転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第111話 ゴブリンは友だち(7)

公開日時: 2021年2月3日(水) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:07
文字数:3,304

   

「村へ入れなくするなんて、そこまでする必要ないでしょう?」

 同じクラナッハ村の住民であるパトリツィアも、そう言ってくれた。

 このおかげかどうかは不明だが、カールはニーナの提案を受け入れて、『秘密の出入り口』の件は僕たちカトック隊に預ける、という話になった。彼の表情を見る限り、渋々といった感じであり、あまり納得していない様子だったけれど。

 とりあえず、宿屋の前で立ち話を続けるのも何なので、僕たちは歩き出す。昨日に続いて今日も、カールとパトリツィアに村を案内してもらう形だった。


「ふわふわのオムレツ! おいしそうー!」

 アルマが輝かしい笑顔を浮かべる。

 午前の探索の後、カールとパトリツィアのオススメ店で、お昼を食べることになった。

 卵料理が絶品のレストランだそうだ。珍しく二人の意見が一致するのだから、本当に良い店なのだろう。

「いただきまーす!」

 早速アルマが食べ始めた。

 続いて、僕も口をつける。僕が頼んだのは、白いクリームのかかったオムライス。トロトロの半熟卵と滑らかなクリームの食感が、なんとも心地よい。

 昨日の昼食は携帯食で済ませているだけに、そのギャップで、いっそう幸せに感じられた。

 しばらくの間は食べることに専念していたが、

「食べながら聞いてくれ」

 カールが真面目な顔で話し始めたので、意識をそちらへ向ける。

「昨日と今日の午前中で二つずつ、合わせて四箇所、ゴブリンの出現地点を回ったな。何か気づいたことはないか?」


 僕たちがクラナッハ村へ来る前の二週間で、ゴブリンのギギが現れたという五つの遊び場。そのうち四つを、既に見せてもらったことになる。だが、どこも子供の遊び場だというだけで、特に気になる点はなかった。

 スプーンを持つ手を止めて、仲間の顔を見回してみるが……。みんなも同じ考えのようだ。

 カールも僕たちの表情を見て、察したらしい。

「そうか。モンスターの専門家である冒険者の目から見ても、特に共通点はないのか。じゃあ今後の出現ポイントを予想するのも無理か……」

 昨日案内された二つは遊具のある公園だったが、今日の二つのうち片方は公園ですらなく、何もない空き地だった。そもそも昨日のように、ゴブリンは玩具店に出没することもあるのだ。出現ポイントの予想なんて出来るわけがない、と僕には思えた。

「結局、子供の遊び場ってだけですね。ゴブリンが現れそうな要素は」

 当たり前のことを口にしたニーナに続いて、クリスタも意見を述べる。

「子供が遊んでいるところに現れる、という話を聞いた時は、あのゴブリンが子供に引き寄せられているのかと思ったけど……。昨日の様子を見ると、ゴブリン自身が人間の子供みたいな性質なんでしょうね」

「そうみたいだな。昨日のオーラフさんの玩具屋、まだ子供は来てなかったのに、ゴブリンが出たんだから」

 と、カールもクリスタの意見に同意。その横では、パトリツィアが笑みを浮かべていた。

「あら、ついにあなたも認めましたの? あのゴブリンは人間の子供みたいに穏やかなモンスターだ、って」

「そういう意味じゃないぞ。だいたい、人間の子供だって、みんながみんな穏やかなわけじゃない。乱暴な子供だっているだろ?」

 また二人は言い争いを始めそうになるが、割って入ったのは意外な人物だった。

「なんでみんな『あのゴブリン』なんて言い方するのー?」

 問題のゴブリンと親しくなったアルマだ。

 でも今のアルマは、オムレツに夢中になっていたはずなのに……。そう思って見てみたら、いつの間にか彼女の皿はからになっていた。

「名前があるんだよ? ちゃんと『ギギちゃん』って呼ぼうよー!」

 それはそれで話が明後日の方向へ行きそうだが、すかさずクリスタが、方向修正を試みる。

「逆に私たちの方から、カールさんとパトリツィアさんに聞いてみたいのですけど……。余所者では気づきにくいけれど村の人ならばわかること、何かありません? 例えば、今までギギちゃんが現れた場所、位置関係としてはどうなるのかしら?」


 実際に歩いて回ったものの、まだ村の地理に詳しくない僕たちでは、位置関係は把握できていなかった。道は直線ばかりではなく、時には少し迂回する場所もあるから、移動時間が最短距離に比例するわけではないし、大雑把な方角すらわかりにくいのだ。

「ああ、それでしたら……」

「特に何もないな」

 せっかくパトリツィアが何か言いかけたのに、同時に答えたカールの言葉が被さってしまう。

 軽く睨むような目を、彼女は彼に向けた。

「そうやって早急に結論を出すのは、あなたの悪い癖ですよ」

「じゃあ何か? パトリツィアには見えてきた法則性がある、って言うのか?」

「それも早急な決めつけですね。まだ何もわからないからこそ、冒険者の方々と一緒に考えるんじゃないですか」

 パトリツィアは食べかけの皿を脇に寄せて、テーブルの上に一枚の紙を広げる。

 彼女が用意してきたのは、村の地図だった。

「見てください。ここが、あなたがたの泊まっている場所で……。それから……」

 まずは村の入り口に相当する広場に指を置いてから、パトリツィアは、これまでゴブリンが現れた場所を指し示していく。昨日と今日で案内してもらった公園や空き地だけでなく、昼食の後で見に行く予定の場所と、昨日の玩具屋も含まれていた。

「こうして見てみると、点在しているのね。どこか一つの地域に集中している、というのではなくて」

 クリスタの言う通り、地図で表すとわかりやすくなった。

 あのゴブリンは転移装置で村へ入ってきているのに、その近辺にばかり足を運んでいるのではなく、村中むらじゅうを歩き回っているらしい。

『おい、バルトルト。横を見ろ』

 言われて気づいたが、クリスタが僕の方へ、チラリと意味ありげな視線を送っている。

 何か目で合図しているようだが……?

『あの馬小屋の場所、口で言ったり地図で指さしたりするなよ、ってことだろ』

 ダイゴローが解説してくれたので助かった。

 僕は「わかりました」という顔をして、小さく頷いてみせる。

 昨日、転移装置のある馬小屋からの帰り道は、特に誰の案内もなく、僕たちだけで四苦八苦しながら宿屋へ戻る形だった。苦労したおかげで、あの場所が村の北の外れにあることは理解できたが、それをカールに知られるわけにはいかないのだ。彼は今朝「秘密の出入り口を叩き潰す」と言っていたくらいなのだから。

『その「秘密の出入り口」の存在を知られたのは、お前の失言のせいだもんなあ。そりゃあクリスタとしては、またドジ踏むんじゃないか、って心配になって釘刺すわけだぜ』


 カールもパトリツィアも地図に目を向けていたので、僕とクリスタのやり取りには気づかなかったらしい。

 パトリツィアは、話を先に進めていた。

「これまでの出現地点を線で結ぶと、意味のある図形になったりしません? 私たちにはわからないけれど、冒険者の方々ならば理解できるような、何かモンスターに関係ある図形とか……」

 彼女は面白い可能性を持ち出したが、僕たちの顔には苦笑いが浮かぶだけだ。改めて地図を見ても、残念ながら、そのような『意味のある図形』は浮かんでこなかった。

 そもそも、冒険者の知識の中にも『モンスターに関係ある図形』なんてものは存在していないのだ。少なくとも、僕が冒険者学院で教わった中には、思い当たるものは何もなかった。

 昨日の玩具屋を含めたら、出現ポイントは六箇所となる。あのゴブリンの背後に魔族が絡んでいると想像している僕たちにしてみれば、六つの点からなる図形として思い浮かぶのは、アーベントロートの魔族が持っていたペンダント。魔王の加護がある、と言っていたアイテムだ。

 また、昨日見つけた馬小屋の転移魔法陣も、六に関わる図形だった。どちらも線対称かつ点対称となるような図形だが、今回のゴブリンの出現ポイントを繋いでも、そのような整った形にはならなかった。

「ごめんなさい。私たちにも、意味は見出せないわ」

 僕たちを代表してクリスタが答えると、

「そうですか。でも、今は思いつかなくても、また後で何か気づくかもしれませんから……」

 パトリツィアは諦め切れないらしく、僕たちに地図を預けるのだった。

 六つの印を、わざわざ地図に書き込んだ上で。

   

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