転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第7話 捨てる神あれば拾う神あり(3)

公開日時: 2020年10月14日(水) 17:30
更新日時: 2023年5月6日(土) 15:45
文字数:3,260

   

 こうして。

 僕は暫定的にカトック隊の一員となり、彼女たちと共に『回復の森』の出口を目指すことになった。転移魔法で一気に外へジャンプするのではなく、地道に歩いていく形で……。


 四人の女の子に囲まれて森を進むのは、なんだか緊張してしまう。

 木々の間にあるのは、しょせん小道。だから、かなり寄り添って進むことになるのだ。気をつけないと、肩と肩がぶつかってしまう、というくらいだった。

 密集状態のせいかもしれないが……。彼女たちを前にした時はそれほどでもなかったのに、こうして中に入ってみると、何だか甘い香りが鼻をくすぐる。若い女性特有のフェロモンなのだろう。

 特に冒険者というものは、体を動かす分、汗をかく機会も多い。男ならば汗臭くなるところが、逆に女の子の場合、素敵な芳香になるのかもしれない。

『おう、おう。それって不満感じるポイントか? 贅沢な文句、言ってんじゃねえよ。両手に花、ってやつだ。万々歳じゃねえか』

 からかうようなダイゴローの声が、脳内で鳴り響く。

 確かに『両手に花』かもしれない。

 彼女たちの中、と表現すると曖昧だが、厳密には前に二人、左右に一人ずつ、という配置だった。僕が後列で、しかも挟まれる格好なのは、保護対象という扱いだろうか。

 あるいは、魔法が使える者を、後ろに固めたのだろうか。僕の両隣は魔法剣士のカーリンと魔法士のクリスタ、前列の二人は戦士のニーナとテイマーのアルマ、というパーティー構成なのだから。

 ちなみに、後ろから見て初めて気づいたが、ニーナの背中には小斧が装着されていた。腰の剣と合わせると、武器が二つある形だ。

 まあ、とにかく。

 フォーメーションの意図が、どちらだとしても。

 僕のドキドキ感は、同じことであり……。

 気分転換がてら、チラッと左右に目をやって、改めて二人を観察することにした。


 僕の左にいるのはカーリンで、イメージ的には『青』だが、髪は水色に近い。美しい光沢すら見せる、サラサラのストレートだ。長髪というには少し短いから、いわゆるセミロングなのだろう。やや長めのセミロング、という感じだ。

 せっかく素敵な髪なのに、前髪はスパッと横一直線に切り揃えていた。まるで、髪型に無頓着な者が、自分で適当に切ったかのように。

 顔立ちは面長おもながで、部分的に目立つのは、少し吊り上った目尻。ぶっきらぼうな言葉遣いと合わせると「性格がきつそう」という印象にも繋がるが、むしろ「かっこいい」と受け取りたい。口数も少ないし、クール系美人ということだ。

 着ているのは皮鎧で、水色と濃い青色のツートンカラー。胸ポケットがあるから、カトック隊の紋章はその中らしく、首には掛けていなかった。武器は剣ではなく槍であり、いつでも使えるよう、今も手にしている。

 鎧は金属製ではなく皮製だから、それなりにスタイルはわかってしまうのだが……。カトック隊では背が高い方なのに、胸は最も小さいようだ。

 本来『貧乳』は褒め言葉ではないが、カーリンには似合っているように思えた。スレンダー美人、と表現すればいいのかもしれない。

『なあ、バルトルト。お前、とりあえず美人って言葉を付けとけば問題ない、って思ってないか?』

 そんなつもりはないが……。ダイゴローの声の調子から考えて、彼もカーリンを「きれいなお姉さん」と感じているらしい。


 続いて、右を見れば『緑』のクリスタ。髪色からして緑であり、肩にかからない程度の長さで、ふんわりした髪型だ。

 他にも、少しふっくらとした顔立ちとか、ずっと笑顔を浮かべているから細めに見える、タレ目気味な目とか……。まるで安らぎを絵にしたようで、彼女のイメージにぴったりだ!

 スタイルとしては、背丈はカーリンと同じくらいだが、胸は平均的なサイズ。あきらかにカーリンより大きかった。

 魔法士だから武器は持っていないし、鎧も着ていない。白い服の上に、緑色のローブを重ねている。フード付きだが被らずに後ろへ垂らしており、全体的に「優しいお姉さん」な印象の中、ここだけは可愛らしく思えた。

 カーリン同様、星形ペンダントは見えない。ローブあるいは服のポケットに入れているのだろう。

『おい、あんまりジロジロ観察するなよ。あんまり見てると、気持ち悪がられるぞ』

 ダイゴローの注意もあるし、年上のお姉さん二人に目を向けるのは、これくらいにしておこう。


 前を歩く二人のうち、アルマの方は何度か振り向いてくるので、時々、僕と目が合う。

 何か用事だろうか……?

 疑問の色が、僕の顔に浮かんだらしい。答えるかのように、アルマが呟いた。

「えへっ。嬉しいなー。ついに私にも、後輩が出来たよー」

 自己紹介では、アルマは十五歳と言っていたはず。三つ年下の女の子から、僕は後輩扱いされるのか……。

『気にすることないぜ。どうせ、一時的なパーティーだろ?』

 脳内に鳴り響くダイゴローの言葉と、ほぼ同時に、

「アルマは、カトック隊の一番新しいメンバーなの。私たちのことを先輩として扱ってきたから……。今度は、あなたに対して先輩ぶりたいのね」

 右から、クリスタの補足説明。彼女の笑みに釣られて、僕も頬が緩む。

「微笑ましい話ですね」

「ええ。見ての通り、可愛い子よ、アルマは」

 クリスタはそう言っているが、前列では、ちょうどアルマがリーダーのニーナに注意されていた。

「ほら、ちゃんと前向いて、そっちに注意向けなさい。アルマが一番、モンスターを察知しやすいんだから」

「はーい!」

 続いてニーナは、ついでのような勢いで、僕にも声をかけてきた。

「一応、キミに言っておくけど……。モンスターと遭遇したら、初戦は出し惜しみせず、全力で戦ってね」

 他の者には言う必要のない、常識的な話、という口ぶりだ。

『初戦で全力……? その後のことも考えたら、体力とか魔力とか、なるべく温存するべきじゃないのか?』

 ダイゴローは別の世界から来たはずだが、彼の考えは、僕と同じものだった。

「ええっと……」

「うん、もう少し説明しておくね。最初にジョブは聞いたし、使えるのは弱炎魔法、という話も聞いたけどさ」

 ニュアンスとしては「それが使える」ではなく「それしか使えない」と言ったつもりだが……。

「でも、実際に見せてもらわないと、わからない部分もあるから。キミの力がわからないままだと、パーティーの戦い方として、どう組み込んでいいか、判断しにくいから。だから、見せてもらう。わかった?」

 なるほど。

 全力を出すのは、初戦限定の例外ということか。

 今までエグモント団にいた頃は、新しいメンバーが入ってくることも、他のパーティーと共同で戦うこともなかった。だから、こういうのは想定していなかった。

 ああ、経験豊富なパーティーは違うのだなあ。これでは、カトック隊の一人としてだけでなく、そもそも冒険者として『後輩』扱いされても納得だ。

 そんなことを考えながら、頷く。

「はい、わかりました」

「あれ? 私、最初に『もっとフレンドリーに』って言ったよね?」

 まさか、そこを注意されるとは……。

 苦笑しながら、僕は言い直す。

「うん、わかった」

「よろしい。あと、私たちに任せるんじゃなくて、キミもキミなりに戦法を考えていいからね。こっちも初戦で、何が出来るか、ちゃんと見せてあげるから」

 ちょうどニーナが、そう言い終わったところで。

 アルマが大きな声を上げた。

「グッドタイミングだよ、ニーナちゃん! モンスターが来た!」


「あそこ! あの茂みの奥に、何匹か隠れてる!」

 アルマが指し示したのは、進行方向のかなり先。がっしりと太い木々はないが、こんもりとした低木は多い、という辺り。小道の左側にある、緑の茂みだった。

 その言葉を受けて早速、ニーナがリーダーとして指示を飛ばす。

「だったら……。あそこで迎え撃とう!」

 もちろん今度の『あそこ』は、アルマが言った『あそこ』とは違う。ニーナが指差したのは、それより手前の、少しだけ道幅が広がっているところだった。

「反対意見、ないよね? それじゃ、決まり! みんな走れー!」

 ニーナの号令に合わせて、一斉に動き始める女性たち。

 それに遅れないよう、僕も走り出すのだった。

   

   

(挿絵として用いた画像は、それ用に上下の余白をカットしたものなので、こちらに未カット版を四人分まとめて掲載します。ヒロイン四人の身長差が反映されています)






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