こうして。
僕は暫定的にカトック隊の一員となり、彼女たちと共に『回復の森』の出口を目指すことになった。転移魔法で一気に外へジャンプするのではなく、地道に歩いていく形で……。
四人の女の子に囲まれて森を進むのは、なんだか緊張してしまう。
木々の間にあるのは、しょせん小道。だから、かなり寄り添って進むことになるのだ。気をつけないと、肩と肩がぶつかってしまう、というくらいだった。
密集状態のせいかもしれないが……。彼女たちを前にした時はそれほどでもなかったのに、こうして中に入ってみると、何だか甘い香りが鼻をくすぐる。若い女性特有のフェロモンなのだろう。
特に冒険者というものは、体を動かす分、汗をかく機会も多い。男ならば汗臭くなるところが、逆に女の子の場合、素敵な芳香になるのかもしれない。
『おう、おう。それって不満感じるポイントか? 贅沢な文句、言ってんじゃねえよ。両手に花、ってやつだ。万々歳じゃねえか』
からかうようなダイゴローの声が、脳内で鳴り響く。
確かに『両手に花』かもしれない。
彼女たちの中、と表現すると曖昧だが、厳密には前に二人、左右に一人ずつ、という配置だった。僕が後列で、しかも挟まれる格好なのは、保護対象という扱いだろうか。
あるいは、魔法が使える者を、後ろに固めたのだろうか。僕の両隣は魔法剣士のカーリンと魔法士のクリスタ、前列の二人は戦士のニーナとテイマーのアルマ、というパーティー構成なのだから。
ちなみに、後ろから見て初めて気づいたが、ニーナの背中には小斧が装着されていた。腰の剣と合わせると、武器が二つある形だ。
まあ、とにかく。
フォーメーションの意図が、どちらだとしても。
僕のドキドキ感は、同じことであり……。
気分転換がてら、チラッと左右に目をやって、改めて二人を観察することにした。
僕の左にいるのはカーリンで、イメージ的には『青』だが、髪は水色に近い。美しい光沢すら見せる、サラサラのストレートだ。長髪というには少し短いから、いわゆるセミロングなのだろう。やや長めのセミロング、という感じだ。
せっかく素敵な髪なのに、前髪はスパッと横一直線に切り揃えていた。まるで、髪型に無頓着な者が、自分で適当に切ったかのように。
顔立ちは面長で、部分的に目立つのは、少し吊り上った目尻。ぶっきらぼうな言葉遣いと合わせると「性格がきつそう」という印象にも繋がるが、むしろ「かっこいい」と受け取りたい。口数も少ないし、クール系美人ということだ。
着ているのは皮鎧で、水色と濃い青色のツートンカラー。胸ポケットがあるから、カトック隊の紋章はその中らしく、首には掛けていなかった。武器は剣ではなく槍であり、いつでも使えるよう、今も手にしている。
鎧は金属製ではなく皮製だから、それなりにスタイルはわかってしまうのだが……。カトック隊では背が高い方なのに、胸は最も小さいようだ。
本来『貧乳』は褒め言葉ではないが、カーリンには似合っているように思えた。スレンダー美人、と表現すればいいのかもしれない。
『なあ、バルトルト。お前、とりあえず美人って言葉を付けとけば問題ない、って思ってないか?』
そんなつもりはないが……。ダイゴローの声の調子から考えて、彼もカーリンを「きれいなお姉さん」と感じているらしい。
続いて、右を見れば『緑』のクリスタ。髪色からして緑であり、肩にかからない程度の長さで、ふんわりした髪型だ。
他にも、少しふっくらとした顔立ちとか、ずっと笑顔を浮かべているから細めに見える、タレ目気味な目とか……。まるで安らぎを絵にしたようで、彼女のイメージにぴったりだ!
スタイルとしては、背丈はカーリンと同じくらいだが、胸は平均的なサイズ。あきらかにカーリンより大きかった。
魔法士だから武器は持っていないし、鎧も着ていない。白い服の上に、緑色のローブを重ねている。フード付きだが被らずに後ろへ垂らしており、全体的に「優しいお姉さん」な印象の中、ここだけは可愛らしく思えた。
カーリン同様、星形ペンダントは見えない。ローブあるいは服のポケットに入れているのだろう。
『おい、あんまりジロジロ観察するなよ。あんまり見てると、気持ち悪がられるぞ』
ダイゴローの注意もあるし、年上のお姉さん二人に目を向けるのは、これくらいにしておこう。
前を歩く二人のうち、アルマの方は何度か振り向いてくるので、時々、僕と目が合う。
何か用事だろうか……?
疑問の色が、僕の顔に浮かんだらしい。答えるかのように、アルマが呟いた。
「えへっ。嬉しいなー。ついに私にも、後輩が出来たよー」
自己紹介では、アルマは十五歳と言っていたはず。三つ年下の女の子から、僕は後輩扱いされるのか……。
『気にすることないぜ。どうせ、一時的なパーティーだろ?』
脳内に鳴り響くダイゴローの言葉と、ほぼ同時に、
「アルマは、カトック隊の一番新しいメンバーなの。私たちのことを先輩として扱ってきたから……。今度は、あなたに対して先輩ぶりたいのね」
右から、クリスタの補足説明。彼女の笑みに釣られて、僕も頬が緩む。
「微笑ましい話ですね」
「ええ。見ての通り、可愛い子よ、アルマは」
クリスタはそう言っているが、前列では、ちょうどアルマがリーダーのニーナに注意されていた。
「ほら、ちゃんと前向いて、そっちに注意向けなさい。アルマが一番、モンスターを察知しやすいんだから」
「はーい!」
続いてニーナは、ついでのような勢いで、僕にも声をかけてきた。
「一応、キミに言っておくけど……。モンスターと遭遇したら、初戦は出し惜しみせず、全力で戦ってね」
他の者には言う必要のない、常識的な話、という口ぶりだ。
『初戦で全力……? その後のことも考えたら、体力とか魔力とか、なるべく温存するべきじゃないのか?』
ダイゴローは別の世界から来たはずだが、彼の考えは、僕と同じものだった。
「ええっと……」
「うん、もう少し説明しておくね。最初にジョブは聞いたし、使えるのは弱炎魔法、という話も聞いたけどさ」
ニュアンスとしては「それが使える」ではなく「それしか使えない」と言ったつもりだが……。
「でも、実際に見せてもらわないと、わからない部分もあるから。キミの力がわからないままだと、パーティーの戦い方として、どう組み込んでいいか、判断しにくいから。だから、見せてもらう。わかった?」
なるほど。
全力を出すのは、初戦限定の例外ということか。
今までエグモント団にいた頃は、新しいメンバーが入ってくることも、他のパーティーと共同で戦うこともなかった。だから、こういうのは想定していなかった。
ああ、経験豊富なパーティーは違うのだなあ。これでは、カトック隊の一人としてだけでなく、そもそも冒険者として『後輩』扱いされても納得だ。
そんなことを考えながら、頷く。
「はい、わかりました」
「あれ? 私、最初に『もっとフレンドリーに』って言ったよね?」
まさか、そこを注意されるとは……。
苦笑しながら、僕は言い直す。
「うん、わかった」
「よろしい。あと、私たちに任せるんじゃなくて、キミもキミなりに戦法を考えていいからね。こっちも初戦で、何が出来るか、ちゃんと見せてあげるから」
ちょうどニーナが、そう言い終わったところで。
アルマが大きな声を上げた。
「グッドタイミングだよ、ニーナちゃん! モンスターが来た!」
「あそこ! あの茂みの奥に、何匹か隠れてる!」
アルマが指し示したのは、進行方向のかなり先。がっしりと太い木々はないが、こんもりとした低木は多い、という辺り。小道の左側にある、緑の茂みだった。
その言葉を受けて早速、ニーナがリーダーとして指示を飛ばす。
「だったら……。あそこで迎え撃とう!」
もちろん今度の『あそこ』は、アルマが言った『あそこ』とは違う。ニーナが指差したのは、それより手前の、少しだけ道幅が広がっているところだった。
「反対意見、ないよね? それじゃ、決まり! みんな走れー!」
ニーナの号令に合わせて、一斉に動き始める女性たち。
それに遅れないよう、僕も走り出すのだった。
(挿絵として用いた画像は、それ用に上下の余白をカットしたものなので、こちらに未カット版を四人分まとめて掲載します。ヒロイン四人の身長差が反映されています)
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