転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第121話 ゴブリン討伐部隊(4)

公開日時: 2021年2月14日(日) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:10
文字数:3,161

   

「追いついたぞ! 今度こそ!」

 アルマとゴブリンを再び視界に捉えて、青い武闘家が、嬉しそうな声を上げた。

 一方アルマは、少しだけ振り返り、動揺の色を顔に浮かべる。

「ええっ? バルトルト君はどうしたのー?」

 ちょうど、そんな場面だった。

 転生戦士ダイゴローに変身した僕が、彼らのところに到着したのは。


 ただし、走って追いかけたわけではない。まだ戦いが始まる前という認識であり、瞬間移動テレポーテーションが使えたのだ。

 理想としては、ちょうど追う者と追われる者の中間くらいに出現して、立ち塞がるつもりだったが……。

 逃げるアルマとゴブリンも、追いかける武闘家も、僕の想定より先へ進んでいた。だから転移してもまだ、走る彼らの背中を目にする形になってしまった。

 アルマとゴブリン、それに追いつきそうな武闘家、さらに後ろから僕、という位置関係だ。

 ちょうど振り返ったために僕を視認したらしく、アルマが叫んだ。

「あっ! ダイゴローくん!」

 釣られるようにして、武闘家もこちらに目を向けるが、無言で一瞥しただけであり、すぐにまた前を向く。もちろん、彼の走るスピードが落ちることもなかった。

『おい、まずいぞ。このままじゃ……』

 心の中の相棒が何か言いかけるが、僕だってわかっている。だから阻止するための行動に出た。

「えいっ!」

 右手を前に突き出して、小さな火炎球を撃ち出したのだ。

 武闘家に直撃させるつもりはなく、その斜め前方に着弾する形だったが……。

 彼は、自分が狙われたと思ったのだろう。さすがに無視できないとみえて、足を止めて振り返った。

「何だ、お前は? こいつらの仲間か?」


 武闘家の浅黒い顔には、困惑の色が浮かんでいる。それでも、無駄に考え込むのではなく、既にこぶしを構えていた。

「それともあれか、俺が女子供を虐めているように見えたのか? 俺の獲物は、一緒にいるモンスターの方なんだが……」

 簡単に事情説明した上で、

「……どちらにせよ! 邪魔をするのであれば、実力で排除する!」

 ダッと地面を蹴って、向かってくる武闘家。

 一瞬で距離を詰めて、こぶしを繰り出してきた。

 僕は軽く体を傾けるだけでかわし、パンチをお返しする。

「ほう、その殴打! 俺にはわかるぞ! 最初は魔法を使ったが、お前、本当は武闘家だな?」

 青い武闘家はニヤリと笑いながら、こちらの一撃をける。

 セリフまで含めて、既視感のある展開だった。


 続いて彼は、左右のこぶしの連打。僕もその場に踏みとどまって、殴り合いに応じる形になり……。

「これだ! おのれの肉体を武器として、血湧き肉躍る戦い! これぞ武闘家の醍醐味だ!」

 嬉々とした彼の姿を目にするのも、先ほどと同じだった。

「いいぞ! 槍使いの女とも、へなちょこ拳士とも違う! もっと俺を満足させろ!」

 言葉だけではなく、打ち合うこぶしからも、相手の喜びが伝わってくる。変身前に戦った時とは、一撃の重みが違うのだ。

『こういうのを、バトルジャンキーって言うんだろうぜ。本来の目的、もう忘れてるんじゃないか? こいつ、ゴブリンを始末するためにアルマを追ってたのに』

 殴り合う僕の中では、ダイゴローが苦笑していた。

『へなちょこ拳士だとよ。さっきまでのバルトルトじゃ、物足りなかったらしい。今は充実してるみたいだから、うまく加減して相手してやれ』

 当然のように、ダイゴローも理解していた。僕が本気を出していない、ということを。


 先ほど武闘家が足を止めた際、その発言の中に「女子供を虐めている」という言葉があったが、むしろ今は、僕の方が弱いもの虐めをしている気分だった。

 まさか人間の冒険者相手に、転生戦士ダイゴローの力を使うことになるとは……。

『そういえば、前に俺も言ったよなあ。ギリギリまで頑張って、踏ん張って、それでもどうしようもない時だけ変身するのが変身ヒーローだ、って』

 ダイゴローと融合した翌日くらいだっただろうか。カトック隊の紋章を返そうと思って、一人で『回復の森』へ入っていった時の話だ。

 正式にカトック隊に加入するなんて思っていなかった頃であり、まだ魔族と戦うこともなかった頃だ。思い返してみると、あれから色々あったなあ、と感慨深い。

『おいおい、余裕だな?』

 そう。

 懐かしい気分にひたれるほど、心にゆとりがあった。

 頭では一ヶ月くらい昔のことを思い浮かべながら、体は意識せずとも自然に武闘家のパンチを捌いて、こちらからもこぶしを突き出していた。それも、相手にダメージを与えすぎないよう、手加減した上で。


 正直、こうして変身した状態で冒険者と戦うのは、なんだかずるをしているみたいで、罪悪感を覚える部分もある。

 でも元の状態では『へなちょこ拳士』扱いされたように、とても歯が立たないのだ。ならば仕方ないではないか、と自分に言い聞かせるしかなかった。

「いいぞ! いいぞ!」

 相変わらず、武闘家は嬉しそうだ。向こうが喜んでいることで、僕の罪悪感もわずかに軽くなる。

 少しの間、そうやって殴り合いを続けていたが……。

 相手の挙動に、微妙な変化があった。

「……!」

 その場で僕はジャンプする。

 転生戦士ダイゴローの、尋常ではない跳躍力だ。武闘家にしてみれば、一瞬こちらの姿が消えたように見えたかもしれない。

「なんと……!」

 驚く武闘家は、左脚一本で体を支えていた。右の回し蹴りを繰り出した直後だったのだ。

『一度見た技は二度と通用しない、ってやつだな。漫画やアニメでよく見るパターンだぜ』

 ダイゴローが面白がっているが、確かに、初見ならば食らっていたかもしれない。

 変身前の僕が近くの家の生垣に叩き込まれた、あの攻撃パターンだった。つい先ほど受けたムーブだっただけに、わかりやすかったのだ。

 三色スーツの転生戦士ダイゴローと先ほどのへなちょこ拳士が同一人物とは知らずに、武闘家は同じ攻撃を繰り返してしまったわけだが……。

 もしも変身前だったら、二度目でもけられなかっただろう。変身したことで動体視力や反射神経が向上しているからこそ、この蹴りを見切ることが出来たのだ。


「上か!」

 ようやく気づいた武闘家が見上げた時には、既に僕は落下の最中さいちゅう

 かつて初めて変身して巨人ギガントゴブリンと戦った時は、落下の勢いを乗せて、モンスターの眉間に蹴りを叩き込んだものだった。この武闘家相手にそこまでやるのは過剰だろうが、せっかく跳んだのに何もしないのは、もったいない気がする。

 僕は空中で体を捻って、向こうの十八番おはこを奪うかのように、回し蹴りを繰り出した!

『おおっ、ローリングソバットか! おいおい、こっちの方が単純な急降下キックより、よっぽどえげつないんじゃねえか?』

 今さら言われても遅いが、僕よりもダイゴローの判断が正解だったらしい。

「ぐおっ!」

 武闘家は両腕でガードしようとしたが、それでは僕の蹴りの勢いを殺すことは出来ず、体ごと思いっきり吹っ飛ばされていた。

 近くの民家の塀に、背中から叩きつけられている。頭からではないので、その点は先ほどの僕よりもマシだろうが、生垣ではなく石壁なのは、僕の時より痛そうだった。

『いいじゃねえか。ちょうど、やられたことをやり返した形だぜ』

 そんなつもりはなかったし、お返しにしては、少々やり過ぎたのではないだろうか。

 心配しながら、武闘家の様子を見てみると……。


「うう……。味な真似をしやがって……」

 痛みを振り払うかのように、頭を横に振りながら、ヨロヨロと立ち上がってきた。ダメージは負っているものの、大怪我はしていないようだ。

 僕はホッとして、彼が再び臨戦態勢を整える前に、チラリと遠くを見つめる。

 アルマとゴブリンは、かなり先まで逃げたらしい。姿は全く見えなくなっていた。

『もう十分、時間は稼げたようだな。だったら……』

 ダイゴローの言う通りだ。

 これ以上、無駄な戦いを繰り広げる意味はないだろう。

 だから僕は、

「あっ! こら、待て!」

 という武闘家の声を背に受けて、逃走し始めるのだった。

   

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