒険者を雇うのは、不思議といえば不思議な話だったかもしれない。

 それよりも。

 僕が驚いたのは、クリスタがこれを『昨日、調べた』という点だった。僕が昼寝している間に、情報収拾に励んでいたとは……!

 改めて、クリスタを尊敬してしまう。

 それにしても、ならば昨日の夕食とか今日の朝食とか、この話を持ち出す機会は、今までもあったはずだが……?

『そりゃあ、その男爵の屋敷に行く直前の方が、みんなの頭にも残りやすいからだろ? ただ話を披露するだけじゃなく、最適なタイミングを見極めた、ってことさ』

 というのが、ダイゴローの理屈だった。

 そうなのだろうか。そこまで彼女は考えていたのだろうか。

『別に不思議じゃないぜ。なにしろクリスタは魔法使いだ。賢くて当然だろ? このパーティーの頭脳労働担当じゃないのか?』

 確かに冒険者学院では、賢さのパラメーターが魔法士には重要、と教える教師もいた。

 パラメーターと言われても、数値化されて見えるわけではないから、どうしようもない。そう主張して反発する生徒は多かったし、どちらかといえば、僕もそちら側だったが……。

『なあ、バルトルト。お前も少しは彼女を見習えよ』

 ダイゴローの口調が軽くなる。

『ほら、魔力は十分かもしれないのに弱炎魔法しか使えない、って話があっただろ。あれって、冒険者としてのレベル云々じゃなく、バルトルトの賢さが足りないから、って理由じゃないのかい?』

 からかうような言葉に対して、僕は何も言い返せなかった。

   

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