転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第131話 モンスターな英雄(5)

公開日時: 2021年2月26日(金) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:12
文字数:3,463

   

 核心を突く質問だった。

 そもそもカーリンにしたところで、魔族とハッキリ言ってしまえば笑い飛ばされる、という判断から、あのような曖昧な言い方をしたのだろう。

 誰がどう答えるべきか。僕は黙って仲間の顔を見回し、

『少なくとも、お前がしゃしゃり出る場面じゃねえぞ。発言主であるカーリンか、パーティーの参謀役のクリスタか、リーダーのニーナか……。その辺りに任せておけ』

 と、ダイゴローもアドバイスを送ってくる。

 実際、彼は間違っておらず、口を開いたのはクリスタだった。

「その『あいつら』なんだけど……。あなたたち、魔族の存在って信じるかしら?」


 その場の誰もが言葉を失った。

 カトック隊の仲間たちは、クリスタが正直に告げたことに驚いたし、それ以外の者たちは、予想もしなかった言葉を耳にして、ぽかんと口を開ける者すらいる有様だ。

 そんな中、誰よりも早く言葉を取り戻したのは、

「村へ遊びに来るゴブリンがいるという、ただそれだけの問題だったのに……。ずいぶんと話のスケールが広がったな!」

「魔族なんて魔王と一緒で、子供のおとぎ話みたいな伝説ですけど……。冒険者の方々にとっては、違うのかしら?」

 カールとパトリツィアだった。冒険者同士の会話には参加せず、それまで黙って座っていたから、非常に存在感が希薄になっていた二人組だ。

 彼らの発言が呼び水になって、ドライシュターン隊の者たちも話し始める。

「魔族と来たか……」

「僕も全く予想してなかったよ」

「どうする、リーダー? 真面目に相手するのがバカらしくなってきたぞ」

 散々な言いようだが、これが世間一般の対応だ。仕方がない、と僕は思う。

 それは僕だけではないはずであり、魔族という言葉を持ち出したクリスタ自身、苦笑いを浮かべていた。

「じゃあ、少し聞き方を変えるわ。魔族そのものではなく、魔族を自称するモンスターだったらどうかしら? そういうのがいる、って信じられる?」


 今度は彼らも、絶句したり呆れたりしなかった。赤い戦士に至っては、むしろ笑みを浮かべるくらいだ。

「なるほど、面白いな。魔族を自称するモンスターか……」

 椅子の背もたれに体を預けて、腕組みをするその格好は、いかにも熟考しているという態度に見えた。

「おいおい、リーダー。こんな話、信じるのか?」

「自称した、ということは、そのモンスターはしゃべったのかな? あるいは、その時も、テイマーの子に通訳してもらった?」

「あら、鋭いわね」

 紺色ローブの魔法士の質問に対して、今度はクリスタが笑みを浮かべる。

「普通に人間の言葉で話していたのよ。だから最初、モンスターとは思わなかったのだけど……」

 クリスタは、アーべラインの『回復の森』で出会った『毒使いポイズン・マスター』について語った。まるで首なし騎士デュラハンのように、その怪人には顔がなかった、と。

「その時は、まだ魔族なんて話、一切出てこなかったの。でも……」

 続いて、アーベントロートの偽カトックの一件だ。最後に正体を明かした彼は、やはり首なし騎士デュラハンのように顔がなく、しかも自分たちは魔族だ、と言い出したのだった。

「その自称魔族が、メカ巨人ギガントゴブリンについても話していたのよ。仲間と共同開発したモンスターだ、って」


「ちょっと待ってくれ!」

 クリスタの話を聞き終えて、ドライシュターン隊の誰よりも先に、カールが騒ぎ出した。

「あんたたち、前に言ってたよな? この村をゴブリンが訪れるって問題は、アーベントロートのモンスター襲撃事件とは全く違う、って。でも今の話を聞く限り、背後にいる黒幕は似たような存在なんだろ? 魔族だか魔族を自称するモンスターだか知らないが、それこそ大変な脅威じゃないか!」

「そうでしたね。以前に曖昧な言い方をしたことは謝ります。でも……」

 一応は謝罪の態度を見せてから、クリスタは弁解を始める。

「……アーベントロートの場合は、村へモンスターを送り込んだ黒幕がいましたけど、クラナッハ村の場合、ギギちゃんが自発的に来ているだけでしょう?」

「今まではそう思っていたが、もうわからん。そういう黒幕がいるのであれば、あのゴブリンだって、尖兵として送り込まれているんじゃないのか?」

「ギギちゃんは悪いモンスターじゃないよ!」

 アルマが口を挟むが、クリスタは「抑えて、抑えて」というポーズを手で示してから、カールとの話を続けた。

「可能性としては、それも否定できませんけど……。だからこそ、ギギちゃんの住処すみかまで行き、その黒幕の意図を聞き出したいのです」


「なるほど、事情はわかった」

 黙って考え込んでいた赤髪の戦士が、ここで会話に復帰する。

「黒幕の問題があったから、あのギギというゴブリンに黒幕まで案内させたかったから、『まだ殺されては困る』という立場だったのだね」

「そういうこと。ついでに言っておくと、アーベントロートの事件でわかったのだけど……。どうやら連中は、私たちの尋ね人について、何か情報を持っているらしいの」

「ならば情報を引き出すまでは、その黒幕すら殺してほしくないわけだ。だが、聞くべきことさえ聞いてしまえば、あとはどうしようと構わないのだろう?」

「もちろんよ。私たちにとっても、倒すべき存在だわ」

 これで向こうのリーダーは納得したらしい。しかも、かなり好意的な解釈をしてくれていた。

「そういう話であるならば……。もしもモンスターの巣にギギみたいなゴブリンがいなかったとしても、少なくとも、その黒幕だけは確実にいるのだな?」

「その点は大丈夫よ。アルマがギギちゃんから聞き出したもの」

「ギギちゃんが言ってたよー。お父さんがいる、って!」

 アルマの言葉に、赤髪の戦士は表情を和らげる。

「『お父さん』か。いわばゴブリンの保護者、つまり責任者だな。ならばゴブリンそのものでなく、黒幕の方を退治するだけでも、オーラフさんを納得させられるだろう。ゴブリンが店を荒らしたのも黒幕が悪いのだ、ということで」


「そう言ってもらえると助かるわ。あなたたちを信頼して事情を全て明かそう、という私たちの判断、正しかったことになるもの」

 安心したような声を上げるクリスタ。

『いや「私たちの」じゃなくて「私の」だろ? 本来、それを決めるのはリーダーの役割なのに、クリスタの独断で手の内を明かしたんだからな!』

 ダイゴローは茶々を入れるが、本当は彼にもわかっているはず。ニーナが途中で止めなかった以上、クリスタの独断というより、ニーナに任されていたのだ、と。

 そのニーナが、

「じゃあ、決まりだね! ちょっと打ち合わせに時間かかっちゃったけど、その甲斐あったわ!」

 と、まとめるような言葉を口にするが……。

「最後にもう一つ、聞いていいかな?」

 紺色ローブの魔法士が、また質問を持ち出す。

「結局ダイゴローって人は、この件にどう関わってるの?」


「あら、言い忘れてたわね。ダイゴローは……」

 クリスタは、今度も正直に答える。

「……連中と対立しているらしく、それで連中が暗躍しているところに現れて、連中との戦いには首を突っ込むのよ」

「そうすると、その人も僕たち同様、魔族を倒したい側だね。それを聞いて安心したよ」

 せっかく今まで『黒幕』とか『連中』とか、ぼかした言い方をしてきたのに、魔族とハッキリ言い切ってしまう。

「もっと簡単な依頼のはずだったのに、魔族を相手にすることになるとはね。僕にも予想できなかったよ」

「いいじゃないか、冒険者同士で対立するより、この方が冒険らしくて面白いだろう?」

「リーダーの言う通りだぜ! 魔族だか何だか知らないが、とにかく強い怪物と戦えるのは大歓迎だ!」

 自分に気合いを入れるかのように、青い武闘家はパン、パンと、左の手のひらに右のこぶしを打ち付けていた。

 そんなドライシュターン隊の三人を横目で見ながら、カールとパトリツィアが小声で言葉を交わす。

「魔族なんて話、とても村の者たちには言えないが……。そんな連中、みんなに知られる前に、さっさと退治してもらいたいものだ」

「まったくですわ。あなたと意見が合うなんて、珍しいことですけどね」


 こうして。

 今まで意見が対立したり、交戦したりした者たちとも、対魔族で共闘できる雰囲気が生まれた。

 クリスタは先ほど、ドライシュターン隊に対して「モンスターの住処すみかまでは案内できない」と言っていたが、それは正確な場所を知らないから、という理由に過ぎない。問題の住処すみかを、一緒に探すのは可能なわけで……。

「じゃあ、今度こそ決まりだね! 今から早速、魔族のアジトへ乗り込もう!」

 カトック隊だけでなく、ドライシュターン隊も含めて先導する形で、ニーナが勢いよく立ち上がるのだった。

   

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