転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第43話 泉のひみつ(5)

公開日時: 2020年11月15日(日) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:17
文字数:3,362

   

 泉を迂回する形だとしても、長々と走る必要はなかった。ほんの少し、近づくだけで良かった。

『バルトルト! この距離なら、もう届くぞ!』

「おう!」

 相棒に力強く頷いて、僕は標的ターゲットを見据えた。


 ダイゴローに言われるまでもなく……。

 巨人ギガントゴブリンは、僕が初めて変身した時に戦ったモンスターだ。そして初めての経験は、何事であれ、強く印象に刻まれるものなのだろう。

 だから僕は、ハッキリと覚えていたし、理解も出来ていた。転生戦士ダイゴローとなった今、巨人ギガントゴブリン程度ならば、この位置からでも十分倒せる、と。

「行くぞ!」

 足は止めず、走り続けた状態で……。

 右に炎、左に氷。それぞれ違う魔力をイメージしながら、両腕をバツ字状に交差させる!

「ダイゴロー光線!」


 放たれた青白い光線は、少し渦を巻くようにしながら、獲物に向かって進んでいく。今回の標的ターゲットは、二匹の巨人ギガントゴブリンのうち、手前側にいる一匹だった。

 クリスタが魔法で、最初から攻撃し続けていた方なのだろう。その個体には、モザイク状の痕跡が残っていた。炎や雷撃で焦がされた部分だけでなく、魔法の石つぶてや氷による打撲傷も凍傷もあったし、やいばのように鋭い風で切られた傷もあったのだ。

 それだけのダメージを既に受けていた上に、横合いから突然、強力な破壊光線に襲われて……。

「ギ……?」

 絶叫する暇もなかった。

 塵と化すほど粉々に砕けて、モンスターは、跡形もなく消滅するのだった。


「あっ! あなたは、この間の……!」

 クリスタが真っ先に気づいて、こちらに向かって声を上げた。

 続いて、

「おお! やはり、お前は……! 神が遣わした戦士だったのか!」

 黒衣の怪人も反応を示している。なにやら意味深な発言だが、構っていられる状況ではなかった。

 僕は走り続けたまま、再び両腕をクロスさせる。

「ダイゴロー光線!」

 もう必殺技のゴリ押しだ。

 今度の巨人ギガントゴブリンは、魔法のダメージこそ少ないものの、代わりに斬撃による傷跡が多かった。

 カーリンが与えたダメージだ。特に膝から下に多いのは、そこまでしか槍が届かなかったというより、動きを止めるには足を狙うべき、という考えがあったのかもしれない。

 おかげで、巨人ギガントゴブリンの足運びは、わずかにもたついているようにも見えたが……。少なくとも一匹目とは違って、こちらの存在には、きちんと気づいたらしい。

「ガーッ!」

 雄叫びと共に、威嚇するような態度を示してきた。もちろん、破壊的な魔力が迫っている現状では、そのようなアクションが役に立つはずもなく……。

「ギエエエエエ!」

 ただ絶叫を上げるだけで、二匹目の巨人ギガントゴブリンもまた、光に飲まれて消滅するのだった。


「おお、その破壊力! やはり! やはり! お前もイレギュラーな存在か!」

 怪人の口調には、残念そうな気配は全くなかった。自分が呼び出したモンスター集団の中で、最強の二匹を葬られたはずなのに。

 むしろ逆に、感動しているかのような口ぶりで、僕を指し示している。

『まあ「感動」って言葉は、ポジティブな感情だけじゃなく、ネガティブな心の動きも含むからなあ』

 ダイゴローは実際に戦っているわけではないので、悠長な感想を述べている。

『少なくとも「神が遣わした戦士」とか「イレギュラーな存在」とか言ってる以上、俺たちのことを良く思ってないのは確かだぜ? 回復の泉と似たような扱いだろ?』

 そうした話は後回しだ。今は戦場にいるのだから、そちらに集中するべきで……。

 黒衣の怪人も、それは同じだった。転生戦士ダイゴローとして現れた僕の方へ、関心を向けている場合ではなかったのだ。

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ!」

 クリスタの超炎魔法が、怪人に襲いかかる。

 巨人ギガントゴブリンの足止めという役割から解放されたクリスタは、雑魚ゴブリン相手のニーナやカーリンに加勢するのではなく、敵の司令塔である――モンスターを操る能力を持つ――怪人を先に倒してしまおう、と考えたようだ。

 魔法の炎に包まれた黒ローブの怪人は、まるで松明たいまつだったが……。

「クックック……。ワシに人間の魔法は効かんぞ」

 不気味な声が、炎の中から聞こえてくる。

 その言葉通り、すぐに火は消えてしまい、中から現れた怪人には、火傷ひとつ残っていなかった。不思議なことに、怪人が着ていたローブすら燃えておらず、焦げた痕跡も皆無だったのだ。

『服を着ているように見えるが、あれも、あのバケモノの体の一部ってことだろ……』

 と、ダイゴローが分析している間に。

 怪人の発言に、もっと直接的な反応を示す者がいた。

「だったら、物理攻撃はどうかな?」


 ニーナが怪人に投げかけたのは、言葉だけではなかった。第二武器である斧も、ブーメランのように飛ばしていたのだ。

「クゥッ!」

 怪人の呻き声。不意打ちの投擲武器は、人外のバケモノでも避けられなかったらしい。怪人の脇腹には、ニーナの投げた斧が、グサリと突き刺さっていた。

「人間のくせに! 生意気なことを……!」

 癪に触るという感情をあらわにした怪人の声と、

「通用するのね!」

 ニーナの嬉しそうな叫びが重なる。

 彼女は雑魚モンスターの相手をやめて、怪人に向かって走り出した。ニーナとカーリンの奮闘により、もはや最下級のゴブリンも、かなり数が減っている。ならば直接怪人と戦える、と考えたのだろう。

 駆け込んだ勢いを乗せて、ニーナは剣を突き出して……。

「どう?」

「グォッ! 人間め……!」

 ニーナのやいばは深々と、怪人の腹に突き刺さった。

 しかも。

「俺も忘れるなよ」

 いつの間にか、カーリンが怪人の後ろに回り込んでいた。

 当然のように、ニーナと同じく、怪人を刺し貫いている。カーリンの槍は、怪人の背中から胸へと抜けて、心臓のある辺りを貫通していた。

 人間や動物のような真っ当な生き物ならば、一撃で致命傷だろう。バケモノである怪人には、人間のような臓器はないかもしれないが、それでも。

「お前たち……。ワシを殺すと後悔するぞ……」

 大きなダメージを負ったらしく、全身からバチバチと、小さな黄色の火花を発していた。見るからに危険な状態であり、

「危ない!」

「わかってる!」

 ニーナもカーリンも、サッと跳んで、怪人から離れるくらいだった。

「ワシが死ねば、ワシの眷属は制御コントロールを失って、暴走状態に……」

 遺言のように口走りながら、地面に倒れこむ。

 ちょうど大地に突っ伏したタイミングで、黒衣の怪人は、大爆発を起こすのだった。


 いくら人外のバケモノとはいえ、火薬の詰まった器具でもなければ、引火性の油で動く機械でもないのだ。怪人が爆発するというのは、僕にはピンと来ない現象だった。

 おそらく、ニーナやカーリンも同じだったに違いない。

 二人とも、怪人から距離を取っていたにもかかわらず、用心が足りなかった。その爆風で、吹き飛ばされていたのだ。

『それだけ爆発の勢いが激しかった、ってことだ。でも安心しろ、ただ飛ばされただけだ。爆発に巻き込まれたわけじゃねえ!』

 ダイゴローの言う通りだった。

「ううっ……」

 地面に倒れ込んで、呻き声こそ上げているが……。ニーナにもカーリンにも、大きな外傷はないらしい。二人とも、すぐに立ち上がろうとしていた。

「大丈夫そうね。よかったわ……」

 クリスタのホッとしたような声も聞こえる。

 しかし。

 戦いは、まだ終わっていなかった。


 最初と比べれば圧倒的に少なくなったし、そもそも最下級のゴブリンなんて、カトック隊にしてみれば大きな脅威ではない。

 だから、それらは物の数ではなく、もう無視してアルマを助けに――魔法で治療しに――行けるほどだったが……。

 雑魚ゴブリンとは別に、こいつが残っていた。

「ヴォヴォヴォヴォ……!」

 泉の中央に浮かぶ毒の怪物、ヴェノマス・キングだ。その鳴き声は忌々しい響きであり、耳を塞ぎたくなるくらいだった。

 今まで言葉や音を発することは皆無だったのに、怪人が死んだ途端に、この有様だ。怪人が言い残したように、コントロールを離れて、暴走気味なのかもしれない。

『いや、主人あるじを失って、嘆き悲しんでるんじゃねえのか? 怪物には怪物なりに、そういうのがあるんだろうさ』

 と、ダイゴローは怪物の心情を思いやるけれど。

 対峙する僕たちにしてみれば、感傷にひたっていられる余裕はなかった。

「ヴォヴォヴォヴォ……!」

 再び叫んだヴェノマス・キングは、全身から生えている毒の触手を伸ばして、攻撃してきたのだ!

   

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