転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第114話 ゴブリンは友だち(10)

公開日時: 2021年2月6日(土) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:08
文字数:3,229

   

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ! ヴェルフェン・アイス・シュテークスタ!」

 メカ巨人ギガントゴブリンの姿が見えた途端、クリスタは呪文を詠唱する。ニーナが指示を飛ばすより前の、一瞬の早業はやわざだった。

 しかも超炎魔法と超氷魔法、つまり、いきなり最大レベルの炎と氷を連発したのだ。

「グワッ?」

 攻撃を食らったメカ巨人ギガントゴブリンの足が止まる。とはいえ、クリスタの超炎魔法でも火達磨になることはなく、また超氷魔法で凍りつくこともなかった。

 メカ巨人ギガントゴブリンは強敵だ。『回復の森』で遭遇した際は、たった一匹のメカ巨人ギガントゴブリンのために、カトック隊は壊滅の危機を迎えたくらいだった。僕が駆けつけた時には、既にニーナとカーリンは倒れており、クリスタも防御魔法を展開させるだけで手一杯。転生戦士ダイゴローの力で、ようやく倒せたのだった。

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ! ヴェルフェン・アイス・シュテークスタ!」

 クリスタが再び魔法を連発する横で、カーリンが叫ぶ。

「ニーナ! ここはクリスタに任せてくれ!」

 とてもクリスタ一人で相手に出来るモンスターではないはず。カーリンは何を言い出すのだ、と僕は目を丸くするが、

「わかった! クリスタの指示に従う!」

 ニーナの返事で、自分の誤解に気づいた。

 クリスタの方針に任せるという意味だったらしい。


「俺もニーナと一緒に倒れていたから、実際に目で見たわけではないが……」

 カーリンが手短に説明する。

 メカ巨人ギガントゴブリンと戦う際のポイントは二つ。

 一つは、あちらに攻撃の隙を与えないこと。メカ巨人ギガントゴブリンの左腕から撃ち出される光弾は強力であり、防ぐにはクリスタの防御魔法が必要。だが、それでは防戦一方になってしまう。

 もう一つは、炎と氷のコンビネーションだ。メカ巨人ギガントゴブリンの特徴の一つが、体の大部分を覆っている頑丈な装甲だが、それも完璧ではないことが、前回の戦いで示されていた。

「私も覚えてるー! ダイゴローくん、あの鎧、そうやって壊してたよ! 最後は『ダイゴロー光線』だったけど!」

 アルマの言葉に、笑みを浮かべて頷くカーリン。

 どうやら前回のメカ巨人ギガントゴブリン戦は、僕が思っていた以上に詳しく、クリスタやアルマに観察されていたようだ。炎と氷を組み合わせた魔法拳の連打で金属装甲を脆くした、という点まで、見抜かれていたとは……。

「……以上が、再びメカ巨人ギガントゴブリンと出くわす可能性を想定して、クリスタから聞かされていた対処法だ」

 と、カーリンは説明を締めくくった。


「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ! ヴェルフェン・アイス・シュテークスタ!」

 短い作戦会議の間も、クリスタは魔法攻撃を続けていた。打ち合わせが終わったのを確認するかのように、彼女はチラリと、こちらに目を向ける。

 クリスタの合図に頷いて、ニーナが背中の斧を投擲。メカ巨人ギガントゴブリンに命中するが、表面の頑丈な金属装甲に弾かれて、ダメージを与えることは出来なかった。

 超炎魔法と超氷魔法を交互に浴びせても、ここまでの攻撃だけでは、メカ巨人ギガントゴブリンの装甲を脆くするには不十分だったらしい。

「まだまだ足りないね! みんな、クリスタに合わせて!」

 ニーナの号令に応じて、アルマはいつものように、鞭で地面を叩き始めた。メカ巨人ギガントゴブリン相手にどれほど効果があるか不明だが、やらないよりはやった方がいいだろう。

 そして『合わせる』の本命は、僕とカーリンだった。

「バルトルト! カーリン! 私と同じタイミングでお願い! まずは炎から!」

 というクリスタの声に呼応して、

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ!」

「ファブレノン・ファイア!」

 彼女と僕の呪文詠唱が重なった。

 弱炎魔法が一体となり、さらに威力を増した超炎魔法が、メカ巨人ギガントゴブリンに襲いかかる!

「グワッ!」

 モンスターの悲鳴に重なって、

「続いて氷! ヴェルフェン・アイス・シュテークスタ!」

「ヴェルフェン・アイス・シュターク!」

 今度は超氷魔法と強氷魔法の合体技が、メカ巨人ギガントゴブリンに直撃するのだった。


 クリスタが得意な系統は炎魔法のはず。だから同じ第三レベルの魔法でも、超炎魔法と超氷魔法とでは、威力に差があるのだろう。超炎魔法の方が、超氷魔法よりもまさっているのだ。

 一方、僕の弱炎魔法とカーリンの強氷魔法は、そもそもの魔法のレベルが違うように、炎の方が下。クリスタの炎や氷と合わせるには、バランス調整の意味でも、ちょうど良かったのかもしれない。

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ!」

「ファブレノン・ファイア!」

「ヴェルフェン・アイス・シュテークスタ!」

「ヴェルフェン・アイス・シュターク!」

 しばらくの間、僕たちは三人で協力して、炎と氷の連打を続けていた。メカ巨人ギガントゴブリンの鎧にほころびは現れないものの、目には見えずとも効果はあるはず、と信じて。

 少なくとも、こうして魔法攻撃でメカ巨人ギガントゴブリンを押し込んでおけば、モンスターの方から光弾を撃ってくる余裕はないようだった。

 しかし、僕たちの魔力だって無尽蔵ではないのだから、いつまでも続けるわけにはいかず……。

「そろそろいいかしら? 次で決めるわよ、カーリン!」

 クリスタが、堂々とした宣言を口にする!


「まずは炎!」

 改めて指示をするクリスタに合わせて、

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ!」

「ファブレノン・ファイア!」

 彼女と同調するように、僕は弱炎魔法を唱える。

 これだけならば、それまでと変わりはないが……。

「ヴェルフェン・アイス!」

 驚いたことに、同時にカーリンも呪文を詠唱していた。

 氷と炎は、交互に浴びせるべきであり、一緒くたにしては意味がないのに……?

 そう思って、僕は彼女の方に目を向ける。

 カーリンの弱氷魔法は、メカ巨人ギガントゴブリンに向けられたものではなかった。彼女の槍が冷気を纏っている。つまり、魔法槍だ!

「グワッ!」

 メカ巨人ギガントゴブリンが、それまでと同じように炎で焼かれた直後。

「ヴェルフェン・アイス・シュテークスタ!」

 クリスタが超氷魔法をはなったタイミングで、カーリンは走り出し……。

 モンスターの巨体に、氷の槍を突き出した!


 カーリンは槍使いだが、槍本来の刺突ではなく、剣のように斬撃を繰り出すことが多い。だが今回は『斬る』のではなく『突く』という使い方だった。

 しかも……。

「ハッ!」

 気合と共に突き出された槍。その攻撃は、一突きや二突きではなかった。僕の目では数えるのも難しいくらい、無数の突きを一瞬のうちに浴びせていたのだ。

『なるほどな。手数を増やそうと思ったら、斬るより突く方がいいってわけだ』

 悠長にダイゴローが解説する間も、僕の意識は、彼の声ではなく目の前の光景に向けられていた。

 これまでの炎と氷によるダメージの蓄積なのだろう。既に脆くなっていたとみえて、メカ巨人ギガントゴブリンの強固なはずの金属装甲は、カーリンの槍で突かれた場所から次々と崩れ落ちていく!

「ニーナ!」

 カーリンの呼び声が口から出た時には、既にその意を察して、ニーナはカーリンの横に駆け込んでいた。

「グワッ?」

 メカ巨人ギガントゴブリンの悲鳴が響く。

 ニーナの剣とカーリンの槍が同時に、モンスターの肉体に突き刺さったのだ。覆っていた装甲を失って、剥き出しとなった腹部に。

「二人とも、離れて!」

 さらにとどめとして、

「ブリッツ・シュトライク・シュターク!」

 クリスタの強雷魔法だ。

 強烈な雷を頭から浴びたメカ巨人ギガントゴブリンは、全身をビクンと震わせると、その場に倒れ込み……。

「グッ……!」

 鳴き声を最後まで口にすることも出来ずに、動かなくなる。

 メカ巨人ギガントゴブリンの最期だった。


 少しの間、僕たちは無言で、倒れたモンスターを見下ろしていたが……。

『今回のメカ巨人ギガントゴブリン……。せっかく出てきたのに、ひたすら「グワッ」って鳴いてただけで終わっちまったな。バルトルトが変身する必要もないとはなあ」

 ダイゴローに言われて、改めて実感する。

 かつての強敵、メカ巨人ギガントゴブリン。それも今では、カトック隊だけの力で倒せるようになったのだ、と。

   

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